迷子の僕の異世界生活

クローナ

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第2部 『華胥の国の願い姫』

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久しぶりにたくさん遊んだからか子供達はとても早く眠ってしまった。

この時間からしばらくは子供達が起きることはないし今日みたいに楽しく遊んだ日は朝までぐっすりだから安心してクラウスと話ができるのだけどそれには少し早い。

そう思ったらなんとなくこっちに足が向いてしまった。一人で来るのは初めてでそのせいか部屋の雰囲気もなんだか違って見える。

「ひろ……。」

一緒にいた時、もっと暖かくキラキラした印象があったのはクラウスの髪が金色のせいかな。

印象の違う部屋はどうにも落ち着かなくて余計に淋しくなった結果、主のいない部屋のベッドにダイブしてみた。

寝起きしたわけじゃないけど間違いなくここはクラウスの部屋だからなんとなくね。それにほら、他より少し狭いから落ち着くって言うか……ね。

色んな理由を並べても不法侵入に変わりはない。

それにしてもシャツの一枚くらい置いていけばいいのにどうやら俺の旦那さんはキレイ好きみたいだ。クローゼットにある新品の騎士服じゃクラウスを感じられない。

「使ってないから当たり前か。」

ありもしない痕跡を探してしまう程クラウスが足りないのにそれでもまだここで一緒に暮らすつもりはない。

最初は俺もここでクラウスと一緒にすごせたら幸せだと思ったし今もそう思っているけれど実際には難しい。

これからも『桜の庭』で働くと決めたのは自分だし半端に期待させる事がどれ程辛いか知っているから続ける以上これまで通りの仕事をしたい。夜中に目を覚まし俺を頼って来た時に抱きしめてあげたいから自分だけがクラウスに甘えて過ごす事は出来ない。

ただでさえ子供達は今もマリーやレインが離れていった淋しさに加えてセオに会えない事や外にいけない事、他にも沢山の事を我慢してるのに大人の俺が我慢できないなんてダメだ。

「───うん、戻ろ。」

気持ちを入れ替えたつもりで自分の部屋に戻った途端ほわりと光るオレンジ色に会いたい気持ちが顔を出す。

あっちの部屋まで持っていった通信石をいつものように机に置いて外を眺めた。見つめる先には桜があって塀の向こうは見えないけれど毎日タイミングよく光るから縦格子の塀の向こうにクラウスがいるのを俺は毎回想像していたりする。

「お疲れ様クラウス。」

「ああ、冬夜もお疲れ様。今日は来客で忙しかったのか?」

「そんなことないよ。」

アンジェラはセオのように子供達と遊んでセオみたいに俺を手伝ってくれるから今日の仕事は半分しかやってない。昼間はしゃいだ分子供達の夜が早く訪れたから忙しいどころか随分楽をした。その上いつもなるべく長くクラウスの声を聞くために何を話そうか考えるけれどアンジェラのお陰で今日は話したいことが沢山あった。

「それでね、写真も小さいし全然顔を出さないから本当はしわくちゃのおじいさんじゃないかって。ふふっ他にもそう思ってる人いるのかな。」

「その令嬢と随分仲が良さそうだな。」

「うん、良いよ。俺の大事な友達なんだ。」

恋バナの出来る気のおけない唯一の友達。俺の育った養護施設は女の子が多くてアンジェラと話していると懐かしく思う。髪を結ぶのが得意になったのは彼女達の難しい注文を引き受けたおかげだ。施設以外で出会う人はいくら仲良くなっても俺が施設育ちだと知ると態度が変わって嫌な思いをしたけどそれも繰り返せば諦める方が楽だとすぐに覚えた。

今日のアンジェラはそれとは少し違うけれど手を離すのを諦めなかったのはクラウスに諦めないことを教えてもらったからだ。

自信の持てない俺の事をクラウスが諦めないでプロポーズしてくれたように初めての大事な友達を諦めたくなかった。

楽しい一日だったのにどうしてかな、さっき我慢すると誓ったのに今日はあの優しい蒼色が恋しくて仕方ない。

淋しい、声だけじゃ嫌だ。そばにいて触れて欲しいとたった数日で溜め込んだ気持ちが溢れ出てしまう。

「クラウス……逢いに来て。」

望んではいけない事を小さな声で吐き出してすぐに口を塞いだ。大丈夫、聞こえてないはずだ。

「冬夜?」

「まだ出られないんだよね?そろそろ子供達の遊びが尽きちゃってクラウスなにかいいの知らないかな。」

「冬夜。」

「できれば体力使うのが良いんだけど。あ、今日の『うさぎさんころんだ』が可愛かったから明日は猫ちゃんにしようかな。」

「冬夜。」

誤魔化して喋り続けたけれど優しかったクラウスの声がそれを咎める様に俺の名前を呼ぶから次に口を開いたら泣き声になりそうだった。

「さっき、俺に『逢いに来い』って言ったのか?」

「ちが……。」

「違うって言わないでくれ。」

どんなに小さな声もクラウスなら拾ってくれると期待してたくせにいざとなるとそんなズルい自分が恥ずかしくて泣きたくなる。逢えないのは全部俺のせいなのに我儘言って困らせて嫌になる。

「……うん、逢いたいよクラウス。忙しいってわかってるのに我儘言ってごめんなさい。でも逢えるようになったらすぐに俺に逢いに来て欲しいです。」

バレてしまったのなら素直に言うしかない。通信石を頬に抱き寄せ告白すればクラウスのクスクスと笑う声が聞こえてきた。

「なんで笑うの?」

もしかして我慢の出来ない子供みたいだと思った?

「いや、冬夜のかしこまった物言いが可愛くて。でも良かった、俺ばかりが逢いたいのかと思っていた。」

質問の答えは途中から俺の後ろからも聞こえてきた。





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