迷子の僕の異世界生活

クローナ

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第2部 『華胥の国の願い姫』

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ベッドに上がってあぐらをかき股間を覗き込む姿はちょっと人には見せられない。

結論を言えば俺の魔法はちゃんと思ったとおりに使えてた。

クラウスの撫でた右足の付け根にくっきりと赤い印が残っていて確かに誰からも見られない場所ではあるけれどこの位置に印があるってことはそこにクラウスが口付けたわけでそれを考えると凄く恥ずかしい。

お風呂で温まった躰に冷たい場所はなくて手のひらでパタパタと扇いで顔の熱を冷ますのは大変だった。

遅い朝ごはんを終えた俺達は浴室の脱衣場の端に積み重ねられた洗濯物を片付けるためにタライを借りに行く事にした。

遅い、と言っても普段お互いに起きるのが早いからあんまり寝坊はできなかったみたいで『桜の庭』では2回目の洗濯物を干し終わるかどうかぐらいの時間だった。

「おはようトウヤ君、体調はどうだい?」

「おはようございますノートンさん。昨日は心配かけてすみません、でも沢山眠ったおかげかなんだか元気いっぱいです。」

執務室へ行くとノートンさんは中へ迎え入れようとしてくれたけど長居をするつもりはなかったのでそれを断り廊下でそのまま返事を返した。

「それなら良かった。念の為首席治癒士が後から来るそうだからまた診察していただきなさい。」

「わかりました。でもわざわざ来ていただくなんてなんか申し訳ないですね。」

「ふふっキミは相変わらずだね。ところでどうしたんだい?こちらへ来ても何もさせないよ。」

わかってるよね?と光る眼鏡のレンズに念押しされてるみたいだ。
ノートンさんがこうして俺を諌めてくれるのは
やっぱり嬉しい。でも本当に平気なのに。
寝起きはあれだったけど治癒魔法のせいか今はなんだか体が軽い。体の中から力がみなぎる、とまで言ったら変かもだけど今なら鬼ごっこでズルなしにレインを掴まえられそうな気がする。クラウスにこの話をしたら「煽られた甲斐があったか」とよくわからない返事が返ってきた。

「いえその……洗濯にタライをお借りしたくて。」

「まさかタライでするつもりなのかい?それならこちらの魔道具を使えば良いじゃないか。」

「でもその……。」

ノートンさんの呆れた視線は俺ではなく背後に立つ騎士服のクラウスに注がれていた。
実はクラウスにもそう言われたんだけど俺としては汚したシーツとかを子供達のと同じ洗濯機を使うのはなんだ気が引けちゃうんだよな。
そんな理由を上手く誤魔化せずクラウスに視線を送るけど騎士に戻ったせいかクラウスは会話に入らなかった。

「ゴホンッ……まあどうせ普段から余ってるんだから持っていっていいよ。他にも必要なものがあれば好きに使いなさい、今回の様にいちいち断らなくていいからね。」

「ありがとうございます。」

そんなやり取りをしてリネン室へ向かったら洗濯を干し終えたハンナさんと鉢合わせした。

「おはようございますハンナさん。」

「おはようございますトウヤ様。体調は如何でございますか?」

「ありがとうございます。いつも通り元気です。」

たとえ社交辞令でも心配されるのってやっぱり嬉しい。

「それは良うございました。ところでこちらへは何を?おりこうにしてませんといつでも報告いたしますよ。」

笑顔でノートンさんと似たような釘刺しをされなぜかちょっとだけ背筋がピリリとした。
もう少しで「明日から戻れるかも」って言いそうだったけどそんな風に言ってくれるならお二人にもう少し甘えてクラウスと過ごす時間を貰ってもいいのかな。

「いえ、あの自分の洗濯するのにちょっとタライを借りに来たんです。」

「あら?なぜでしょう。立派な魔道具がございますのに。」

ハンナさんの反応はノートンさんとは違うものだった。

「え?そうなんですか?」

「あ、じゃあやっぱりあれがそうなのか。」

不思議そうな顔を見せるハンナさんに戸惑いつつ尋ねると後のクラウスがボソリと呟いた。

「え?何?クラウス知ってたの?」

「いや、でも見たことない物だったから確信も無ければ使い方も分からなくて……すまない。」

「分からなかったのは俺もなんだから別に謝らなくてもいいんだけど……。じゃあ浴室にあった謎の白い大きな箱がそうなのかな?」

「多分。」

「入室の許可をいただければ私御指南致しましょうか。」

俺達のおぼつかないやり取りにクスクスと笑いながらハンナさんが声をかけてくれた。

「良いんですか?」

「もちろんでございます。」

ハンナさんは庭で子供達を見ているジェシカさんにその事を伝えて来ると別館までついてきてくれた。

「こちらにございます。」

それは予想通り浴室に置かれた白い大きな箱だった。どのくらいかと言えば人が入れるびっくり箱くらい。ここの脱衣所はお手入れ用のベッドや椅子が置いてあってやたら広いから全然邪魔ではないしむしろ洗濯機の設置場としては最適だ。

「でも触ってもお水とか出ませんでしたよ。」

普段『桜の庭』で使っている洗濯機はもっと大きくコインランドリーにある一番大きいやつぐらいで見た目もよく似てる。洗濯物を入れて洗剤を入れて魔法石を触ると普通に水が出てきてぐるぐる回けれど、この白い箱は装飾もあるしなんか本当に豪華なびっくり箱みたい

「トウヤ様が普段お使いになっているものは余り魔力の負担がない魔道具でございます。ですがこちらは魔力の負担の大きい浄化魔法を使う魔道具ですので根本的に仕様が違います。」

「浄化魔法ですか?」

「はい、ですから中に浄化対象がございませんと作動致しませんしもちろんお水も出ません。こちらにこの様に洗濯物を入れて頂いてこの魔法石に触れていただければほら、この様に汚れは浄化されてしまいます。」

「あ、あの……。」

ハンナさんはわざと遠ざけてあったシーツをさっと手に取ると箱の中に入れ飾りと思っていた方の大きな魔法石に触れるとすぐに取り出して広げて見せてくれたけど思わず俺は顔を隠してしまった。

「……あれ?わ、キレイ。」

ハンナさんが広げたシーツは汚れひとつない新品みたいだった。

「わ~すごい便利。」

「ほほほ、王城に設置されているものと同じだそうですよ。流石に少々魔力を持っていかれますね。」

「わ、そうなんですかごめんなさい!大丈夫ですか?」

ハンナさんが眉をひそめてこめかみを押さえていた。

「いえ、このくらいでしたらすぐに回復致しますしこちらでは仕事に魔力を多用する事もございませんので問題ありません。ですがもうしばらくはお使いになる際、トウヤ様ではなく旦那様にお任せになって下さいませ。」

「へ!?あ、はい、そう、し…ます。」

「あ、それと昨日のご衣装もおまかせいただければクリーニングの手配をさせていただきますよ。」

ニコリと笑うハンナさんはいつもとちょっと違っていてそう言えばリシュリューさんちの侍従さんだったなぁって思ったけどそれよりもクラウスの事を『旦那様』って言われたことがちょっと、いやものすごく嬉しかった。




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