上 下
29 / 41
5章.さんかく片想い

01.

しおりを挟む
「ふぅむ、そうか。分かってしまったか」
「…うん」

カフェテリアでセレナと一緒にコウ先輩作成の切り干しハンバーグを試食する。切り干し大根のサークル実習は終わったんだけど、、リベンジに燃えるコウ先輩は連日切り干しアレンジにハマっていて、おかげでセレナは至極快腸なんだとか。

「え、これ美味しいっ‼ すごい、先輩。美味しいですっ」

ホテル差し入れの顛末から自分の気持ちがはっきり分かったという報告を、セレナにしていたところ、コウ先輩のハンバーグが美味し過ぎて横道に逸れる。

「うんうん、そうだろ。それ、豆腐と味噌とひじきが入ってるの。味噌と切り干しの甘さ、豆腐の旨味が絶妙にいいよなっ」

「うん‼ すごいです‼ これは品評会で絶賛されてたカルボナーラに勝るとも劣りませんっ‼」

コウ先輩に太鼓判を押すと、セレナが冷めた声でつぶやいた。

「そのレシピ、パクリだからね」
「セレナお前、言い方考えろよ。『彼を知り己を知れば百戦あやうからず』って言うだろ。いやあ、みんなホントよく考えるよな」

うんうんと頷いているコウ先輩に気づかれないように、

「オリジナルレシピの開発に限界を感じたみたい」

セレナがこそっと囁きかけた。

そうか、なるほどね。まあでもオリジナルにこだわらなくてもいいと思う。食材を美味しく楽しくいただければそれが一番だと思う。

ななせがナスを美味しく食べてくれるレシピ、見つけたいなぁ。

「…なんかすっきりした顔しちゃって。どうすんのよ? ななせくんに告白するの?」

頬を突いてくるセレナに首を横に振った。

「しないよ。先輩言ってたじゃん。まずは敵情を把握しないとさ。ななせ、好きな人がいるみたいだし、…」

それを考えると、どうにも切ないけど。
『彼女じゃねえよ』
ななせの好きな人、か。考えてみたら、私ななせのこと、全然わかってない。

「あんた、それでまた何十年も片想いするつもりじゃないでしょうね? 20代はあっという間に終わっちゃうんだからねっ」

セレナが耳元でキャンキャン喚く。

「…うん」

そこは素直に頷いた。
分かってる。想ってるだけじゃ何も始まらないって。
結局、創くんだって捨て身の告白をもって初めて本気で向き合ってくれたわけだし。

でも、今は自分の気持ちを認めただけで精一杯というか。
ななせのことをもっと知って、全力で応援できたらいいなあと思う。
勿論、ななせの一番近くに居たいとか、ななせに必要とされたいとか、いろいろ思いはあるんだけど。

そんなわけで、最近はずっとGalaxiesの音楽を聴いている。
突き抜けるようなオリビアちゃんの高音が耳に心地いいサウンドで、ななせのメロディと歌詞が胸に沁みる。ななせの音楽センスに改めて感動する。

目前に迫ったGalaxiesのドームライブ、物凄く楽しみなんだ。



ライブ当日は秋晴れだった。
澄み渡った空は雲一つなく、絶好の行楽日和だった。といっても、Galaxiesのライブは世情を鑑みてハイブリッド型ライブとして開催するらしく、観客は一部関係者に限定されているため、ドーム周辺に人の混雑は見られない。

「つーは晴れ女だな」

しかも開演時間は夕方だから、昼間から会場近辺に居ても仕方がないんだけど。

「先週も晴れたよな」

穏やかな秋の休日。家族連れ、カップル、友だち同士等で賑わいをみせるドーム近くのアトラクションに創くんが私を連れ出してくれた。そわそわして落ち着かなくて家に居られそうにない私を見越して。

創くんには、正直に伝えた。

「他に好きになってしまった人がいるから付き合えない」って。

でも。

「知ってるよ」

創くんは、まるで動じることなく優しく笑って、「今度は俺が追いかけるって言っただろ?」って大きな手で頭を撫でてくれた。

セレナには、「せっかく実ったのに勿体ない。つぼみは天性の片想い気質だな」って呆れられた。

人を変な括りにしないで欲しい。

私だって両想いになりたいよ。でも、好きな人に好きになってもらうのって世界で一番難しいことなんだよ。奇跡なんだよ。

だからせめて、好きな人の幸せを願える人になりたいんだよ。

パラシュートのアトラクションに乗り、シューティングゲームをして、ウォーターショーを観た。ランチをとって、散歩しながら雑貨巡りをして、カフェブレイクした。

ななせに会える夕方17:00。
やっとやっとドームに入れてもらえて、嬉しくて指定座席に駆け寄って座ったら、急に緊張してきて何度もトイレに立ってしまい、「まあ、落ち着け」創くんに笑われた。

開演時刻18:00。
会場の照明が一時全て消えて、Galaxiesの音が流れ始めたら、心臓がつかみ取られるようにきゅうっと締まって微塵も動けなくなった。五感の全てをステージに向ける。そこに立つ、ななせに。

色とりどりの光が降り注いで、会場に光の環が舞う。広い会場が息を止めて見守るステージにまばゆい光が放たれる。その光の中に、ななせがいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

最初に抱いた愛をわすれないで

悠木矢彩
恋愛
「余命一年の侯爵夫人」の夫、侍女視点です。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めのか
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。 さくっと読める短編です。 ※完結しました。ありがとうございました。 閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。 ご感想へのお返事は、執筆優先・ネタバレ防止のため控えさせていただきますが、大切に拝見しております。 本当にありがとうございます。

婚約破棄されまして(笑)

竹本 芳生
恋愛
1・2・3巻店頭に無くても書店取り寄せ可能です! (∩´∀`∩) コミカライズ1巻も買って下さると嬉しいです! (∩´∀`∩) イラストレーターさん、漫画家さん、担当さん、ありがとうございます! ご令嬢が婚約破棄される話。 そして破棄されてからの話。 ふんわり設定で見切り発車!書き始めて数行でキャラが勝手に動き出して止まらない。作者と言う名の字書きが書く、どこに向かってるんだ?とキャラに問えば愛の物語と言われ恋愛カテゴリーに居続ける。そんなお話。 飯テロとカワイコちゃん達だらけでたまに恋愛モードが降ってくる。 そんなワチャワチャしたお話し。な筈!

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

処理中です...