迷子の僕の異世界生活

クローナ

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第2部 『華胥の国の願い姫』

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ルシウスさんもハインツさんも『桜の庭』へ来る直前に朝ごはんを食べてきたと言うけれど桜の下でのお花見ランチで一緒にお昼を囲むのに何もなしは申し訳なくてトレイに紅茶とお茶菓子を並べてみたら思いの外喜んで食べてくれた。

昼食前にびしょ濡れで息が切れるほどに走り回った子供達はさすがに満足したのか午後はプレイルームで過ごすらしい。

ノートンさんとふたりで片付けをしてプレイルームへ向かうと子供達はハインツさんにルシウスさんも誘って一緒にテーブルで楽しそうにお絵かきをしていた。やっぱりお昼寝は卒業かも知れない。

でもいいのかな?すっかり打ち解けてしまうのが無理もないほど俺に会いに来たはずのハインツさんとルシウスさんにはずっと子供達と遊んでもらって放ったらかしだ。だけど二人共それでいいらしい。

それにしても……。

俺が気になってるのはハインツさんの掛けている眼鏡、お昼ご飯の時にはもう掛けていたんだけど来た時は掛けてなかったからあれは老眼鏡かな。ハインツさんはサンタのような白ひげを蓄えたおっとりした感じのお爺さんなんだけどその眼鏡は金のフレームに大きな宝石がくっついて随分と派手でちょっと仮装みたい。

「トウヤみてみて!サーシャじょうず?」

「どれどれ?わ、すごい上手。」

お絵かき上手のサーシャは桜の木とふたりの魔法士それから自分とその周りに沢山の蝶々を描いていた。

「でぃののもみてみてぇ。」

「凄いね、これ何?」

ディノの絵は画用紙いっぱいの大きな水たまりの中にディノっぽい子供がいる絵だ。

「これね『まじゅう』でぃのたべられてびしょびしょになった。」

「まじゅう?」

楽しかったから絵に書いたんだろうに何故か鼻にシワを寄せてちょっと嫌そうに教えてくれる。

「あのね、こーんなおおきかったのよ。」

サーシャがその大きさを示すように両手を大きく広げ更にジャンプもするから相当な大きさだったのだろう。

「爺様負けず嫌いだから。でも大きけりゃ良いってものでもないよねぇ。」

「フンッ量より質じゃて。のうノートン。」

「どちらにせよ私に真似のできるものではありませんので。」

「じいじノートンさんとなかよし?」

「そうさの、じいじの右腕にするつもりじゃったが逃げられてしまったわ。」

「じいじおててあるよ?」

「はっはっはっあるある、特別小生意気な右腕じゃがの。」

その特別小生意気な右腕はハインツさんには見えないようにあかんべをする。
ルシウスさんとの言い合いに巻き込まれたノートンさんははじめ苦笑いだったけどディノの質問にハインツさんが言った答えには照れくさそうにした。

楽しそうに笑ったハインツさんの両脇はロイとライが陣取っていて人見知りなふたりのまたまた珍しい光景だ。そしてディノやサーシャと違って必死に書き取りをしていた。

「ロイとライは熱心に何を書いてるの?」

「あたらしいもじだよ。」

「じいじにおしえてもらったよ。」

ふたりがそっと差し出したノートにはびっしりと文字が書いてあるのが見て取れた。勤勉なのはふたりに限らずサーシャも同じで、お城に行ってる間に俺の名前を覚えて披露してくれた。

「どれどれ。あ、すごいね文字とハートがいっぱい。『大好き』にこっちは『可愛い』なんて難しいのまで凄い…………ん?あれ?漢字?ってかこれ日本語!?」

読み取れたのはその2つだけどロイとライのノートには他にも懐かしいひらがなやカタカナや漢字ががばらばらに書き連ねてある。

「ほほう、この文字は『ニホン語』と言うのですか。そしてこちらは『だいすき』と読むのですな。こちらの『かわいい』と。」

驚く俺をよそにハインツさんは眼鏡を外すと手元の紙にある日本語にこちらの世界の文字で読み仮名をふった。

「なるほど道理でこちらでよく現れる魔法文字なのですな。『ハート』の文字はこちらでも見かけるものですがトウヤ様に於いては感情を表しておいでのようですな。ではこちらはなんと言う意味であるのか───。」

「魔法士長、一体これはなんですか?トウヤ君が困ってるじゃありませんか。ルシウス君、キミまで一緒になってこんな事……きちんと説明して下さい。」

俺に構わず質問を続けるハインツさんをノートンさんが遮りその声はいつもより低くてふたりがぴたりと止まった。

「すまんノートン。」

「すみません先生好奇心が勝ってしまって。」

「謝る相手が違います!」

普段穏やかなノートンさんが学校の先生みたいに叱りつけ、また謝るふたりの姿に俺も子供達もびっくりだ。あ、でも前にもルシウスさんは叱られてたっけ。

「「これわるいこと?」」

だけどそのせいでロイとライはしょんぼりしてしまいその姿に今度はノートンさんが困ってしまった。

「僕は平気ですノートンさん、久しぶりに見たので驚いただけで。ロイ、ライも大丈夫だよ、これね俺が前にいた所で使ってた文字なんだ。特にこの文字、この『好』や『愛』の字はすごく難しくて学校に4年くらい通ってようやく教えてもらうんだ。本当に上手に書けててふたりとも凄いからびっくりしちゃった。」

不安そうに駆け寄ったふたりをぎゅうっと抱きしめて伝えたら照れくさそうに笑ってくれた。これは安心させるための嘘じゃないよ、だってなんだか懐かしい。

「俺も書いて良い?こう書くとね『ロイだいすき♡』でこれが『ライだいすき♡』だよ。」

こうして久しぶりに書いてみると慣れ親しんだ文字には言葉の意味もしっかりと伝える力がある気がする。

「「こっちとちがうの?」」

「同じだよ。不思議でしょう?」

「「うん。」」

ロイとライはそれからこちらの文字と日本語を組み合わせて『トウヤだいすき』と沢山書いてくれてサーシャとディノにもせがまれて『サーシャかわいい♡』と『ディノかわいい♡』も書いてあげたけどノートンさんはんはまだ少し怒ってるみたいだった。




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