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Take the devil 2

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「元気そうだな! じゃ、ねーーーよ!
 お前、ワザと家来達に連絡しておかなかっただろう!!
 20回くらい死んだぞ!! 嫌がらせか!!
 お前からの依頼、受けるの止めてやろうか!!」

シロと呼ばれた男は怒りながら返答した。

「ハハハハ、そう怒るな! 英雄・シロ・ブルーノ!
 まぁ~200年前の意趣返しだ!」

desperadoならず者と魔王・ヘルザイムは200年ぶりに顔を合わせた。
表情は200年前よりも柔らかくなったように感じた。
それは年がそうさせたのか、それとも、他の理由が・・・・・
ヘルザイムは悪魔にも関わらず人の情と言うものを理解していた。
時には手段を選ばないこともあったが好んで残虐な事をする男ではなかった。


この世界でも魔王軍と人類は終わる事の無い戦いが繰り広げられていた。
200年前に魔王ヘルザイムはここ、ゼンセン城を拠点に人類側に攻め入った。
ヘルザイムの魔族軍は悪魔を指揮官としオーク、オーガ、、リザードマンなどモンスターを配下に納め人間界を侵略しあと一歩のとこまで人類を追い詰めた。
そこに救世主としてdesperadoならず者が、どこからとも無く現れ人類を救った。

「お前さえいなければ、我が魔王軍はこの世界を手にしていたやも知れぬ。
 それを邪魔されたのだから多少の嫌がらせも許されるだろう~ハハハハハ
 こっちへ来い!」

大きく手招きすると背中を向け謁見の間を後にし客室へ俺を誘った。
ヘルザイムは一歩ずつ歩きながら5mを超える巨体を人間サイズまで縮小させていった。
部屋には客間になっており黒い執事服を着たヒツジの亜人が直立で立っていた。
ヘルザイムは俺にソファーを勧めた。

「お前な~! 一応、俺は客人だろ!
 客人を殺すホストがどこにいるよ!!
 死んでも生き返るとは言っても刺されれば痛いんだからな!」

ヘルザイムを怒鳴りつけた。

「200年前、お前ほどの力があれば、我を殺すことも出来たろうに何故、殺さなかった?」

「あん? 200年前にも話さなかったか? 
 俺が頼まれたのは、魔王軍から人間側のサイゼン城を守り、撤退させることであってお前の討伐じゃないからな」

「なら、我の討伐だったらどうしていた?」

「そんなもん、喜んでお前をあの世へ送ってやるよ!
 お前の部下、何千も相手にするより、お前一人の方が楽だからな。
 あの姫さんも喰えない女だったからな~
 『欠片』一つでこき使いやがって。
 お前がいなくなっても次の魔王が立つんだろ!?
 それより一人でも多くの魔物を片付けた方が、良いに決まってるからな。
 で、あの姫さんはどうした?
 王族で女だてらに最前線で戦う姫騎士だったからな」

「なんだ! お前、あの女のことが気になるのか?
 気が強いがいい女だったからな!ハハハハハ」

「ゲスイ笑いをするな!
 あの姫様が直接の依頼者だったからな」

「隠すな! お前たち二人は熱い中だったのだろ~
 調べはついているぞ」

ヘルザイムは人の悪そうな笑みを浮かべた。

「バカ野郎! 勘違いするな!
 あの女が勝手に惚れたんだ!
 俺はもう数千年前に恋愛ごっこは卒業したよ!」

「ふふふふ、そうか」

ヘルザイムはより一層、人の悪そうな笑みを浮かべた。

「あの娘は一生独身を貫いたぞ。
 お前の事をそうとう愛していたのだろうな!」

「そうか・・・・・馬鹿な女だ。
 俺のことなんて、とっとと忘れれば良いものを・・・・・・」

風になびく美しい金髪を思い出しながら呟いた。
男の声は少し悲しく、ヘルザイムから視線を外し、寂しい顔をしながら言った。
気を取り直しヘルザイムに視線を合わせ

「で、依頼ってのは何だ?
 今は人類との戦いはどんな感じなんだ?
 なんだか人間に押されている感じだったがサイゼン城の破壊か? 王の暗殺か?」

「いやいや、そんな物騒なこと頼まんよ」

「お前は魔王らしくないな~ヘルザイム!
 普通、『人類は皆殺しだーー!!』って言うのが魔王の常套句じゃないのか?」

「いやいや、今回の戦いは我らの負けだ」

「おいおい、やけに弱気じゃないか? 悪いものでも喰ったのか?」

「寿命が近づいていてな。もう長くは無い。
 人間共も勇者を召喚したのでな。
 今の我には勇者を倒すことが出来ない」

「何故だ? あれだけ豪胆なお前らしくないな! お前だって魔界のお山の大将ごっこ勝ち抜いた強者つわものだろ?」

「この世界の理なのだ。年老いた魔王は勇者には勝てん」

と弱々しい声で答えた。

「じゃ、勇者の排除が依頼か!」

「いや、違う」

ヘルザイムは静かに首を振った。

「我の負けなのだ。勇者を召喚する前に人間界を征服できなかったら負けなのだ」

本当ならヘルザイム率いる魔王軍が勝てたはずであった。
この世界では勇者は300年に一度しか召喚できない理になっていた。
運良く、200年前に今は亡き姫がdesperadoならず者が欲していた欠片を持っていた。
その欠片を求めdesperadoならず者がこの世界を訪れたのであった。

「律儀なヤツだな!
 まぁ~俺は貰う物を貰えれば何でもいいがな」

「我の娘を魔界へ届けて欲しい」

「はぁ?? お前、娘なんていたのか? 嫁さんがいたのにも驚きだ!!」

「お前がこの世界を去った後に産まれたんだよ。悪魔族一可愛いぞ!!」

「そうかよ、魔族にも親の欲目があるのか? 話半分にしておくよ」

こういう与太話は真剣に聞かないに限る。

「俺になんか頼まなくても、お前の子分に頼めばいいだろ。
 ペンゴの息子にでも頼めばいいだろ!」

「ダメだ、アイツじゃ力不足だ!」

「残りの四天王に頼めばいいだろう!? 他にも3人いるんだろ?」

「そうはいかないのだ。
 我らにも色々と込み入った事情があってな」

ヘルザイムは真剣な顔をしながら呟いた。

「誰が裏切り者なのか分からないのだ」

「エ?裏切り者!?」

あまりの言葉に驚いた。

「お前、魔王だろ!
 魔族一の実力者じゃねーのか?」

「勇者が召喚されてから1ヶ月ほど経つのだが、我々の情報がやたらと漏れていてな」

「勇者と言ったって色々なタイプがいるだろ。
 殴る蹴るのが得意なヤツとか魔法が得意なヤツとか。
 情報を得る力に特化したヤツかもしれないぞ!」

「今回の勇者は殴る蹴るが好きなヤツだ!
 だから内部の何者かが漏らしている」

「魔王軍も一枚岩じゃないんだな」

「もう次の魔王選びが始っているのだ!
 我を勇者に殺させて、次の魔王に座る事を考えている者もいるだろう」

「魔王の椅子もガラスで出来ているという事か」

男は天井を見ながら呟いた。

「娘を争いに巻き込みたくない」

「お前の娘なんて関係無いじゃないか・・・・・」

男は思い出した。

「あっ!そう言えば、お前の家系は魔族界一の名門とか言っていたよな。
 代々魔王を輩出しているとか何とか。
 お前の娘を嫁にすれば魔王の椅子が近づくとか言うヤツ?」

ヘルザイムは黙って頷いた。

「おいおい、魔族も色々と難儀だな~
 力さえあれば魔王様になれるものだと思っていたよ!」

「力も大切だが政治力も同じくらい大切なのだよ。
 先に『欠片』を渡しておく」

と言うとソファーに座っている男に拳ほどの大きさをした赤い『欠片』を投げ渡した。
男は受け取ると

「おいおい、いいのか?
 俺が『欠片』だけ貰って、お前の娘を人間に引き渡すとは思わないのか?
 魔王の娘だぜ!人間側に高く売りつけられるぜ!」

「思わない。お前は変なとこに律儀だろ。
 以前、お前がこの世界に来て我たちと戦ったとき、必要以上に殺戮しなかっただろ。
 人間のクセに妙に魔族に理解があるだろ」

「まぁ~知り合いに多くの魔族もいたしな~ 長く生きていると人間だの悪魔だのどうでも良くなってくるからな!
 今回みたいに敵対する者が客になることもあるからな!
 無駄に頑張ると大怪我するからな!
 楽して利益を得るのが、俺の営業方針なんだよ」

「ふざけたヤツだな!  お前の方が悪魔らしいぞ!」

「あぁ~~よく言われるよ」
男は頭をかきながら面倒臭そうに答えた。

ヘルザイムは執事服を着たヒツジに目で合図を送ると静かに部屋から出ていった。
男は確認するとヘルザイムに静かに言った。

「なぁ~ヘルザイム、お前やお前の部下たちに頼んで、魔法を幾つか俺にぶつけてくれないか?」

「何をするんだ!」

「お前の娘を守るために魔法を幾つか用意しておこうと思ってな。
 実は俺は即死魔法しか使えないんだよ。
 いや、生活魔法くらいは使えるようになったんだが破壊力のある魔法はからっきしでな」

「本当なのか! 200年前、多くの魔法を使っていたではないか!
 メテオなんて我も初めて見たぞ!」

「あ~~あれか、アレは魔法じゃなくて遙か上空まで飛んで本物の岩を落としただけだ。
 本来メテオと言うのは魔法で作った大小の岩を作るか召喚して落とすのだけど、俺のメテオはすべて人力だ」

「いやいや、他にも色々と魔法を使っていただろう!
 ファイヤーボールなんか連続して撃ちまくっていたではないか!」

「タネがあるんだよ」

白いローブの左袖をまくると、そこには赤く小さい小さいランドセルがあった。

「このマジックバックは何でも仕舞う事が出来るんだよ。
 それは生物でも魔法でも何でも。
 ただ、生物は力ずくで押し込まないと入れることは出来ないがな」

「お前の動きを見て虚空庫を持っているモノだと思ってはいたのだがマジックバッグだとは思わなかった。
 それはお前だけしか使えないのか?」

「あぁ~俺専用だ。 だから俺を殺して奪ってもダメだからな!」

「そうか、残念だ!」

悔しそうな仕草を見せたが、残念ながら下手な芝居がバレバレだった。

「何ならお前をこの中に入れて魔界まで運んでやるけど、どうする?」

それを聞いたヘルザイムは静かに左右に首を振り静かに言った。

「もう本当に長くは無いのだ!
 勇者に倒されるのも魔王の役目だ。
 最後くらい派手に散ってみせよう」

そこへ先ほど出て行った執事の服装をしたヒツジの亜人が一人の少女を連れて戻ってきた。
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