白き狼の寵愛【完結】

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Ⅰ.ユラの章【捕獲】

03.

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以来、ユラは屋敷の中でも誰にも会わないように細心の注意を払ってきた。

しかし、今まで書庫に誰かがいたことはなく、鉢合わせる危険性を考慮していなかった。

「待って、…待ってくれっ」

あろうことか、書庫にいた男性はユラを追いかけてきた。
ユラは必死で逃げたが、屋根裏に通じる階段の途中で男性に追いつかれ、後ろから抱き止められてしまった。

「私は決して怪しいものではありません。鷹小路たかのこうじ家の跡取り、鷹小路クリスと申します。父が懇意にしている花御門はなみかど伯爵が優れた蔵書をお持ちと伺い、拝見に参った次第です」

恐怖のあまり、ユラの耳にクリスの言葉は何も入ってこなかった。
こんなところを誰かに見られたら、外部の人間と接触したことが分かったら、どんな重い罰を受けるだろう。

「…離してください」

必死で逃れようとするユラをクリスは優しく抱きすくめた。

「どうか、…どうか、怯えないで」

恐怖に混乱するユラに、クリスが優しく囁きかける。

「あなたは花御門伯爵の深窓の令嬢、ユラ様ですね? 噂通り、…いや、噂以上の美しさだ。あなたのように美しい方を私は見たことがありません」

「…離してください」

必死で訴えかけるのに、クリスは全く放してくれない。
感極まった様子でとうとうと語りかけ、震えるユラをなだめるように撫で擦った。

「明日、また書庫で会いましょう。正午に降りていらしてください。あなたともっと話がしたい」

一通り語るべきことが終わったのか、クリスはようやく腕の力を緩めた。が、瞬時に立ち去ろうとするユラの手を取り、

「約束です。あなたに会えるまでずっと待っています」

そっと手の甲に唇を寄せた。

ユラはすぐさま手を引き抜き、後も振り返らず一目散に屋根裏に駆けあがると、部屋に入りベッドに潜って布団にくるまった。

怖い。
震えが止まらない。

あの人は誰かに自分のことを話すだろうか。継母の耳に入ったら、…

ユラはひどい動悸に襲われ、涙に暮れ、震えながら布団に伏せった。

「お嬢様、お身体の調子でも悪いのですか」

アンリが運んでくれたわずかばかりの貴重な食事も喉を通らない。

食事抜きはまだ良い方で、鞭打ちか、地下の冷蔵室に閉じ込められるか。そういえばまだ幼いころには、極寒の雪の中、肌着だけで家を追い出されたこともあった。寒くて、怖くて、痛くて、惨めな、…

動悸と震えはおさまらず、恐怖に怯え、眠れないまま朝を迎えた。翌日はベッドから一歩も出られなかった。

ユラの部屋には鍵がない。
いつでも誰でも好きに部屋に押し入ることが出来る。

正午が近づくにつれ、今しも誰かが部屋に押し入ってくるのではないかと恐怖は募るばかりだった。

もし誰かが来たら、窓から飛び降りよう。
屋根裏部屋の窓にはユラが逃げないよう、補強と偽って外から格子状に板が打ち付けられているが、細身のユラはその隙間を通り抜けられるのだった。
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