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hage.112

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『…耐えられないのは、俺だな。
お前に1年も触れないのは、…ちょっと、キツイな』

なんでか、リツキが泣いてる夢を見た。

勝手に心変わりして、オレを捨てたくせに、引きこもってたオレよりよっぽど辛そうで、胸がきしんだ。

いいよ、リツキ。

お前が幸せなら、オレの未来にお前がいなくても。

だから、笑ってろよ。
いじわるに偉そうに、いつもみたいに笑っててよ。

「ほんっとに、バッカじゃないですか!?」

夢なのに、胸が痛くて切なくて、まぶたも頭もズキズキするオレに、鬼のような罵倒が降ってきた。

「ちょ、ちょ、ちょっとミクちゃん!謝りにきたんじゃないの?!」

聞き慣れた暑苦しい声が慌てている。

面倒くせーヤツらが来たな、オイ。

こいつらのために目を開けることさえダルい。

「そうですよ。このあたしがやっと諦めたのに、何やってんですか、この人は!」

西本ミク、鼻息荒いし。

「…本多はモテるからさ、美女と並んでても当然っていうか、むしろチビザルより似合うっていうか、そもそもチビザルとの組み合わせが、今世紀最大の謎っていうか、…」

てめー、サオトメ!黙って聞いてりゃ言いたい放題過ぎんだろっ

「それは、あたしも思いますけど」

納得すんなよ、西本ミク!

「…うるさいっスよ」

傷心のオレに配慮はねーのか。

「ちょっと、アイ先輩!なに、のん気に寝てるんですか!?リツキ先輩、イタリア美女と真冬のデートですよ!恋のアバンチュールですよっ!?」

もはや猫をかぶる気もないらしいデビルニシモトが吠える。

ってか、お前に言われたくねーし。

「お前、関係ねーだろ。さんざん人に嫌がらせしといて。…まあ、殴ったのはオレがわりーけど」

横目に伺うとさすがにバツの悪そうなニシモトは、もとのきれいなマシュマロ顏で、殴った痕はどこにも見られなくて安堵した。

「嫌がらせしたこと、…謝ります。ネックレス盗んだりして、カズマさんも巻き込んで、…やり過ぎました。もうしません。リツキ先輩に、殺されるかと思ったし」

初めて、しおらしいニシモトを見た。
そしてなぜかデレる早乙女カズマ。頭ん中、お花畑だな、コラ。

「アイを傷付けたら殺す、って、…本気でした。あんな怖い人見たの、初めてです。実際、窒息するかと思いました」

何を思い出したのか、若干青ざめているニシモトの肩を、えらく誇らし気に早乙女先輩が抱く。

いや、エバるとこじゃねーだろ、お花畑っ

「ともかくっ」

言って、ニシモトは肩に添えられた早乙女先輩の手を握りしめた。

…お花畑、許容か、ニシモト。

「リツキ先輩にはアイ先輩しかいないって嫌ってほどよく分かったんです!だから、あたしも諦めて2人の幸せを願ってるんです!」

なんか怒られてる気がすんだけど、感謝すべきなのか、ここは?

「なのに、今さら他のオンナに譲るとか、そんなの絶対許しませんからっ!!」

えらい剣幕のニシモトだけども。
ちょっと待て。

リツキと別れんのにニシモトの許可はいらなくね?

だけど。

「リツキ先輩は、アイ先輩のためなら何でもしますよ?アイ先輩は違うんですか?」

ニシモトの口調が必死で。

「アイ先輩がいなくても、リツキ先輩が幸せだと思ってるんですか?」

こいつだってネジくれてたけど本気でリツキを想ってたって伝わってきて。

「このまま諦めて、リツキ先輩を失って本当にいいんですかっ!?」

なんでか、励まされた気がした。

「あー、チビザルよ。諦めたら終わりだぞ」

この物言いはどうかと思うけど、まあ、早乙女先輩なりにオレを心配してくれているんだろう。

「ニシモト、チビ猫によろしく言っといて。先輩、青春バンザイっスね」

起き上がって、保健室を出た。久しぶりに、穏やかな気分だった。
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