上 下
8 / 118

hage.08

しおりを挟む
「や、…だっ!」

渾身の力でリツキを押し返す。
悔しくて、涙さえ込み上げる。

「所構わず、してんな、キス魔っ!
…オレは、心臓病かもしれないんだよっ」

「は?」

完全に面食らったようなリツキを振り払って駆け出した。

もう二度とリツキとキスするもんか。
アイツが誰とでも簡単にするようなキス、絶対絶対もうしない。

「アイっ、待てよ!」

リツキが追いかけてくるから必死で走った。

なのに、あっという間に追いつかれる。

くそ、こいつ、足速え。

「やだやだやだ…!」

暴れるオレをリツキがその長い腕の中に囲い込む。

「わかったから、落ち着け」

リツキがぎゅうぎゅうオレを締め付ける。
断じてこれは、抱きしめられてるとかじゃねー。

「…何が、やなんだよ?」

リツキのバカ力に負けて、もがけなくなったオレを、腕の中に閉じ込めたまま、あやすようにリツキが言う。

「…心臓が、…キリキリする」

クソ、オレ、なんで涙声なんだ。

「オレ、本格的にやばいかもしんない。び、病院、行った方がいいかもしんない」

リツキは黙ってオレを見つめ、そっと目じりの涙にキスして、

「…わりぃ」

苦しいくらい強く強く抱きしめた。

「病院行くなら、一緒に行ってやるから」

リツキは大きくて、胸も広い。

「…もう、人前ではしないから」

耳元で響く声も、低い。

「泣くなよ」

リツキの声が優しい気がして、リツキの胸の中が温かい気がして、このままずっと、こうしててほしいとか思いそうになって、…
オレは、脳もやられたのかもしれない。



「なー、…キス、ってさ」

誰とでもできんの?

教室でこっそりチナツに聞くと、チナツは一瞬唖然としたような顔をして、その後、猛烈にやらしいニヤニヤ笑いを浮かべた。

「いや~ん、アイが乙女になってる~」

「ばっ…!」

バカ、チナツ! クネクネすんな。でかい声だすな。
リツがこっち見てんだろ!

「アイったら、心配なんだ~。まぁ、わかるよ。リツキくん、モテるし、アイ、色気ないし」

うんうん、と変なところで納得するチナツ。

色気とか、関係…

「あっ!」

もしかしたら、ホルモンバランスの問題なのか。
オレがオンナノコらしくないから、おっさん化の象徴として、ハゲが…

「でも、大丈夫だよ。リツキくんは、ずっとアイに一途だもん」

なんか言ってるチナツの肩をがしっとつかみ、

「チナツ!オレ、女になるっ」

「…は?」

チナツが心底ぎょっとしたような顔でオレを見た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~

テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。 なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった―― 学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ! *この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

私の隣は、心が見えない男の子

舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。 隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。 二人はこの春から、同じクラスの高校生。 一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。 きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

恋とは落ちるもの。

藍沢咲良
青春
恋なんて、他人事だった。 毎日平和に過ごして、部活に打ち込められればそれで良かった。 なのに。 恋なんて、どうしたらいいのかわからない。 ⭐︎素敵な表紙をポリン先生が描いてくださいました。ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031 この作品は小説家になろう、エブリスタでも連載しています。 ※エブリスタにてスター特典で優輝side「電車の君」、春樹side「春樹も恋に落ちる」を公開しております。

一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)
恋愛
《視点・山柿》 大学入試を目前にしていた山柿が、一目惚れしたのは黒髪ロングの美少女、岩田愛里。 その子はよりにもよって親友岩田の妹で、しかも小学3年生!! 《視点・愛里》 兄さんの親友だと思っていた人は、恐ろしい顔をしていた。 だけどその怖顔が、なんだろう素敵! そして偶然が重なってしまい禁断の合体! あーれーっ、それだめ、いやいや、でもくせになりそうっ!   身体が恋したってことなのかしら……っ?  男女双方の視点から読むラブコメ。 タイトル変更しました!! 前タイトル《 恐怖顔男が惚れたのは、変態思考美少女でした 》

【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】

猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。 「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」 秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。 ※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記) ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記) ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
青春
 杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...