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…責任。
責任、て、どういう意味だ?
高野チーフが出て行った給湯室の出入り口を眺めた。
チーフが置いて行ったモノクロスーツの上着からは、コーヒーの匂いと共に、高野チーフの匂いがした。
「ここちゃん。片付け終わったよ、大丈夫?」
スーツを握りしめたままぼんやりとしていたら、入り口にひょっこりとまりな先輩の姿が見えた。
「あ。…ありがとうございました」
慌てて姿勢を正した私を、小首を傾げながらまりな先輩がのぞきこむ。
「なんか、顔赤いよ? 高野チーフに怒られた?」
え。
意識したら、余計に身体中の熱が顔に集まってくるのを感じる。
『俺が責任取ってやる』
耳にこだまする低音ボイス。
いや。…いやいやいや。
何言ってんの、白黒パンダ。ホントパンダ。あくまでパンダ。
「大丈夫だよ、チーフ言うほど怒ってないから」
まりな先輩が優しく笑いかけてくれて、
「それ、チーフの上着? 染み抜きしとけって?」
ほとんど抱きしめていた高野チーフの上着を指した。
「あ。…そう、です」
そうだ。そうだよね。染み抜きして、クリーニングに持って行かなきゃ。
まりな先輩に頷いて、ぎくしゃくと動き出す。
「染み抜き剤の置き場所わかる? 手伝おうか?」
「…はい。大丈夫です。ありがとうございます」
高野チーフの上着は、自分で洗って返したいと思った。
「まりな先輩、ゴミ捨て完了です」
給湯室の入り口から可愛らしい声がして、栗色の髪を揺らした香恋ちゃんの顔がのぞいた。
「あのぅ、先輩。あの王子様みたいな方、どなたですか?」
両手を頬に当てて、香恋ちゃんが上体を傾ける。
天然可愛い女子だけが許される究極のポーズ。
「CEOとCOOの隣に座ってた人でしょ? 常盤千晃くんて言って、CEOが連れてきたアドバイザーらしいよ。若いけど、確かな実績を持った切れ者なんだって」
まりな先輩の言葉に香恋ちゃんが目を輝かせる。
「えー、すっごーい」
…すごいんだよ、千晃くんは。
何でもできるし優しいし、蹴つまずいてコーヒーをぶちまけている私には、本当は手の届かない人なんだよ。
「でも、狙うのは難しいと思うよ」
まりな先輩が何でもお見通しな顔をして、香恋ちゃんにそっとくぎを刺した。
「CEOのお嬢様と将来を約束してるんだって」
急激に暗闇に落とされて、胃が沈む。
視界が回る。震えが走る。
床が抜けたように足に力が入らない。
サラリとした黒髪美人の姿がよみがえった。
何か耳障りな音がすると思ったら、頭に響く自分の心臓の音だった。
座り込まないように、シンクの縁につかまった。
指先が震える。唇が震える。
将来を約束って。
でも、だって。
千晃くんは。千晃くんは、…
「まあ、あんな人がフリーな訳ないですよねー。でもあの人なら遊びでもいいなぁ」
「彼、見る目ありそうだから、無理じゃない?」
まりな先輩と香恋ちゃんの声が遠のいていく。
「ここちゃん、先戻ってるね」
まりな先輩に、上手く返事できたかどうかわからない。
しゃがみ込まないように立っているのが精いっぱいで、
「…佐倉先輩、って。何の役にたってるんですか?」
去り際に吐き出された香恋ちゃんの苛立たし気な言葉にも、何の反応も出来なかった。
責任、て、どういう意味だ?
高野チーフが出て行った給湯室の出入り口を眺めた。
チーフが置いて行ったモノクロスーツの上着からは、コーヒーの匂いと共に、高野チーフの匂いがした。
「ここちゃん。片付け終わったよ、大丈夫?」
スーツを握りしめたままぼんやりとしていたら、入り口にひょっこりとまりな先輩の姿が見えた。
「あ。…ありがとうございました」
慌てて姿勢を正した私を、小首を傾げながらまりな先輩がのぞきこむ。
「なんか、顔赤いよ? 高野チーフに怒られた?」
え。
意識したら、余計に身体中の熱が顔に集まってくるのを感じる。
『俺が責任取ってやる』
耳にこだまする低音ボイス。
いや。…いやいやいや。
何言ってんの、白黒パンダ。ホントパンダ。あくまでパンダ。
「大丈夫だよ、チーフ言うほど怒ってないから」
まりな先輩が優しく笑いかけてくれて、
「それ、チーフの上着? 染み抜きしとけって?」
ほとんど抱きしめていた高野チーフの上着を指した。
「あ。…そう、です」
そうだ。そうだよね。染み抜きして、クリーニングに持って行かなきゃ。
まりな先輩に頷いて、ぎくしゃくと動き出す。
「染み抜き剤の置き場所わかる? 手伝おうか?」
「…はい。大丈夫です。ありがとうございます」
高野チーフの上着は、自分で洗って返したいと思った。
「まりな先輩、ゴミ捨て完了です」
給湯室の入り口から可愛らしい声がして、栗色の髪を揺らした香恋ちゃんの顔がのぞいた。
「あのぅ、先輩。あの王子様みたいな方、どなたですか?」
両手を頬に当てて、香恋ちゃんが上体を傾ける。
天然可愛い女子だけが許される究極のポーズ。
「CEOとCOOの隣に座ってた人でしょ? 常盤千晃くんて言って、CEOが連れてきたアドバイザーらしいよ。若いけど、確かな実績を持った切れ者なんだって」
まりな先輩の言葉に香恋ちゃんが目を輝かせる。
「えー、すっごーい」
…すごいんだよ、千晃くんは。
何でもできるし優しいし、蹴つまずいてコーヒーをぶちまけている私には、本当は手の届かない人なんだよ。
「でも、狙うのは難しいと思うよ」
まりな先輩が何でもお見通しな顔をして、香恋ちゃんにそっとくぎを刺した。
「CEOのお嬢様と将来を約束してるんだって」
急激に暗闇に落とされて、胃が沈む。
視界が回る。震えが走る。
床が抜けたように足に力が入らない。
サラリとした黒髪美人の姿がよみがえった。
何か耳障りな音がすると思ったら、頭に響く自分の心臓の音だった。
座り込まないように、シンクの縁につかまった。
指先が震える。唇が震える。
将来を約束って。
でも、だって。
千晃くんは。千晃くんは、…
「まあ、あんな人がフリーな訳ないですよねー。でもあの人なら遊びでもいいなぁ」
「彼、見る目ありそうだから、無理じゃない?」
まりな先輩と香恋ちゃんの声が遠のいていく。
「ここちゃん、先戻ってるね」
まりな先輩に、上手く返事できたかどうかわからない。
しゃがみ込まないように立っているのが精いっぱいで、
「…佐倉先輩、って。何の役にたってるんですか?」
去り際に吐き出された香恋ちゃんの苛立たし気な言葉にも、何の反応も出来なかった。
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