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1章.あめ色ハニームーン

11.

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「リヴィ、健気過ぎて泣ける」「ナナセ、考え直して」
「ナナくんが選んだ人に文句付ける気はないけど、リヴィと一緒になって欲しかった」
「リヴィほどナナセを愛してる人はいない」

最初から。
世間では、ななせの隣に立つのはオリビアちゃんと決まっていた。

遊び人のイメージが強いななせだったけど、音楽に対する姿勢は真摯で、だからこそ、ななせに見出されたオリビアちゃんが本命だと思われていた。ファンの間では二人は公認のカップルで、オリビアちゃんのシンデレラストーリー要素も、見た目の可憐さも相まって、この2人なら許せる、推せる、納得できる、お似合い、と応援されていた。

私は最初から邪魔者で、ななせの姉という立場を利用して巧妙に近づいた汚らわしい存在だった。汚い。不潔。気持ち悪い。ナナセに近づくな。

そんなファンの感情がねじ曲がって膨れ上がって暴走し、正義の制裁という名の元に顔に硫酸を浴びせられたこともある。

ななせの隣にいることを諦めようとしたこともあったけど。でも。

『お前もうどこにも行くなよ』

他の誰にも分かってもらえなくても、ななせが私を必要としてくれるなら。

『…頼むから。ここにいて』

もう絶対。何があっても。
ななせのそばにいるって決めた。

育ての家による強制結婚。恩返し結婚。政略結婚。

ななせが結婚を発表すると、同時にななせの実父が一大財閥企業グループのトップだったと発覚したこともあり、うがった見方をし過ぎたネガティブな見解も多くなされた。

でも。

『人生で好きになったのは彼女だけ』『彼女の存在には感謝しかない』
『毎日幸せ』『風呂で奥さんをいじめるのが最高に楽しい』

当のななせが私への気持ちを明言して、日常を包み隠さずに示したことで、

「ナナセ純愛」「一途」「こんな風に想われたい」
「ナナくん、幸せそう」「ナナセ、良かったね」

好意的に見てくれる人も増えた。

結局。
人の気持ちには正解も正義もないんじゃないかと思う。
本来、誰かを想うことは自由で。尊い。

「…話したいことがあるから会えないかっていうラインが、そう言えばオリビアから届いてて」

なんて、寛大なことを言っていられるのは、絶対的な愛情をななせが一途に与え続けてくれているからかもしれない。

「仕方ないから、他のメンバーと一緒に予定より早く英国入りして会ってこようと思うんだけど」

背中に触れていたななせの手がふいっと離れて私の頬を包む。

「…心配すんなよ?」

夜の名残を映すななせの澄んだ瞳が、真っすぐに私だけを見つめる。

「うん」

頷いたら、頬に手を添えたまま引き寄せられて、ななせの唇に辿り着いた。

「…待ってる」

ななせに息を絡めとられて、合間に伝えた言葉も飲み込まれた。

ななせのことは信じられる。
愛情は疑いようもないし、今更オリビアちゃんとどうこうなるとか心配してない。過去はどうあれ、浮気とかも考えられない。たとえ何があってもななせとなら大丈夫。お互いにとって唯一無二って分かってる。だから絶対に。

「ななせ、だいすき」
『行かないで』

大丈夫。何にも。ひとつも。不安になることなんてない。
なのにどうして。

胸が騒ぐのはオリビアちゃんに対する嫉妬? 羨望? 恐怖? だったら、我ながら心が狭いけど。

「だいすき、…」
『行かないで、ななせ』

何かを打ち消すようにななせにしがみ付いた。
何が怖いのか分からなくて、ただ、目の前のななせを必死で抱きしめた。
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