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hage.49
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あのチビ猫はとんだ食わせ物だ。
うかつに近づいたら、ハゲがバレる気がする。用心に越したことはない。
「わかってるじゃん、アイ!」
チナツがオレの手をつかんで上下に揺らす。
「お、おう」
「油断大敵よ!」
かと思ったら、オレの手を握りしめて、その胸に抱える。
…柔らかい。
「転ばぬ先の杖よ!」
「う、うん」
…柔らかい。
「君子危うきに近寄らずよ!」
「え、…えっと?」
「はぁ、次の古典当たるんだよね。アイ、漢文訳した?」
訳すわけねーじゃん。
チナツの胸の柔らかさがオレから思考力を奪って、呆けているうちに何の話をしていたんだかわからなくなってしまったが、要するにあのチビ猫はオレの敵ってことだよな。
負けるもんか!
「あ!思い出した!」
もう一つ、絶対負けられない勝負があるんだった!
「アイ、今日の帰り、ヒメのグッズ買いに、…」
チビ猫と遊んでいたリツキがオレに向かって歩いてくる。
「わりーけど、オレ、今回マジだから!」
「あ?」
怪訝そうなリツキにしっかりはっきり宣言する。
「来週の期末は、ぜってー平均取るからな!見てろよ、リツ!」
それで、リツキのカノジョとしてちょっとくらいは周りにも納得してもらうんだ。
「なに、お前、勉強すんの?」
「ふ。わりーな。お前と遊んでる暇はねーんだ」
オレだってやればできるってとこを見せてやるぜ!
「あそ。じゃあ俺、今日は寄り道して帰るから」
「おー」
そんな悠長なことを言っていられるのも今のウチだよ、リツキくん。
期末の成績を見て、オレに惚れ直したって遅いんだよ。
「ふふふふ…」
「…面倒くさいことにならないといいけど」
チナツがげんなりした顔でオレを見ていたけど、もちろんオレは気づかなかった。
「ダメだ、さっぱりわからねー。何が分かんないかもわからねー」
テスト前週間で、部活終わりが早いから、終わってから公立図書館なるものに寄って英語のテキストを広げてみたけど、何の効果も得られなかった。
クソ、オレは日本から出ねー。
薄情なチナツはタケダと待ち合わせとかでさっさと帰っちまうし。
「コマチ、英語のテストで川嶋と賭けてんだって?」
すっかりやる気を失って机に突っ伏してるオレの上から声が降ってきた。
「タカヤ!」
勢いよく顔を上げると、爽やかスマイルでタカヤが立っていた。
ちっ、オレより図書館が似合う。じゃなくて!
「お前、妙な場面で妙な発言するなよな!だいたいオレらは、…」
勢い込んでオレが詰め寄ると、近くから咳ばらいが聞こえた。
あ、図書館でした。
「しー。コマチ」
タカヤが人差し指を口に当てて、オレを座らせる。
「俺、英語得意だよ?教えようか」
周りの迷惑にならないよう、タカヤがオレの耳元で話す。
「マジ?天の助け?」
身を乗り出すオレに、タカヤは若干おののきながらも、
「…本多には頼まないの?」
机に片肘をついて俺をのぞき込む。
…頼めるわけねーじゃん。
「あ!お前またリツに余計なこと言うなよ!賭けの対象にされたってバレたら、アイツぜってー怒るし」
オレのお願いに、タカヤは少し困ったように笑って、
「いいけど、…」
オレの前髪を一房つまんだ。
「コマチってホント、…」
な、なんだよ。
タカヤのもの言いたげな視線にちょっとたじろいで頭を引く。
髪がタカヤの指をすり抜けて、オレの額にかかった。
ま、まあ、これでテストは何とかなるだろ。
週末にバイト代が入るから、ハゲ対策にもかかれるし。
「ふさわしいカノジョ」に向かって着々と進んでいるはず。
なのに、なぜか落ち着かない。
…オレ、間違えてねーよな?
うかつに近づいたら、ハゲがバレる気がする。用心に越したことはない。
「わかってるじゃん、アイ!」
チナツがオレの手をつかんで上下に揺らす。
「お、おう」
「油断大敵よ!」
かと思ったら、オレの手を握りしめて、その胸に抱える。
…柔らかい。
「転ばぬ先の杖よ!」
「う、うん」
…柔らかい。
「君子危うきに近寄らずよ!」
「え、…えっと?」
「はぁ、次の古典当たるんだよね。アイ、漢文訳した?」
訳すわけねーじゃん。
チナツの胸の柔らかさがオレから思考力を奪って、呆けているうちに何の話をしていたんだかわからなくなってしまったが、要するにあのチビ猫はオレの敵ってことだよな。
負けるもんか!
「あ!思い出した!」
もう一つ、絶対負けられない勝負があるんだった!
「アイ、今日の帰り、ヒメのグッズ買いに、…」
チビ猫と遊んでいたリツキがオレに向かって歩いてくる。
「わりーけど、オレ、今回マジだから!」
「あ?」
怪訝そうなリツキにしっかりはっきり宣言する。
「来週の期末は、ぜってー平均取るからな!見てろよ、リツ!」
それで、リツキのカノジョとしてちょっとくらいは周りにも納得してもらうんだ。
「なに、お前、勉強すんの?」
「ふ。わりーな。お前と遊んでる暇はねーんだ」
オレだってやればできるってとこを見せてやるぜ!
「あそ。じゃあ俺、今日は寄り道して帰るから」
「おー」
そんな悠長なことを言っていられるのも今のウチだよ、リツキくん。
期末の成績を見て、オレに惚れ直したって遅いんだよ。
「ふふふふ…」
「…面倒くさいことにならないといいけど」
チナツがげんなりした顔でオレを見ていたけど、もちろんオレは気づかなかった。
「ダメだ、さっぱりわからねー。何が分かんないかもわからねー」
テスト前週間で、部活終わりが早いから、終わってから公立図書館なるものに寄って英語のテキストを広げてみたけど、何の効果も得られなかった。
クソ、オレは日本から出ねー。
薄情なチナツはタケダと待ち合わせとかでさっさと帰っちまうし。
「コマチ、英語のテストで川嶋と賭けてんだって?」
すっかりやる気を失って机に突っ伏してるオレの上から声が降ってきた。
「タカヤ!」
勢いよく顔を上げると、爽やかスマイルでタカヤが立っていた。
ちっ、オレより図書館が似合う。じゃなくて!
「お前、妙な場面で妙な発言するなよな!だいたいオレらは、…」
勢い込んでオレが詰め寄ると、近くから咳ばらいが聞こえた。
あ、図書館でした。
「しー。コマチ」
タカヤが人差し指を口に当てて、オレを座らせる。
「俺、英語得意だよ?教えようか」
周りの迷惑にならないよう、タカヤがオレの耳元で話す。
「マジ?天の助け?」
身を乗り出すオレに、タカヤは若干おののきながらも、
「…本多には頼まないの?」
机に片肘をついて俺をのぞき込む。
…頼めるわけねーじゃん。
「あ!お前またリツに余計なこと言うなよ!賭けの対象にされたってバレたら、アイツぜってー怒るし」
オレのお願いに、タカヤは少し困ったように笑って、
「いいけど、…」
オレの前髪を一房つまんだ。
「コマチってホント、…」
な、なんだよ。
タカヤのもの言いたげな視線にちょっとたじろいで頭を引く。
髪がタカヤの指をすり抜けて、オレの額にかかった。
ま、まあ、これでテストは何とかなるだろ。
週末にバイト代が入るから、ハゲ対策にもかかれるし。
「ふさわしいカノジョ」に向かって着々と進んでいるはず。
なのに、なぜか落ち着かない。
…オレ、間違えてねーよな?
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