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第二部 お兄ちゃん、待っててね!/ラッキースケベは必・・・あぁ! そんなものねぇーよ!!

ネギトロ

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ライキンは部屋の中に入らず外で待つ事にした・・・・・・・
が、この男に外で大人しく座っていることなど出来るわけが無い。
フェネクシーが土魔法で作った椅子に座ったかと思うと10秒もしないうちに立ち上がりウロウロと。
そして、座る。
10秒もしないうちに立ち上がりウロウロと。
これを何十回繰り返しただろうか。
いや、何百回繰り返したのだろうか?
時折、ウーウーと呻き声が部屋の中から聞こえてくる。
やはり、立ち上がり部屋に入りたい衝動を押し殺す。

「落ち着け、ライキン!、お主に出来ることは何もない!」
と言われるとフェネクシーのほうを振り向き椅子に座る。
が、10秒もしないうちにまた立ち上がりウロウロと。

「ライキン、目障りだぞ! 獣王ならもっとどっしり構えていろ!
 部下も見ているだろ!!」

「う、う、うるさいぞ! ブラドー! お前にこの気持ちが分かるか!!」

ブラドーは肩を竦める仕草をしフェネクシーと顔を合わせた。



「オギャーーーー!!」


部屋の中から声が響く。

「マリーシャ!!」
ついにライキンは部屋の中に飛び込んだ。

「アイツは何をやせ我慢していたのか」

「あやつとて亜人族を束ねる長だから、部下の手前、奥方の下へ行くのを憚ったのだろうて。
 お主のように孤独を愛する者には分からないことだろうて」

「確かに」
と短くブラドーは答えた。





「ライキンさん、声が大きいですよ!!」

「お、おう」

とまたもや詩織に注意をされるライキンであった。

「マリーシャさんもお子さんも元気ですよ。男の子ですよ」

「そ、そうか」


ベッドに寝ているマリーシャを見る、隣には生まれたばかりの子供がいる。
人間の体に顔は子ネコのような可愛い赤ちゃんが寝ている。

「あなた・・・・・」

「マリーシャ、よくやったぞ!! よくやった!!」

「早く抱いてあげて」

ライキンはタオルに包まった我が子を愛おしく抱く。

「俺の子か~ 俺の子か~」
と目尻を垂らしながら何度も何度も口に出してつぶやく。

その姿にお産を手伝った茜や詩織たちは涙ぐむのであった。

「茜さん、詩織さん、加奈さん、千代さん。ありがとうございました。
 みなさんのおかげで無事、出産することが出来ました。
 みなさんがいなければ、この子も生まれてくる事は無かったでしょう。本当にありがとうございます」

マリーシャは思いのほか意識も体力もあるようだった。
人間とは違い御産の後もしっかりしているのは獣人ならではのようだ。

「マリーシャさん、私たちも獣王さんのお子さんの出産に立ち会うことができて光栄です。
 私たちに気など使わずゆっくりお休みください」

加奈が代表して答えた。





「勇者・茜よ! お前に子のこの名付け親になってくれないか。
 希代の勇者に名を付け貰えればこの子も励みになろう」

とライキンは生まれたばかりの子共を抱きかかえながら切り出した。

「えっ! 私!」
突然の依頼に茜は驚くのであった。

「そうだ、お前しかいない!! この子に名前を付けるのに相応しいのは勇者・茜! お前しかいない!!」

「え、エーーーーーーー! 私、勇者じゃ無いし・・・・ 勇者・茜って・・・・・あかね、ね・・・・ね・・・・」

動揺する茜を置いてライキンは真剣な目をして茜を見つめるのであった。









「ネ、ネ・・・・・」

「ネ? 何だ?」



なおもライキンは真剣な目で見つめる。
それどころかベッドで横になっているマリーシャまで真剣な目で・・・・・
そこにいるすべての者が茜をじっと見つめるのであった。

変な汗が吹き出てくる・・・・・・
ど、どうしよう・・・・・



「ネ、ネ・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・ネ、





 ネギトロ!!」


その言葉に加奈、詩織、千代は驚いた。

「あ、茜!!」
「茜ちゃん」
「茜、お前!!!!」

「ダメかな!?」

「ダメに決まっているだろ、茜!」
と千代に大目玉を食らうのであった。

「ネギトロ、ネギトロ・・・・・ネギトロ」
ライキンは口の中で言葉を吟味するように繰り返し

「素晴らしい!! 何て強そうな響きなのだ!!
 ネギトロ!! ネギトロ!!
 さすが勇者・茜だ!! マリーシャも素晴らしいと思うだろ!!」

「あなた、素敵です。力強い響きの中にも優雅さがありますね」

「「「エーーーーーーーーーーーーー!」」」

3人はライキンとマリーシャのセンスに驚くのであった。

「早速、皆に披露だ!」

「ダメーーーー!!」

と部屋を飛び出すライキンに加奈の声は届かなかった。

部屋の外には多くの亜人たちが集まっていた。

「皆の者、聞けーー!! 
 我が息子・ネギトロが誕生した!!」

とライキンはネギトロを両手で高く空に掲げた。


「「「「ウヲーーーーー!!」」」」」

「「「「「ネギトロ様!! ばんざーーーーい!!」」」」」」

「「「「「「ネギトロ様!! ネギトロ様!!」」」」」」

部屋の外から割れんばかりの声が聞こえてくる。
その声は地鳴りと間違えてもおかしくない振動を辺りに撒き散らす。


「ど、ど、どうするのよ! 茜!!」

と加奈に問い詰められる。

「え、どうすると言われても・・・・・ねぇ~」

「ねぇ~ じゃないぞ! 茜! 名付け親を簡単に考えすぎだぞ」

千代に問い詰められる。

「だって、あんなプレッシャー受ければ私だって・・・・・・」

「茜ちゃん・・・・どうするの?」
詩織からも問い詰められる。

「マリーシャさん、お子さんの名前、考え直した方が良いと思いますよ」
あまりの酷い名前に加奈が慌ててマリーシャに語りかけた。

「いえいえ、良い響きですわ。ハルフェルナには無い響きです。
 新しい時代を切り開く子供にピッタリですわ。
 私も聞いた瞬間、虜になりました。
 救世主・茜さまに付けていただけ光栄ですわ」

「いや・・・それが私たちの世界では食べ物の名前で・・・・・・」

「食べ物でも何でも、こんなに洗練された響きは聞いたことがありませんわ。
 主人も気に入っていることですし、『北の森』の獣人たち全てが気に入るでしょう」

部屋の外からはまだ

「「「「「ネギトロさま!! ばんざーーい」」」」」

の声は途切れることなく響き渡るのであった。


「うん、やっぱりハルフェルナ、分からない!!」
と加奈は自分を納得させるように言った。
 
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