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hage.57

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「ただいま~っ、あ~っ!ハゲに何か塗ってる~」

タカヤに慰められても立ち直れず、帰ってから部屋でひっそりとハゲ薬を塗り込んでいたら、デリカシー皆無のハナクソが帰ってきた。

「ちょっと、見せてよ。きゃはは、ハゲが光ってる~」

傷心のオレにハナクソ攻撃が炸裂する。
…殺意!

「触んな、ハナクソ」
「いいじゃん。お姉さまが塗ってあげるよ」
「やめろよ、ハゲがスース―するだろ!」
「きゃはは、スース―ってウケる~」

ウケねーよ!
くそ。プライバシーのない団地住まいが恨めしい。

「そういや、アイ、リツキと付き合ってんでしょ。さっき下にいたよ」

オレを笑い倒したハナクソがバッグを片付けながら、ついでみたいに言う。

「…へぇ」

今は、リツキの名前を聞くだけでニシモトが浮かんできて胸が痛い。

「なんか、可愛い子と一緒だったよ。あんた、ハゲてる場合じゃないんじゃない?」

殺る。
ハナクソ、いつか、殺る。

「あ~、お腹すいたなぁ」

言いたいことだけ言い放って、鼻歌を歌いながらハナクソが部屋を出て行く。

オレだって、ハゲたくて、ハゲてるんじゃねー。

二段ベッドの下の段に入り込んで頭から布団をかぶった。

思い出したくないのに、ニシモトと寄り添うリツキの姿が浮かぶ。
さんざん泣いたのに、懲りずにまた泣きたくなる。

思考を放棄してそのまま寝たら、夢を見た。

『は?アイを好き?遊びに決まってんだろ』
『キス?お前がいつもアップアップで笑えるからだろ』

リツ。

『お前は新聞部用のダミー。俺、ホントは、ずっとミクのことが好きで』
『この前、初めて、好きな子にキスした』

…リツっ!

跳ね起きたら、心臓がバクバクしていて、冷や汗をかいていた。

「…うるさいよ~、アイ」

上段からハナクソの平和な寝言が聞こえてくる。
時計を見たら、午前4時だった。
…夢。

これはやばい。ストレスなんてもんじゃねー。
早いとこ片をつけないとハゲ拡大のピンチじゃね?

目をこすったら、涙の跡があった。

…はっきりさせよう。

勇気を出せ、オレ。
ニシモトと何やってたのか、ちゃんとリツキに聞いてみよう。

『遊びに決まってんだろ』

これは夢で。
リツキはオレのこと、好きって言ってくれた。

携帯を取り出して、懲りずにプリクラを眺める。

キス魔で。エロくて。ハレンチで。
偉そうで。イジワルで。

リツ。遊びなんかじゃねーよな。

オレもニシモトみたいに可愛くて、ハゲでもなくて、わりかし成績も良かったら、もっと自信持てたのかな。
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