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「そんなに驚かないでよ」
慌てたように口元を手で覆われる。
若干気が弱そうで線が細めな年上男性。
今日は会社員風のスーツではなく、ラフなポロシャツにデニムパンツ姿。
最近見かけないと思ってたのに。
なんで家の前にいる!?
なんで家知ってるの!?
「彼氏をこんなに待たせるなんて、ここは悪い子だね」
口調は軽いのに、目は笑ってない。
怖い。怖すぎる。
数えるほどしか会ったことがない、超絶勘違いの緑川さん、…
何とか距離を取ろうと抵抗するのに、腕をつかんでいる力は思いのほか強く、ずるずる引きずられて、
「お仕置きが必要だね」
全身の毛が逆立つような薄ら気持ち悪いことを言われた。
生理的な拒絶反応が立ち昇る。
口を覆われた手のひらでさえ不快で、触れてほしくない。
どこかに連れ込まれたら終わりだ。
生存本能で緑川さんめがけて、渾身の力を込めて買い物袋を振り上げた。
「うっ、…」
顎あたりに人参か玉ねぎがヒットして、一瞬つかまれている腕の力が緩んだ。
その隙に腕を振りほどいて全力で逃げ出した。
「ここっ! 待てっ!」
すぐさま追いかけてくる。
私の足が遅いのか、緑川さんが速いのかわからないけど、すぐ背後に気配がある。
「ここっ」
なんで。
この人に名前呼びされなきゃいけないんだという理不尽さに怒りが湧いてくる。
千晃くんがっ、5年ぶりにっ、呼んでくれた名前だっていうのにっっ
無我夢中で通りを走って、注意を払わないまま交差点に飛び出したら、
横から歩いてきた人と出合い頭にぶつかった。
「だいじょ、…」
はずみで横ざまに転びそうになったところを、力強い腕に支え起こされた。
「…ここ?」
怒りと恐怖のせいか、ぶつかった衝撃が強すぎたのか、現実と妄想の区別がつかなくなったのか、…
目の前に、千晃くんがいる。
「偶然だね。この辺りなの?」
信じられない。千晃くんがいる。
「なんで逃げるんだ!? 彼氏の俺が、…っ!」
呆然と千晃くんを見上げていたら、緑川さんに追いつかれて肩口を強くつかまれた。
ぞわっとした嫌悪感が身体中に広がって、もう妄想でも何でもいいから、必死で千晃くんにしがみついた。
「失礼ですが」
瞬時に状況を察したらしい千晃くんが、緑川さんの手をつかんで肩口から離しながら、
「ここの彼氏は俺です」
私を腕の中にかくまってくれた。
「適当なこと言うなっ‼」
すっかり頭に血が上ってる風の緑川さんに、
見せつけるみたいに、
「ね、ここ? 好きだよ」
千晃くんが私にキスした。
慌てたように口元を手で覆われる。
若干気が弱そうで線が細めな年上男性。
今日は会社員風のスーツではなく、ラフなポロシャツにデニムパンツ姿。
最近見かけないと思ってたのに。
なんで家の前にいる!?
なんで家知ってるの!?
「彼氏をこんなに待たせるなんて、ここは悪い子だね」
口調は軽いのに、目は笑ってない。
怖い。怖すぎる。
数えるほどしか会ったことがない、超絶勘違いの緑川さん、…
何とか距離を取ろうと抵抗するのに、腕をつかんでいる力は思いのほか強く、ずるずる引きずられて、
「お仕置きが必要だね」
全身の毛が逆立つような薄ら気持ち悪いことを言われた。
生理的な拒絶反応が立ち昇る。
口を覆われた手のひらでさえ不快で、触れてほしくない。
どこかに連れ込まれたら終わりだ。
生存本能で緑川さんめがけて、渾身の力を込めて買い物袋を振り上げた。
「うっ、…」
顎あたりに人参か玉ねぎがヒットして、一瞬つかまれている腕の力が緩んだ。
その隙に腕を振りほどいて全力で逃げ出した。
「ここっ! 待てっ!」
すぐさま追いかけてくる。
私の足が遅いのか、緑川さんが速いのかわからないけど、すぐ背後に気配がある。
「ここっ」
なんで。
この人に名前呼びされなきゃいけないんだという理不尽さに怒りが湧いてくる。
千晃くんがっ、5年ぶりにっ、呼んでくれた名前だっていうのにっっ
無我夢中で通りを走って、注意を払わないまま交差点に飛び出したら、
横から歩いてきた人と出合い頭にぶつかった。
「だいじょ、…」
はずみで横ざまに転びそうになったところを、力強い腕に支え起こされた。
「…ここ?」
怒りと恐怖のせいか、ぶつかった衝撃が強すぎたのか、現実と妄想の区別がつかなくなったのか、…
目の前に、千晃くんがいる。
「偶然だね。この辺りなの?」
信じられない。千晃くんがいる。
「なんで逃げるんだ!? 彼氏の俺が、…っ!」
呆然と千晃くんを見上げていたら、緑川さんに追いつかれて肩口を強くつかまれた。
ぞわっとした嫌悪感が身体中に広がって、もう妄想でも何でもいいから、必死で千晃くんにしがみついた。
「失礼ですが」
瞬時に状況を察したらしい千晃くんが、緑川さんの手をつかんで肩口から離しながら、
「ここの彼氏は俺です」
私を腕の中にかくまってくれた。
「適当なこと言うなっ‼」
すっかり頭に血が上ってる風の緑川さんに、
見せつけるみたいに、
「ね、ここ? 好きだよ」
千晃くんが私にキスした。
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