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hage.116

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リツキがイタリアのプロサッカーチームに入る。

ということは。

夏になっても帰ってこない。
来年になってもリツキはいない。
再来年も、その先も、ずっとリツキと離ればなれ…

「アイ。…ちょっと、待て」

新たな涙が頬を伝うのを感じた。

そうだ、待て、オレ。
これはすごいことだ。リツキにとってすごいことだ。
だったら泣くのはおかしい。

おかしい。

「よっ、…よかったな、すげーじゃんっ!」

ここは祝福するところだろ。
喜ばなきゃおかしいだろ、オレ!

「お前が試合とか出て、テレビ中継とかされたらさ、オレ、ちょー自慢するし!こいつとずっと幼なじみで、子どものころは一緒にサッカーしてたとか、付き合っちゃったこともあるんだぜとか、…っ」

泣かないように必死でしゃべってたら、リツキが強引に唇に割り込んできた。

なんで。

怒ったみたいなキスなのに、泣きたくなるほど胸が締め付けられるんだ。

「だから、違うって!」

リツキがオレの両頬を挟んで、触れそうな距離のままオレの目をのぞきこむ。

「だから、…っ」

リツキの息が触れる。
涙の膜の向こうでリツキの瞳が揺れている。

やべー、泣く。
リツキを応援したいのに、懲りずにオレは。

「…結婚して」

涙が落ちた。

「…はあ?」

涙と一緒に間抜けた声をあげたオレに、若干顔が赤くも見えるリツキが、噛みつくようにキスして、オレの頭を抱え込んだ。

「だからっ!…俺と一緒にイタリアに来いよ」

リツキの腕の中で窒息しそう。
視界を閉ざされて、リツキの鼓動だけを感じる。

早い、気がする。
その早さが、…愛しい。

 「俺はまだ何にも持ってない高校生だし、成功するか分かんねえし、自分のことだけで精いっぱいで、お前に何にもしてやれないけど、…っ」

言って、リツキがオレの肩をつかみ、オレの顔をのぞきこむ。

「そばにいて、アイ。俺、やっぱりお前がいないと…」

少し眉根を下げたリツキが切なくて愛しくて、

「なんも出来ねえ」

珍しく弱気な唇に、思わずキスした。

「…いいよ」

オレの答えなんて決まってる。
リツキがオレを必要とするなら、オレは。

「お前、…」

リツキがまじまじとオレを見てから、絞め殺すつもりかって勢いでオレを抱く。

…苦しい。

「バカじゃねえの?ちゃんと考えろよ。お前はイタリアに知り合いなんていないんだし、家族とも友だちとも別れなきゃだし、言葉の壁はあるし、学校探したり、将来のこと考えたり、…そんなの、どう考えても無謀だろ」

リツキの腕に力がこもる。
こいつ、矛盾してね?

「俺はどうせ練習漬けで、寮生活で、お前に構ってやれねえし、…分かってるんだよ。お前のこと考えたら、こんなの間違ってるって」

リツキの声が、揺れて聞こえる。

「お前を自由に、…してやんなきゃ、って」
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