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4章. 悠馬

machi.55

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『ゆいは俺の家にいる』

結城稜と名乗った男は、帰宅準備を終えると、
地下駐車場のカブリオレに俺を乗せ、早々に病院を出た。

近くで見ると、ますます洗練された大人の魅力が漂っている気がする。

ゆいは、こいつの家にいる…

「…ゆいと、結婚、してないんですよね?」

そこだけははっきりさせたくて
俺が問いただすと、奴は意地悪く口の端をもたげ、

「俺はいつしてもいいと思っている」

横目で俺を見た。

なんだよ、その余裕は。

「翔も俺になついてるし」

俺の子だぞ!

俺が見るからに不機嫌な顔をしていたんだろう、
結城は少しだけ目を細めて

「でも、ゆいはしないだろうな」

寂しそうな笑みを見せると、

「ゆいは、お前でいっぱいだから」

そう付け加えた。

夜の街を車が滑りぬける。
ゆいが待つ家に向かって。

結城の想いが痛いほど伝わってきて、目を閉じた。

ゆい。
俺は、何から謝ればいい?

結城のマンションは居住者以外は厳重に警戒されていて、
後をつけてきた報道関係者も、足止めを食らったようだった。

結城に続いて広いエントランスを横切り、エレベーターに乗る。

ゆいに近づいていく。

結城が玄関のかぎを開けると、
こらえられずに駆け出した。

「ゆいっ!」

リビングのドアを開けると、ソファの前に、ゆいがいた。

ゆいまで3歩。

「なんで、…お前…!!」

ゆいを抱きしめた。
やっと。

俺の手をすり抜けてこぼれ落ちてしまった
たった一つだけの大切なものを
やっと、この胸に取り戻した。

ゆいは俺の腕の中にすっぽり入る。
小さくて、愛しくて、閉じ込める。

俺のゆい。

意地の悪い結城が、何か言いながらのぞき込んでくるけど、見せねー。
もう、誰にも見せねー。

ポケットに入れて持ち歩きたいってやつ。
まさに、あれだな。

ゆいが身じろぐから、慌てて腕の力を緩めた。

ゆいを見ると、わずかに目が赤かった。
ゆいは、俺の知らないところで、どれだけ泣いてきたんだろう。

「ゆい…、ごめん」

もろそうに見えて、意外と強くて、頑張り屋で、泣き虫…

ゆいのきれいな瞳が俺を映して、たまらない気持ちになる。
ごめんな。
お前を汚すのは、いつも俺だ…

ゆいが俺の服をつかむ。
それが可愛くて切なくて、またゆいを抱きしめた。
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