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第2部 『華胥の国の願い姫』
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しおりを挟む二度目の叫び声を聞きつけて戻ってきた子供達はノートンさんと一緒に洗濯物を取り込んでいてくれたみたいでアンジェラの隣にちょこんと座ったディノは取り込んだばかりのタオルを渡してあげた。
それからロイがアンジェラに「ごめんなさい」と言うとその背中に隠れてたライとサーシャも一緒に謝っていた。どうやらアンジェラの涙に少なからず責任を感じているらしい。
「ううん、私こそ大事な皇子様をしわくちゃなおじいさんだと勘違いしてごめんなさい。それから教えてくれてありがとう。」
アンジェラの変わらない笑顔にホッとした子供達を眺めながら最初に謝ったのがロイだったのが不思議でたまらなかった。
「てっきりサーシャだと思ってました。」
台所でお茶の準備をしながらさっきの疑問をノートンさんにぶつけてみた。
今も隣の食堂からはアンジェラが持ってきてくれた大量のお土産の中からおやつ選びの主導権を握るサーシャの声が聞こえてくる。今の『桜の庭』では日々の行動を取り仕切るのはいつだってサーシャだったしロイはライと一緒で普段から口数が少なく話しかければ返事はするけれど自発的に話しをすることは少ない。
だからこそアンジェラを囲んでもじもじする年中組の中から一歩前に出たのがロイなのは驚きだった。
「そうかい?でも私は予想通りだったよ。確かにサーシャは元気だけど頼りになると言ったらロイだからね。」
聞けば子供達はアンジェラの涙に洗濯物を取り込みながらずっとしょんぼりしていたそう。
アンジェラに謝る姿を少し離れた所からじっと見守っていた優しい金色の瞳を細め満足そうに笑う。
「ロイはずっとお兄さんだったからね。ライが咳が出始めた時はたとえ夜中でもいち早く気づいて私を呼びに来てくれていたんだ。体が弱いせいか熱を出す事も多くてね、そんな時は遊びもせずずっとライに寄り添っていたんだよ。」
「そうなんですか。」
以前からロイの寝起きが良いように感じていたけどそんな理由があったんだ。
じゃあ俺が落ち込んでる時に気づかれてしまうのももしかしたらそのせいかも知れない。
「今日のロイの姿よりもみんなと同じ様に走り回るライの方が私を驚かせているよ。それにライを気にせずに遊ぶロイの姿も見慣れない事だ。どうやって?と聞いた所でキミはわからないと答えるだろうけどライの健康もロイの子供らしさも全てトウヤ君のおかげだよ。本当にありがとう。」
「……はい。」
ノートンさんの言うように身に覚えがないからこんな風にお礼を言われると一瞬戸惑ってっしまうけれど俺の記憶には一度もライが喘息で苦しむ姿はない。レインが教えてくれたように毎日のハグとキスが子供達の健康に役立っているならやっぱり嬉しくてお礼を言われると照れくさい。
よし、これからも遠慮なくいっぱいしよう。
「それはそうとクラウス君はどうしてるんだい?」
褒められて浮かれたところにノートンさんがそんな事を言うから並べたコップをトレイの上でガチャガチャと倒してしまった。
「あれ以来王城へ行ったままだろう?」
「えっと…忙しくてしばらく来られないって言ってました。」
「だけど彼の本来の仕事はトウヤ君のそばにいることじゃないのかい?」
「でもここでは護衛なんて必要ありませんしそんな中でただ立ってるだけなんてなんだか無駄遣いしてるみたいで申し訳なくて。」
一緒にいられるのはうれしいけれど一緒に遊ぶわけにはいかないからなんだかのけ者にしてるみたいで子供達も俺も気になってしまう。
「無駄遣いとは面白いね。確かにその通りだけど逢えないのは淋しくはないかい?もしも私達に遠慮してるのなら気にすることはない。」
「ありがとうございます。」
ノートンさんがこんな話をするのはさっきアンジェラとクラウスの話をしていたからだろうか。別館の改築が決まった時にもノートンさんはクラウスが一緒に暮らす事を歓迎してくれたからせっかく改築が終わったのにそうしないことを心配してるのかも知れない。そしてその心配もやっぱり温かくて嬉しくてちょっぴり照れくさい。
おやつを食べてベッド整えたらアンジェラの髪を結ってあげなきゃいけない時間になった。
子供達はノートンさんが見てくれるからまたふたりきりだ。
「じゃあクラウス様が近衛騎士になったのもトウヤの護衛騎士になるためだったの!?もうなにそれ素敵過ぎるわ!それでトウヤの国の習わしでプロポーズだなんてもうまるで演劇みたい!」
鏡の中アンジェラがうっとりとした表情で何度目かのため息を付く。
桜の下でも質問攻めにするから記憶力の良い子供達も一緒になって桜を咲かせて眠ってしまい起きた直後に泣いた事からクラウスに一日中抱っこされてた事まで知られてしまった。
「そう?」
アンジェラもそう思う?クラウスってばちょっと格好良すぎるよね。
「ふふっトウヤったら幸せそう。いいなぁ私にもそんな人現れないかな。あ、もちろん魔力高めで。」
「そこは譲れないの?」
「もちろんよだって私跡継ぎだもん。ね、もう一度指輪見せて。」
そう言われ左手を差し出せば俺の手を掴んでじっくりと指輪を観察しまたため息をついた。
終始照れくさかったけど好きな人の話しをするのは楽しくて同年代の子達が恋バナで盛り上がる意味のわからなかったあの頃は人を好きになる気持ちを自分が知らなかったからなんだと気がついた。
ドレスに着替えて本来の姿に戻ったアンジェラは一度だけ俺に向かい深々と礼をするといつもの元気な笑顔で子供達に次の約束をして帰っていった。
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