迷子の僕の異世界生活

クローナ

文字の大きさ
上 下
327 / 333
第2部 『華胥の国の願い姫』

327

しおりを挟む



「そう言えば院長さんは新年の一般参賀には行ったんですか?」

「王都の人間が皆行くわけではありませんよ、ましてやうちには小さな子供達がいますのでね。」

「ハハッ確かに。えらいべっぴんさんだって言うからチラッとでもご尊顔を拝めると土産話にもなったんですが王都の人でも見られないんじゃイチ冒険者の俺等には到底ムリっぽいな。」

「ああでもこの王都の散らない桜を見たのだって充分自慢話になると思うな。」

「それもそうだな。」

不意に方向を変えたレオンさんの質問には少しドキドキとしたけど具体的な敬称が出なかった事と遠目に催し物を眺めたりしてたお陰で子供達がアンジェラの時みたいにならずに終わりホッとした。

でも実はここにいるんだけどな。

気付いて欲しい訳ではなくただ、嘘を付いているみたいでちょっぴり後ろめたい。
でも俺が同じ黒髪黒目だと知っているジルベルトさん達までが皇子様おれを『べっぴんさん』だなんて言って同一人物だと気付かないのはきっと美化しまくられた新聞のせいだと思うと複雑だ。

「そんな顔するなよ俺はトーヤに会いに来たに決まってんじゃん?でも驚いたなぁマートさんには孤児院で働いてるって聞いてたのにまさか愛し子のひとりになってるなんて思わなかった。」

「愛し子のひとりって…ちゃんと働いてますよ。」

「そうなの?お揃いの着てるからてっきりそうなのかと思った。」

そうだった、今日はみんなとお揃いなんだった。
だけど俺が『とまりぎ』で働いてたのは知ってるわけだからそれもてっきりロウの冗談のうちだと思ったのにジルベルトさん達にもウンウンと頷かれた。

どうせ俺はみんなに比べたらチビですよ。

クラウスやセオは気にならないけど冒険者特有の圧とでも言おうかさっき向かい合った時に体格差をしみじみと実感した、ジルベルトさんの腕なんか俺の何本分だって感じだしね。
 
「大きめの白シャツにエプロン姿も新妻っぽくて可愛かったけどその格好も可愛いね、特にその膝頭が見えてるのがめっちゃいい。」

「これは大切な方からの戴き物なんです。」

ニヤニヤと年甲斐のない服装を指摘され急に恥ずかしくなってきた俺は座ってるせいでより剥き出しになっている膝が気になってどうにかならないかと伸びることはない裾を引っ張っていたらクラウスの上着がバサリと落ちてきた。

「あ、ありがと。」

「ちぇっ、可愛かったのに。クラウスさん余計なことばっかりするんだから。」

「覚えがないな。」

「俺が先に口説いてたの知ってるくせによく言うよこんな遠くまでさらってくれちゃってさ。ね、トーヤ。」

「そもそもお前は相手にされてないだろうが。ほら迷惑だからそろそろ出せよ。」

相変わらずの軽口に同意を求められて困っていたら再びシリルさんのげんこつがロウの頭上に落ちた。

「イッテえなぁもう!出したら終わっちゃうじゃん……でもまぁ俺は可愛いトーヤに直に会えたから良しとするか、コイツにはすっげえ羨ましがられると思うけどさ。」

痛む頭をかきむしるとロウは上着の内ポケットを探り取り出した物を俺に寄越した。
薄い木箱に守られたそれはこの世界に転移した日に途方に暮れていた俺を拾ってくれたビートからの手紙だった。

「これを届けに来てくれたんですか。」

「そそ、今回俺達が引き受けた中で一番大事な依頼だよ、今日会えなかったらギルドに預けるつもりだったんだけど直接渡せたらデザート一ヶ月分タダでつけてくれるってマートがさ。渡すついでにトーヤが元気にやってるか確かめて来いって。」

「……みなさんお元気ですか?」

「元気元気!ビートは相変わらず生意気だしジェリーも可愛いしヘレナさんなんてこ~んな大きなお腹で毎日旦那をこき使ってるよ。」

「ふふ、そうですか。」

陽気な笑顔で胸の下から下腹部に向けて大きな円を描いて見せる、それだけであの優しい陽だまりのような家族の風景が容易に思い浮かんだ。

ロウ達同様過ごした時間はほんの僅かなのに、どこの誰ともわからない俺を受け入れ今の幸せに導いてくれた恩人が遠く離れた場所で未だに俺を気にかけてくれているなんて嬉しくて幸せで鼻の奥がツンとした。

「俺との再会もそのくらい感動してよ。」

「もちろん感動してますよ。」

「ほんとにぃ?」

「本当です。」


それから程なくして戻って来たジェシカさんからそれぞれコーヒーを受け取るとそれぞれがあっという間に飲み干してしまった。

「じゃぁこれで依頼完了ってことで。」

そうジルベルトさんが宣言すると4人が一斉に立ち上がった。

「では私達はこれで、祭りを楽しんでいる最中にお邪魔しました。」

「いえいえ子供達にはちょうどいい食休みになりました。それに彼にとって大切な手紙を届けてくれてありがとう。」

「こちらこそコーヒーご馳走様でした。」

本当にもう行っちゃうんだ。

「トウヤ君、ここは私達で片付けるからキミは見送りをしておいで。」

ノートンさんが背中をそっと押してくれて素直にそれに甘えた。
今度はクラウスも加えた4対2で俺の小さみが更にやばい。

「今日は本当にありがとうございました。みなさんにお会いできて嬉しかったです。」

「俺達もトーヤが元気だったってマート達に良い報告が出来るよ。」

「はい、とっても元気だってお伝え下さい、ビートにも早めに返事書くって言ってもらえますか?」

「ああ、必ずな。」

文字が掛けるようになってから一度、その後はビートの返事が来たら同じ期間を待って返すようにしてるからやり取りは案外少なめだ。

「そう言やぁクラウスは近衛騎士になったんだっけか。」

「なんで知ってる。」

「いや、マートがそんな事をな。まぁお前ほどの実力があれば当然だよな。」

ジルベルトさんがちらりと俺に視線を向けるのはそれが俺がビートに書いた手紙の内容だからだろう。だってビートと共通の話題なんてそのくらいだ。

でもそれだけだよ、いざ書こうと思っても相手はマリーやレインと同い年なわけでクラウスと恋人になった事とか結婚の事とかは照れくさくて書けなかったしさ。

隣に立つクラウスからの視線はジルベルトの視線を受けてのもので俺を責めるものではないけれど愛想笑いを返しながらとりあえず脳内で言い訳してみた。

「それでトーヤと一緒にクラウスがいたら一つ聞いてこいって言われてるんだけど……。」

「ねぇトーヤ、ここクリーム付いてるよ。」

なんとなくクラウスとジルベルトさんの会話を聞いていた耳にロウの声が飛び込んできた。

「わ、どこですか!?」

そんな状態でずっといたとかめちゃめちゃ恥ずかしい。

トントン、と自身の頬を指先で示す仕草を鏡にして慌てて自分の顔の同じ場所を擦ってみた。

「取れました?」

「俺が取ってあげる。」

時間が経ったせいで簡単には取れないのか首を横に振るロウに顔を差し出した。

でもロウより先に頰に触れたのはよく知るクラウスの手のひらでそのまま後ろから抱き込むように胸元に引き寄せられてしまった。

「二度目はなしだ。」

「もうせっかくいい感じだったのにクラウスさんほんと邪魔!チュウくらいいいじゃん!」

「いいわけないだろう。」

「怖っ!」

「ロウ、お前まだ諦めてなかったのか。」

「騙し討とかサイテーだな。」

「トーヤ、さっきの騎士呼ぼうか?」

ロウの行動に呆れるジルベルトさんに続くシリルさんとレオンさんの姿にマデリンの懐かしい毎朝の風景がありありと思い浮かんだけどそれよりもクリームがついてなかったことが俺の心を和ませたことは言わないでおこう。

無事大きな背中を見送った後はセオとも別れ、再びお祭りを巡り子供達やノートンさんもそれぞれ気に入ったお土産を手に『桜の庭』へ戻る頃には空の雲が茜色に染まり始めていた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黒王子の溺愛

如月 そら
恋愛
──経済界の華 そんなふうに呼ばれている藤堂美桜は、ある日パーティで紹介された黒澤柾樹に一目惚れをする。 大きなホテルグループを経営していて、ファンドとも密接な関係にあるというその人が、美桜との結婚を望んでいると父に聞かされた美桜は、一も二もなく了承した。 それが完全な政略結婚であるとも知らずに。 ※少し、強引なシーンがあります。 苦手な方は避けて下さいね。o(_ _)o  ※表紙は https://picrew.me/share?cd=xrWoJzWtvu #Picrew こちらで作成させて頂きました!

投了するまで、後少し

イセヤ レキ
BL
※この作品はR18(BL)です、ご注意下さい。 ある日、飲み会帰りの酔いをさまそうと、近くにあった大学のサークル部屋に向かい、可愛がっていた後輩の自慰現場に居合わせてしまった、安藤保。 慌ててその場を離れようとするが、その後輩である飯島修平は自身が使用しているオナホがケツマンだと気付かないフリをさせてくれない! それどころか、修平は驚くような提案をしてきて……? 好奇心いっぱいな美人先輩が悪手を打ちまくり、ケツマンオナホからアナニー、そしてメスイキを後輩から教え込まれて身体も心もズブズブに堕とされるお話です。 大学生、柔道部所属後輩×将棋サークル所属ノンケ先輩。 視点は結構切り替わります。 基本的に攻が延々と奉仕→調教します。 ※本番以外のエロシーンあり→【*】 本番あり→【***】 ※♡喘ぎ、汚喘ぎ、隠語出ますので苦手な方はUターン下さい。 ※【可愛がっていた後輩の自慰現場に居合わせたんだが、使用しているオナホがケツマンだって気付かないフリさせてくれない。】を改題致しました。 こちらの作品に出てくるプレイ等↓ 自慰/オナホール/フェラ/手錠/アナルプラグ/尿道プジー/ボールギャグ/滑車/乳首カップローター/乳首クリップ/コックリング/ボディーハーネス/精飲/イラマチオ(受)/アイマスク 全94話、完結済。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

【完結】氷の騎士は忘れられた愛を取り戻したい〜愛しています〜令嬢はそれぞれの愛に気づかない

たろ
恋愛
★失った記憶①   何作か記憶を無くした話を書こうと思っています 婚約解消をわざわざ誕生日に父に言われた。 どうせなら他の日に言ってくれたらいいのに。 お父様は娘のわたしに対していつも怒っているようにしかみえない。 王子との婚約解消で学園に行けば好奇な目で見られる。そんな苦痛な生活を送るならば母の療養先の領地で新たに学校に通いたい。 お父様に言えばまた何か言われそう。 それならばとお兄様に頼んで口添えをしてもらう。 そして、お母様の住む領地で、新しい生活を始めた。 わたしは忘れていたようだ。 大切な思い出を。そして想いを。 少しずつ忘れていたものを取り戻していくお話です ★少しタイトルを変更しました。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...