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第2部 『華胥の国の願い姫』
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しおりを挟むセオとシャワーを浴びるつもりでいた子供達は随分しょんぼりしてしまい寝かしつけに手こずるのを覚悟したけれど思いっきり遊んでもらったから俺がシャワーを浴びて出てくる頃にはほとんど眠りかけていた。
絶え間なく笑い汗びっしょりにはしゃぎ疲れてなお遊ぶ子供達の姿は俺相手では見れなくて窓を拭きながら少しセオに嫉妬した。
その分掃除も捗ったけどいつもより体がかるいのは掃除より子供達と遊ぶ方が体力が必要というわけですっかり任せちゃったけど本当に良かったのかな。セオの休みなのに俺がお休みをもらったみたいだ。
新年から働き詰めでようやく貰えた半日の貴重なお休みなのに『桜の庭』へ来てくれるなんてセオは本当に良いお兄さんでいい息子だ。その上俺の心配までしてくれた。
『そういうのトウヤさん苦手かと思って。』
そう口にした時、心から俺を心配してくれているのがわかった。騎士隊で問題になっていないのにわざわざ話してくれたのは最初の出会いをセオも覚えているからだろうか。それとも教会での事を知ってるから?もしくはクラウスやノートンさんから他にも聞いてるのかも。
「冒険者かぁ。」
忠告の言葉を反すうしてみたけれど冒険者と聞いて俺が思い浮かべるのはクラウスでその印象の大半を占める。小説で出てくる主人公みたいに強くて優しくてその上格好良いからクラウスみたいな冒険者に声を掛けられたら悪い気はしないかも知れない。
「いやいや、そうじゃなくて。」
もしマリーやレインが声を掛けられたとしたらやっぱり心配になる。
『桜の庭』で暮らしほぼ出歩く事がない俺には関わりのない人達だから実際はよく知らないけれど基本の印象はやっぱり気のいい人達で悪い印象があるとすればたったひとつ、マデリンのギルドで囲まれた時だ。
「……うん、ああいうのは嫌かも。」
なんか臭かったし。
例えて言うなら夏の日の体育の後の人がいっぱいの更衣室。思い出したところで懐かしいとは喜べなくて、身震いした体を両腕を擦ってやり過ごす。
でもあれもギルドのルールを知らなかった自分が悪いんだ。
ひとりで入るのに必要な筋肉は未だ持ち合わせていない。それ以外にもこれまでに起きたトラブルの数々は子供に見えるこの見た目を自覚せず忠告を軽く見た事が原因だ。お祭りを前に思い出させてくれたセオに感謝しなくちゃ。
最後に会ったあの夜のことを忘れたわけではないけれどはっきり言われたわけでもない、不確かな思い込みで気不味さを覚えるのが嫌で言葉の意味を難しく考える事は早々に辞めてしまった。今日のセオだって今までと変わらなかったのだから俺も今まで通り『頼りになるお兄さん』と思っていていいんだよね。
本当は年下だけどさ。
考えに区切りが付いたところでタイミングよくノックが鳴った。
「悪い、待たせたか?」
「お疲れ様、今日はセオが来てくれたから子供達も遊び疲れて早く眠ったんだ。」
「セオが来てたのか。」
「うん半日お休みだって。でもきっとお休みにならなかったよね。ノートンさんも宿舎で休んだほうがいいんじゃないかって心配してた。」
「いや、休みに残ってるといいように使われるから出掛けるのが正解だ。黒騎士の時から面倒見の良さは評判だったから赤の連中もアレコレ押し付けてるんじゃないか?それに比べたらここで子供達の相手をしたほうがいいに決まってるさ。」
「そっか。」
クラウスがそう言うならセオの優しい嘘の半分は本当の事かもしれない。そう思ったら俺の中の罪悪感も半分になった。
「あ、そうだクラウスはいつもいい匂いがするよね。なんかつけてるの?」
お疲れ様のハグちゅうから抱きついたままのクラウスからは俺の好きな匂いがする。
「……立場上清潔は心がけてるが特にはつけてないぞ。」
「そう?じゃあクラウスの匂いなのかな?」
抱きついたまま首元の匂いをもう一度嗅ごうとしたら両手を振りほどいた挙げ句体をぐるりと外向きに返されてしまった。
「冬夜こそいつも甘い香りがする。」
「俺はお城でもらったの使ってるから……。」
お手入れしてもらった肌が子供達みたいになめらかで少しでもクラウスによく見られくて朝夕に化粧水を使うようになった。それは優しい花の香りがする。ソファーに座るクラウスの膝の上に外向きで座らされ、お返しと言わんばかりに顔をうずめれた首筋にクラウスの鼻が当たってくすぐったい。
「いや、それより前からだ。」
「本当?もしかして甘いもの食べ過ぎかな?」
臭いと言われるよりはいいけれどそれはそれで心配だ。と言うか匂いを嗅ぐなんて行為はシャワー浴びたすぐだからまだいいけど自分がされたら結構恥ずかしいのだとようやく気付いた俺だけど反省する間もなくまた体をくるりとかえされてお姫様抱っこでガッチリと掴まえられてしまった。
その上きれいな眉間にシワを寄せて至近距離でじっと見つめてくる。あれ?なんか機嫌悪いかも。
「ところでなんでそんな話を?まさか今みたいにセオの匂いを嗅いだなんて言わないよな?」
「まさか、セオさんと冒険者の話になったんだ。いつもより沢山いるからってそれでなんとなく?」
俺の返事に更にシワを深く刻んだクラウスに俺の冒険者に対する印象を話したらようやく開放してくれた。
「──それで俺もそう見えるから気をつけてって言われたんだ。」
「そういった市井の情報は被害が出ないと報告が上がらないから助かるな。気をつけておこう。」
「俺も、今度こそちゃんと気をつける。」
「……二度と遅れを取ったりしない。冬夜の護衛騎士の名に恥じぬよう必ず護るよ。」
意気込んだ俺とは裏腹にクラウスは神妙な面持ちだった。ああ、この顔をさせているのは間違いなくこれまでの俺だ。
「クラウスはいつも俺を護ってくれてるよ?」
ほら、こうして体を預けて甘えたらすぐに幸せな気分になれてしまうのだからそんな顔しないで欲しい。
「……目星がついてるならでっち上げてとっ捕まえるか。」
「……クラウス冗談はもう少しわかり易く言ったほうがいいよ。」
眉間にシワを寄せたままボソリとつぶやいたクラウスに俺なりのアドバイスをしてみたけれどその返事は返って来なかった。
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