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3章.かすみ色メランコリー
08.
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「…反抗期の子どもだな」
侑さんの言葉に深く頷いた。
それな! って、実際に子どもを育てたことはまだないけども。
私と侑さんは二階席の端っこからリハーサル真っ最中のななせを見ていた。
ライブは2日連続で行われ、場所を変えて合計10公演が予定されている。初日は多々のトラブルがあったけど、二日目の今日はスタッフの皆さんも幾分リラックスしているような、
「ななせ、リヴィの話聞いてやってよ」
「は? 知るか。好きにしろよ」
逆にピリピリしているような、微妙な雲行きだ。
ななせのオリビアちゃんに対する背筋も凍るような冷たさは継続中で、マネージャーのスミスさんがホテルの部屋に謝罪に来て、今日は是非にと会場に入れてもらった。ななせ不機嫌の原因は春巻きの一件にあるという結論に達したらしい。
それでも極力、オリビアちゃんの目に入らないところに居るよう気を遣っているけど、当のオリビアちゃんは私なんかを気にしている余裕は全くなさそうに見える。
「今回の公演を終えたら、休養に入るよう説得するつもりです。お姉さんにはご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」
スミスさんは疲れた表情でそう言っていたけれど、遠目から見ても痛々しいほどオリビアちゃんは打ちひしがれている。本番は大丈夫なんだろうかと心配をしてしまうほどに。
「大丈夫だろ。ななせの隣に立つことを許される唯一の場所をあの女がみすみす手放すはずがない」
と、医師の侑さんは言うけれど。
「ステージで足を引っ張ったら追放する」
我がまま三昧のななせ王子がご所望されたローストビーフを焼いて、懲りずに差し入れに行くと、リハーサルを終えたななせはそう言い捨てた。楽屋にオリビアちゃんの姿はない。あんなに、鬱陶しいほどまとわりついていたのに。
「オリビアの休養には俺も賛成だな」
「ななせに依存し過ぎだし、メンタルのヤバさは正直目に余る」
サクくんと丈統くんも同意している。
ななせの切り替えの早さというか、切り捨ての鋭さは迷いがなさすぎて、少し怖い。
『…じゃあ。別れようぜ』
とりあえず保留になっているけど、やっぱり時が来たら私も要らないってなるんだろうか。
「つーちゃん、これ美味いね」
「は? お前勝手に食べんなよ。それは俺んだ」
「いいじゃん、そんな独占欲出さなくても」
「違うし。ウニ子の料理がウニってるだけだし」
「…ウニ子ねえ」
「そういやななせ、昔からマリモ好きだったよね」
「生まれ変わったらマリモになりたいとか言ってたな」
「…言ってねえよ。だいたいマリモはマリモでウニは関係ないし」
物思いにふけっていたら、メンバーさんがローストビーフをお召しになりながらマリモトークで盛り上がっていた。ローストビーフ、食べてもらえて良かった。我がまま王子のために作り方を調べまくって、牛肉他、必要な材料を買いに走り、作り始めたはいいけど、案外時間がかかる上に、2度ほど失敗して3度目の正直を持ち込んだ次第でして。
「もうお前は客席に居ろ。二階の一番後ろな」
密かに喜びに浸っていたら、ななせに楽屋から追い出された。
「ウニ丼にはしない」
一言、言い放ってから。
『不味かったら、お前をウニ丼にして食うぞ!?』
…それって、美味しかったって思っていいのかなあ。
「良かったな、つぼみ。俺はななせを診るために裏に戻るけど、…今日はななせの歌、聞けるかもな」
楽屋から客席まで付いてきてくれた侑さんが、肯定するように優しく笑って頭を撫でてくれた。
侑さんの言葉に深く頷いた。
それな! って、実際に子どもを育てたことはまだないけども。
私と侑さんは二階席の端っこからリハーサル真っ最中のななせを見ていた。
ライブは2日連続で行われ、場所を変えて合計10公演が予定されている。初日は多々のトラブルがあったけど、二日目の今日はスタッフの皆さんも幾分リラックスしているような、
「ななせ、リヴィの話聞いてやってよ」
「は? 知るか。好きにしろよ」
逆にピリピリしているような、微妙な雲行きだ。
ななせのオリビアちゃんに対する背筋も凍るような冷たさは継続中で、マネージャーのスミスさんがホテルの部屋に謝罪に来て、今日は是非にと会場に入れてもらった。ななせ不機嫌の原因は春巻きの一件にあるという結論に達したらしい。
それでも極力、オリビアちゃんの目に入らないところに居るよう気を遣っているけど、当のオリビアちゃんは私なんかを気にしている余裕は全くなさそうに見える。
「今回の公演を終えたら、休養に入るよう説得するつもりです。お姉さんにはご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」
スミスさんは疲れた表情でそう言っていたけれど、遠目から見ても痛々しいほどオリビアちゃんは打ちひしがれている。本番は大丈夫なんだろうかと心配をしてしまうほどに。
「大丈夫だろ。ななせの隣に立つことを許される唯一の場所をあの女がみすみす手放すはずがない」
と、医師の侑さんは言うけれど。
「ステージで足を引っ張ったら追放する」
我がまま三昧のななせ王子がご所望されたローストビーフを焼いて、懲りずに差し入れに行くと、リハーサルを終えたななせはそう言い捨てた。楽屋にオリビアちゃんの姿はない。あんなに、鬱陶しいほどまとわりついていたのに。
「オリビアの休養には俺も賛成だな」
「ななせに依存し過ぎだし、メンタルのヤバさは正直目に余る」
サクくんと丈統くんも同意している。
ななせの切り替えの早さというか、切り捨ての鋭さは迷いがなさすぎて、少し怖い。
『…じゃあ。別れようぜ』
とりあえず保留になっているけど、やっぱり時が来たら私も要らないってなるんだろうか。
「つーちゃん、これ美味いね」
「は? お前勝手に食べんなよ。それは俺んだ」
「いいじゃん、そんな独占欲出さなくても」
「違うし。ウニ子の料理がウニってるだけだし」
「…ウニ子ねえ」
「そういやななせ、昔からマリモ好きだったよね」
「生まれ変わったらマリモになりたいとか言ってたな」
「…言ってねえよ。だいたいマリモはマリモでウニは関係ないし」
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…それって、美味しかったって思っていいのかなあ。
「良かったな、つぼみ。俺はななせを診るために裏に戻るけど、…今日はななせの歌、聞けるかもな」
楽屋から客席まで付いてきてくれた侑さんが、肯定するように優しく笑って頭を撫でてくれた。
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