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3章.かすみ色メランコリー
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「…欲求不満。やりたい」
予定公演の全てをやり遂げ、休養のためにイギリスに残ることになったオリビアちゃんを除いて、メンバーやマネージャーさんたちと一緒に明日は日本に帰るという日の、夜。
しばらくお世話になったホテルのキッチンで夕食を終えた後、出立のための荷造りをしていたら、ふらりと現れたおたんこななせが徐に宣った。
ええっと、…
知らず知らずのうちに増えていた荷物を仕分けたり詰め込んだり、一緒に片付けてくれていた侑さんと、2人して固まる。
「えーと、…それは、俺にちょっと出とけって言ってるのか?」
数秒間の沈黙の後、先に立ち直った侑さんが尋ねた。
つまり。
それは、夫から妻への夜のお誘い、みたいな?
だからちょっと席外しといて下さい、お兄さん。みたいな??
ド直球な誘いに超高速で全身が熱に包まれる。
ど、どどど、どうしよう。動悸がドッキドキ。などと言っている余裕はない。
イギリス滞在中、ななせは毎晩私を抱きしめて眠った。
「お前のババ臭さには安眠効果があるんだよ」
横暴なななせは、こっちがどれだけドキドキしてるかなんてまるでお構いなしに、がんじがらめに抱きしめて、健やかに眠っていた。
本当に、文字通り、ただの抱き枕にして。
でも、まあ。
無防備なななせの寝顔を盗み見れるわけで、私にとっては至福の時間以外の何物でもなく、たとえ毎朝ベッドから蹴り出されようと、天使の寝顔に幸せと安らぎを感じていたことに間違いはないんだけど、…
遂に。
イギリス最後の夜にして妻のお務め!?
いやいやまあまあ。
他でもないななせの頼みとあれば私だって。
ななせに求められればやぶさかではないというか。
やだもう、ななせってば。
やっぱり、「うーちゃん」って、愛しのウニ子の「ウー」ちゃんだったんじゃ、…
「いや、逆。ちょっと外出て解消してくるから。今日は帰らないかもしれないってこと」
「え、…おいっ、ななせ!」
嬉しいような恥ずかしいような甘い期待に胸膨らませている間に、ななせがさっさとホテルの部屋から出て行こうとしている。
期待、瞬殺。
ちょちょちょ、ちょっと待たれ―――いっ!
「ななせっ、ちょっと待って! 妻の目の前で堂々と浮気宣言!? さすがにそれはどうかと思うよ!?」
動揺して鼻息が荒くなりながら、ドアの前に立つななせに全力でつかみかかった。
「…だって」
けれど、ななせは必死でつかまる私を上から下までしげしげと眺めると、哀れみの微笑みを浮かべた。
「お前じゃその気になんねえし」
どっかーんと天から岩屋が降ってきた。衝撃は計り知れない。天照大御神様もびっくり。
「ななせ、…」
そんな。そんなぁ、…
衝撃が強すぎて引き留める術を思いつかない。
「…まあ。寂しいんなら、お前も侑に磨いてもらえば? テクを上げれば俺もその気になるかもよ?」
「おいっ」
完全に打ちのめされている私に更なる追い打ちをかけるななせ。
もしかして、慰められてる!?
最低発言を咎める侑さんに耳を貸す風もなく、
「じゃ、せいぜい頑張れ」
なんか私を励ますと、ななせはさっさと部屋を出て行った。
ちょっと待って!! 何を頑張れ!?
浮気宣言した挙句、妻にも浮気を勧める夫ってなに!?
「…公言するだけ誠実と言うべきか、…」
さすがの侑さんも戸惑いを隠しきれないらしく、唖然として呟いた。
予定公演の全てをやり遂げ、休養のためにイギリスに残ることになったオリビアちゃんを除いて、メンバーやマネージャーさんたちと一緒に明日は日本に帰るという日の、夜。
しばらくお世話になったホテルのキッチンで夕食を終えた後、出立のための荷造りをしていたら、ふらりと現れたおたんこななせが徐に宣った。
ええっと、…
知らず知らずのうちに増えていた荷物を仕分けたり詰め込んだり、一緒に片付けてくれていた侑さんと、2人して固まる。
「えーと、…それは、俺にちょっと出とけって言ってるのか?」
数秒間の沈黙の後、先に立ち直った侑さんが尋ねた。
つまり。
それは、夫から妻への夜のお誘い、みたいな?
だからちょっと席外しといて下さい、お兄さん。みたいな??
ド直球な誘いに超高速で全身が熱に包まれる。
ど、どどど、どうしよう。動悸がドッキドキ。などと言っている余裕はない。
イギリス滞在中、ななせは毎晩私を抱きしめて眠った。
「お前のババ臭さには安眠効果があるんだよ」
横暴なななせは、こっちがどれだけドキドキしてるかなんてまるでお構いなしに、がんじがらめに抱きしめて、健やかに眠っていた。
本当に、文字通り、ただの抱き枕にして。
でも、まあ。
無防備なななせの寝顔を盗み見れるわけで、私にとっては至福の時間以外の何物でもなく、たとえ毎朝ベッドから蹴り出されようと、天使の寝顔に幸せと安らぎを感じていたことに間違いはないんだけど、…
遂に。
イギリス最後の夜にして妻のお務め!?
いやいやまあまあ。
他でもないななせの頼みとあれば私だって。
ななせに求められればやぶさかではないというか。
やだもう、ななせってば。
やっぱり、「うーちゃん」って、愛しのウニ子の「ウー」ちゃんだったんじゃ、…
「いや、逆。ちょっと外出て解消してくるから。今日は帰らないかもしれないってこと」
「え、…おいっ、ななせ!」
嬉しいような恥ずかしいような甘い期待に胸膨らませている間に、ななせがさっさとホテルの部屋から出て行こうとしている。
期待、瞬殺。
ちょちょちょ、ちょっと待たれ―――いっ!
「ななせっ、ちょっと待って! 妻の目の前で堂々と浮気宣言!? さすがにそれはどうかと思うよ!?」
動揺して鼻息が荒くなりながら、ドアの前に立つななせに全力でつかみかかった。
「…だって」
けれど、ななせは必死でつかまる私を上から下までしげしげと眺めると、哀れみの微笑みを浮かべた。
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「ななせ、…」
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