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3章. ゆい

machi.45

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「翔のお父さんだよ」

言ってから、震える唇を噛みしめた。

翔が居ればいいと言いながら、
本当はどこかで、翔と悠馬を会わせられる日を夢見ていたんだと思う。
悠馬が翔を受け入れてくれる日を夢見ていたんだと思う。

「抱いていいか」

悠馬が私から翔を抱き取る。こわごわ、抱きしめているのがわかる。

「柔らかいな」

悠馬が翔を抱きしめて目を閉じた。

「ゆい」

そして、片手で私を抱き寄せると、

「このまま、連れて帰りたい」

悠馬の広い胸の中に、私と翔を閉じ込めた。

「無理だな」

湯気の立つコーヒーを口にしながら、稜さんが冷静に言葉をはさむ。

「下は、マスコミで溢れてるだろうし、病院での騒動も撮られてる。だいたいお前、誰にも何にも説明してないんだろう」

悠馬は憮然として、私たちを抱えたままソファに座り込んだ。

「あー、…面倒くせぇな」

「だったら、ゆいは諦めろ」

稜さんが辛辣に言い放つ。

「な…、あんた別に、ゆいと結婚してる訳じゃないんだろ」

食ってかかる悠馬に、稜さんはあくまでも冷静に、

「結婚してるのは、お前だろう。
ちゃんと迎えにくるんじゃなきゃ、ゆいは渡せない」

言いきると、ふいに私の手をとり、指先にキスした。

「おいっ」

悠馬が私の手をつかみ返す。

「その小さな手を荒らして、お前の子どもを守りながら、どれだけ必死に生きてきたと思ってるんだ」

稜さんが、悠馬を見据えて、静かに言う。

「俺は認めない。ゆいを幸せにできるようになってから、出直してこい」

悠馬はその視線を受け止めて、

「…わかってる」

私の手を握りしめた。

悠馬は、責任を感じているんだろうか。
義務を果たそうとしているんだろうか。

悠馬が翔を受け入れてくれたから、
私は、それで十分なはず。
それ以上、望むべきじゃない。

だけど。

本当は。
本当は、許されるなら。

『子どもをだしにされたら、無下にできないよね』

週刊誌や世間が騒いでいるのは、真実だ。

私は、悠馬の結婚生活を破たんさせようとしている。
子どもという絶対的な存在を使って、
リナさんから悠馬を奪おうとしている。

本当は願ってる。
悠馬が私のそばにいてくれることを
本当はずっと願っている。

手を離したくない…
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