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8章.獣人王宮でお茶を淹れる

04.

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「ここはジョシュア様のメディカルガーデンですじゃ」

「うおっ」

誰もいないと思っていたところから突然声がして、勝手に立ち入った気まずさもあり、思わず声を上げてしまった。

温室に茂る香草の影から姿を現したのは、ヤギ獣人だった。眼鏡をかけている。微妙に曲がった腰つきといい、なんとなく老眼なのかなと思わせる。

「あ、…勝手にすみません。俺、…」
「ジョシュア様が溺愛されておられるラピスラズリ姫さまですな」

自己紹介しようとしたら、ヤギ獣人に先を越された。
あんだけ派手に連れ帰られたんだから、俺の存在は知れ渡っているんだろうけど、老成した風合いのヤギ爺さんから、さらっと溺愛とか言われると照れる。つーか、恥ずかしい。恥の極致。俺はジョシュアだったら何でもいいけど、でもでも、だけども。人目も憚らずキスしまくってたジョシュアはちょっぴり恨めしく思えてくる。

「わしは白の種族(ほ乳類)のメラ・トーニ。薬学博士のトーニ爺ですじゃ。ジョシュア様から薬草の管理を任されております。ラズ姫さま、お会いできまして光栄ですじゃ」

トーニ爺さんは恥じ入っている俺をさらりと流して、白い手を差し出してくれた。

「初めまして。こちらこそ光栄です」

ので、俺も気を取り直してトーニ爺さんと握手を交わす。
トーニ爺さんは鼻の頭にかけられた丸眼鏡といい、長く伸びた白い髭といい、渦巻き型の角といい、いかにも博士っぽい見た目で白衣を羽織っている。

「あの、…中、見せてもらってもいいですか?」
「もちろんですじゃ」

ドーム型温室の天井は高く、天辺が見えないほど高く茂った樹木も余裕で栽培されている。つる植物がアーチ状に茂っていたり、足元に白や黄色の可憐な花を咲かせた草が群生していたり、熱帯植物のような巨大な実を付けているものもあったり、と、様々な栽培草木は千種類を超えるらしい。

適温が保たれて快適な温室は、見ているだけでももちろん楽しいが、

「これは煎じて飲むと咳止めになります」
「これは湯に入れて浸かると冷えやむくみに効きますな」
「こちらは紅が映えるので女性に人気の草ですじゃ」

トーニ爺さんが薬効を説明してくれるので更に興味深い。見た目は可愛いのに毒を持っていたり、雑草にしか見えないのに万能薬になったりするというギャップも面白い。

「この奥には、ジョシュア様が死森から持ち帰った土で育てている植物があります」

温室の奥に厳重に仕切られた場所があった。

死森の空気は人間に有害で、その中で人は生きることが出来ない。かつて人間型殺戮兵器アンドロイドが降らせた塵が地中に埋まり、そこから育った植物が毒素を排出して森全体を覆っていると考えられている。

「ジョシュア様は土を解明し、改良することで、人間と獣人を隔てている死森の毒を浄化することをお考えなのです。死森を開けた場所にして人間と獣人の世界を融合したいと望んでおられるのですじゃ」

俺はジョシュアと交わっているためか、死森の毒に侵されないことが判明しているので、トーニ爺さんに頼んでジョシュアの研究室に入らせてもらった。
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