上 下
116 / 118

hage.116

しおりを挟む
リツキがイタリアのプロサッカーチームに入る。

ということは。

夏になっても帰ってこない。
来年になってもリツキはいない。
再来年も、その先も、ずっとリツキと離ればなれ…

「アイ。…ちょっと、待て」

新たな涙が頬を伝うのを感じた。

そうだ、待て、オレ。
これはすごいことだ。リツキにとってすごいことだ。
だったら泣くのはおかしい。

おかしい。

「よっ、…よかったな、すげーじゃんっ!」

ここは祝福するところだろ。
喜ばなきゃおかしいだろ、オレ!

「お前が試合とか出て、テレビ中継とかされたらさ、オレ、ちょー自慢するし!こいつとずっと幼なじみで、子どものころは一緒にサッカーしてたとか、付き合っちゃったこともあるんだぜとか、…っ」

泣かないように必死でしゃべってたら、リツキが強引に唇に割り込んできた。

なんで。

怒ったみたいなキスなのに、泣きたくなるほど胸が締め付けられるんだ。

「だから、違うって!」

リツキがオレの両頬を挟んで、触れそうな距離のままオレの目をのぞきこむ。

「だから、…っ」

リツキの息が触れる。
涙の膜の向こうでリツキの瞳が揺れている。

やべー、泣く。
リツキを応援したいのに、懲りずにオレは。

「…結婚して」

涙が落ちた。

「…はあ?」

涙と一緒に間抜けた声をあげたオレに、若干顔が赤くも見えるリツキが、噛みつくようにキスして、オレの頭を抱え込んだ。

「だからっ!…俺と一緒にイタリアに来いよ」

リツキの腕の中で窒息しそう。
視界を閉ざされて、リツキの鼓動だけを感じる。

早い、気がする。
その早さが、…愛しい。

 「俺はまだ何にも持ってない高校生だし、成功するか分かんねえし、自分のことだけで精いっぱいで、お前に何にもしてやれないけど、…っ」

言って、リツキがオレの肩をつかみ、オレの顔をのぞきこむ。

「そばにいて、アイ。俺、やっぱりお前がいないと…」

少し眉根を下げたリツキが切なくて愛しくて、

「なんも出来ねえ」

珍しく弱気な唇に、思わずキスした。

「…いいよ」

オレの答えなんて決まってる。
リツキがオレを必要とするなら、オレは。

「お前、…」

リツキがまじまじとオレを見てから、絞め殺すつもりかって勢いでオレを抱く。

…苦しい。

「バカじゃねえの?ちゃんと考えろよ。お前はイタリアに知り合いなんていないんだし、家族とも友だちとも別れなきゃだし、言葉の壁はあるし、学校探したり、将来のこと考えたり、…そんなの、どう考えても無謀だろ」

リツキの腕に力がこもる。
こいつ、矛盾してね?

「俺はどうせ練習漬けで、寮生活で、お前に構ってやれねえし、…分かってるんだよ。お前のこと考えたら、こんなの間違ってるって」

リツキの声が、揺れて聞こえる。

「お前を自由に、…してやんなきゃ、って」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夏の決意

S.H.L
青春
主人公の遥(はるか)は高校3年生の女子バスケットボール部のキャプテン。部員たちとともに全国大会出場を目指して練習に励んでいたが、ある日、突然のアクシデントによりチームは崩壊の危機に瀕する。そんな中、遥は自らの決意を示すため、坊主頭になることを決意する。この決意はチームを再び一つにまとめるきっかけとなり、仲間たちとの絆を深め、成長していく青春ストーリー。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

リセット

桐条京介
青春
六十余年の人生に疲れた男が、ひょんなことから手に入れたのは過去へ戻れるスイッチだった。 過去に戻って、自らの人生をやり直す男が辿り着くゴールは至上の幸福か、それとも―― ※この作品は、小説家になろう他でも公開している重複投稿作品になります。

坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】

S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。 物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。

曙光ーキミとまた会えたからー

桜花音
青春
高校生活はきっとキラキラ輝いていると思っていた。 夢に向かって突き進む未来しかみていなかった。 でも夢から覚める瞬間が訪れる。 子供の頃の夢が砕け散った時、私にはその先の光が何もなかった。 見かねたおじいちゃんに誘われて始めた喫茶店のバイト。 穏やかな空間で過ごす、静かな時間。 私はきっとこのままなにもなく、高校生活を終えるんだ。 そう思っていたところに、小学生時代のミニバス仲間である直哉と再会した。 会いたくなかった。今の私を知られたくなかった。 逃げたかったのに直哉はそれを許してくれない。 そうして少しずつ現実を直視する日々により、閉じた世界に光がさしこむ。 弱い自分は大嫌い。だけど、弱い自分だからこそ、気づくこともあるんだ。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

はじまりのうた

岡智 みみか
青春
「大丈夫よ。私たちは永遠に、繰り返し再生するクローンなんだもの」 全てがシステム化され、AIによって管理されている社会。スクールと呼ばれる施設に通い、『成人』認定されるため、ヘラルドは仲間たちと共に、高い自律能力と倫理観、協調性を学ぶことを要求されていた。そこへ、地球への隕石衝突からの人類滅亡を逃れるため、252年前に作りだされた生命維持装置の残骸が流れ着く。入っていたのは、ルーシーと名付けられた少女だった。 人類が知能の高いスタンダード、人体再生能力の高いリジェネレイティブ、身体能力の優れたアスリート種の3種に進化した新しい世界の物語

処理中です...