マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

5章. ゆい

machi.67

稜さんと家に向かって歩いていると、慌てた様子の祐と会った。

「姉ちゃん！」

祐はやや上ずった声で呼びかけた後、周囲を見渡して声をひそめた。

「…リナが来てる」

最初に感じたのは、心臓に爪をたてられたような痛み。
『消えてよ』冷たい憎悪のこもった声。
悠馬に命をかけたリナさん。
往来で引き倒されて殴りかかられた恐怖。

そして、羨望。
彼女は今、悠馬と一緒にいる。

本当は、心のどこかでまだ悠馬を待っていること、
知られているんだろうか…

私の動揺を見て取った稜さんが、私の手をそっと握った。

「ゆい。大丈夫だ」

私を勇気づけるようにつないだ手に力がこもる。
祐も励ますように私を見てうなずいた。

家の前にタクシーが停まっていた。
帰ってきた私たちの姿が見えたのか、
後部座席からサングラスをかけたリナさんと
落ち着いた感じのスーツ姿の男性が降りてきた。

男性がリナさんの背を押すようにして、２人が近づいてくる。

「初めまして。芸能事務所でリナのマネージャーをしています林博通はやし　ひろみちと言います」

林さんと名乗った男性が、無駄のないしぐさで名刺を渡してくれた。

「このたびは、リナがご迷惑をおかけいたしました。
どうしても、水村さんと直接話したいと、失礼を承知で伺いました。
話を聞いていただけませんか」

林さんが話す間、リナさんが後ろから私を見ていた。
私がうなずくと、林さんが優しい目でリナさんを促した。

「水村、ゆい、さん」

リナさんが私の前に立った。
そこにいるだけで、周りを圧倒するような輝きを放つ。
誰もが憧れる小さな顔、長い手足。白い肌。艶やかな髪。
整って華のある顔かたち。

「…嫌なこと、たくさんして、ごめんなさい」

細い声は、思いのほかはっきりと響いた。
昼下がりの住宅街で、リナさんがサングラスを外して、丁寧に頭を下げてくれた。