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番外編. 稜

15. 【完結】

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「おい、うい! お前、なんてことを!」

部屋に上がった悠馬が一部始終を見て鬼の形相で飛んできた。

「早く離れろ。早く口を拭け」

俺の首にしがみつくういを引きはがそうと、ういの小さな身体に手を回す。

「やーだ」

ういがますます強く俺にしがみつく。

「お前、そこは、大きくなったらパパと結婚する!だろう?」

悠馬が本気で悔しそうな顔をしてういをのぞき込む。

「やー。パパきらいー」

ういが悠馬から顔を背ける。

「おい!」

ショックを隠し切れない悠馬に

「親と結婚できるわけないじゃん。無駄な夢見ない方がいいよ」

翔が追い打ちをかける。

「お前ーっ、ママと結婚するって言ってたくせに」
「ういは僕より聡明ってことだね」
「ゆいーっ、俺の味方がいない―――」

悠馬が部屋からにこやかに眺めていたゆいに泣きついた。

「ゆい。おかえり」

ういを抱いたまま、翔を連れて部屋に入る。

「稜さん。お邪魔します」

ゆいが俺を目に映して穏やかな笑顔を浮かべた。
その小さな頭を軽くなでた。

もちろん苦労もあるだろうが、
ゆいの笑顔は何気なくかけがえのない穏やかな日常をうかがわせた。

お前が幸せであることをいつも願ってる。

「うい。こっちで遊ぼう」
「はい」

翔とういがマンションの探索を始めた。

「なあ、うい。嫌いはどうかと思うぞ」

その後を諦めきれない様子の悠馬が続く。

「やー。パパとはあそんであげない―」

女の子ってませてて可愛いな。
あの悠馬がひとたまりもない。

「稜さん、昼飯にカボチャの残り使いますよ」
「好きにしろよ」

祐が姉夫婦の荷物を引き上げてから、キッチンでせっせと立ち働き始めた。

絶対、冷蔵庫の中身もキッチン事情も俺より詳しい。
こいつ、こんなに俺んとこに通い詰めてていいのかね。

「あ、祐。一緒にやる」

ゆいがキッチンに移り祐の隣に立つと、姉弟仲良く料理を始めた。

俺の日常は変わりなく緩やかに流れていく。

潰れそうに胸が軋んでも。
喪失感にさいなまれても。
眠れない夜が続いたとしても。

こんなにも心を動かす人に出会えたことに感謝している。

そして。


「りょおにいー」

悠馬と翔と三人で追いかけっこになっていたういが、俺の足にしがみついてきた。
柔らかくて温かい。愛しい女の子を抱き上げる。

「だいすきー」

ういが息を弾ませながら、唇を可愛らしくすぼめて俺にキスする。

「ありがとう。俺も好きだよ」

柔らかい髪を撫でながらキスを返すと、

「あ―――っ」

悠馬がこの世の終わりみたいな顔で俺たちを指さして飛んできた。

「うい! こら! お前なんてことを!」

「…俺、将来お前の息子になるかもしれないな」

悠馬に向かってうそぶくと奴は蒼白な顔で固まった。

「え、…マジで」

次いで絶叫。

「マジで―――っ!!」

…世界の歌声をムダ遣いするなよ。

ういが声をあげて笑いながら俺にしがみついてきた。
その愛しい体温を抱きしめる。


そして。

いつかまたこんな風に心から愛しく思える誰かに出会う
そんなあたたかい未来を想像するのも悪くない。
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