【完結】銀の龍瑠璃色の姫君を愛でる―31歳童貞社畜の俺が異世界転生して姫になり、王になった育ての息子に溺愛される？？

6章．結婚相手の結婚式に招待される

03．

王城は広い庭ばかりか城壁の向こうまで、人波で埋め尽くされていた。
獣人と人間が一堂に会している。今日ばかりは人間たちも人界から死森を越えて死界に訪れることを許されたらしい。

「…天馬だ‼」「エイト様？」
「エイトリアン様だっ」「エイト様がお越しになった」

最初の光を投げかける陽光を浴びてエイトリアンが空をよぎると、獣人たちから歓声が上がり、静かに深く頭を垂れた。人間たちも伝説上の神々しい生き物を目の当たりにして、漠然とした感慨と深い敬虔の念を示す。

「…お前、有名なんだな」

言ってから、そりゃそうだと思い出した。エイトリアンは死森に潜んでいるものの、獣人王族で現王の双子の兄だ。態度がチャラすぎて、…もとい、振舞いが親しみやす過ぎて、忘れかけてたけれど。獣人たちが一様に驚きを表しているのは、エイトリアンが死森から出るのが珍しいからなのかもしれない。

エイトリアンは慇懃にひれ伏す大勢の人々を鼻で笑って不遜に見降ろすと、当然のように出現した天使のはしごの中を地上に降り立ち、翼をもつ一角獣の姿から金髪をなびかせる憂いの貴公子に姿を変えた。

俺は天馬の羽を滑って、気が付けば絶世のイケメン姿になったエイトリアンの腕に抱かれていた。

「…降、ろして」

これはさすがに無理だろう。恥ずか死ぬ。
王城に集った人々の最前列。視界に入りきらないほどの大勢の目の前で。イケメンにお姫様抱っこされている。しかもみんながみんな、空から降ってきたイケメンに大注目中だ。無理。童貞魂の限界突破。

恥ずかしさのあまり顔を上げられないまま小声でエイトリアンに頼むと、

「今更だろう？」

奴は意味深な笑みを浮かべて、あろうことか大観衆の面前で俺にキスした。

なにこの破廉恥兄弟。
獣人王族に恥じるという文字はないのか⁉

大観衆がどっとどよめく。

「エイト様もご結婚？」「しかも人間と？」
「これは二重におめでたいのでは」「真の融合が実現するのでは」

めでたいのはこの破廉恥兄貴の頭の中だけだ。

と思ってもがくも、奴は一向に動じず、もがけばもがくほどキスが深くなって恥ずか死ぬ前に酸欠で死にそうになった。

「…来てくれると思ってたよ」

ようやく破廉恥貴公子の唇が離れた時、王城のバルコニーには王と王妃が姿を現していた。

つまるところの。
その甘い声を聞くだけで心臓が潰れそうになってしまうクソ馬鹿ジョシュアと、…

「さすがお姉さまですわっ、お祝いにいらして下さったんですのね？」

その隣に立って満面に眩いばかりの笑みを浮かべ、全力でマウントを取ってきた、この世界に来るなり俺をまつ毛刑に陥れて追放した腹黒さ全開の妹、アレクサンドロニカ王国セレバンティウス公・第二皇女ソフィア姫だった。