迷子の僕の異世界生活

クローナ

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皇子様のお披露目式

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皇子であって皇子でない。その俺にはどれ程の責任が伴うのだろう。

ついこの間まで学生だったのにちゃんと自分の立場を理解しているエリオット様の背中を目で追いながら部屋に戻る直前でクラウスが不意に足を止めた。
そうなるとクラウスの右腕に掴まっている俺の足も当然止まるわけでなにかあるのかと見上げたら少し心配そうな顔で俺の目のすぐ下を指の背で確かめるようにそっと撫でた。

「大丈夫か?」

本当にクラウスには誤魔化しが効かない。

「うん、平気だよ。クラウスこそその…もう痛くない?」

「ああ、あのくらい平気だ。それに俺にはいつだって冬夜がついていてくれるからな。」

左手の袖口を引いてミサンガを見せてくれた。俺がびっくりしてるうちにちゃんとおシゴトしていたらしい。

「……今度新しいの作るね。」

「なんでだ?」

なんでって普段は余り見えないから気にならなかったけれど改めて見ると少し野暮ったい。新年の儀式のためか今日のクラウスは普段の騎士服に加え金糸と銀糸を織り交ぜた帯を右肩から斜めにたすき掛け腰にくるりと回してさっき王様から貰った剣を差している。今日の近衛騎士は全員その格好をしていた。
作り直したところで釣り合わないのは変わらないけれどせめて今日つけている帯の様な感じにしたら少しはマシな気がした。

「色味が騎士服に合ってないかなって。」

「冬夜の色だ、俺はこれが良い。」

愛おしそうにミサンガに触れる優しい指先に自分が撫でられているかの様な錯覚をしてしまう。
あの時の事は全部俺の誤解でもうなんとも思っていないのにクラウスの言葉でウォールでの記憶が不意に思い出されて失くしたものを再び手に入れたような感覚を覚えた。
クラウスはどうしてこんなに欲しい言葉ばかりくれるんだろう、俺には勿体ない。でももう手放せやしない。

「さっきは上手く言えなくてごめん、俺もクラウスがいい。ううん、俺の護衛騎士はクラウスじゃなきゃ嫌だ。」

「さっき自重しろって言ったはずだけど?」

「わっ!」

いつの間にかアルフ様がなかなか入って来ない俺達を戸口から呆れきった顔で見ていた。べ、別にそんなにいちゃいちゃしてなかったよね?

慌てて中に入ると王様と宰相さんもいて更にびっくりしてしまった。どうやら通路は他にもあるらしい。

王様は王妃様とお揃いの金色の衣装で仲睦まじく一緒にソファーで寛いでいたけれど俺を見つけるとおはようのハグとちゅうの後可愛い可愛いと何度もハグをして王妃様の侍従さんに叱られた。

御用始めの儀はもう間もなく始まるらしく宰相様が俺のために式の流れを簡潔に説明した。
でもエリオット様とクラウスだって初めてのはず。

「いえ、私はさっきのように毎年袖で見て来ましたから。」

「警備の為流れは一通り。」

なんかちょっとだけ裏切られた気分だ。

「トウヤでも緊張するのか?私と初めて対峙した時は随分堂々としていたではないか。」

俺だって緊張くらいする。堂々としていたなんて言われてもあの時は子供達を守りたい一心で気を張っていた。それでも扉の前で怖気づいた俺をクラウスが支えてくれたんだ。

「本日のお披露目式ではトウヤ様のお顔を見せていただければ十分です。後のことはお任せください。それとトウヤ様が彼を最も信頼してるのはわかっておりますが第一皇子様にエスコートしていただくことにも少なからず意味を含んでおりますので申し訳ありません。」

視線の先を知れてちょっと恥ずかしいけど宰相様相手には今更か。

「トウヤは取り敢えずいい顔で笑っていろ。」

「『いい顔』…ですか?」

アルフ様は長い脚を組んだ上に頬杖を付きながらニヤッと笑った。

「ほら、あれだ。学校で私にやったヤツ。」

「ああ。」

首を傾げると「あれですね」とポンと手を叩いて返事をしたのはエリオット様で俺にはさっぱり思い出せない。どれだ。

「多分あれかな『とまりぎ』で客相手にやってたやつ。」

クラウスの助言は的確だった。

「はい。」

それくらいなら得意だし大丈夫だ。

俺が頷いたのを確かめると宰相様は慌ただしく部屋を去り、ユリウス様を初めクラウス以外の護衛騎士は会場の警備に向かった。

もちろん俺達にもゆっくりする時間はなく間もなくやってきた紺色の騎士の声かけにそれぞれが立ち上がった。

うん、大丈夫。

今まではなんだってひとりでこなしてきた。怖がったところで手を差し伸べてくれる人はいなくて辛い時も不安な時も全部ひとりで受け止めてきた。そしてどんな事も過ぎてしまえば悩んだ程大した事ではなかったと知っている。

そんなふうにやり過ごしてきた中で一番効果があったのは知らないモノは知っているモノに置き換えること。

だから今から行われる御用始めの儀とお披露目式は俺にとっての『始業式』それとこの世界への『入学式』

違う場所で同じ様に入学式を迎えているマリーとレインから貰ったミサンガが俺の髪にあって足を踏み出す勇気をくれる。
それにクラウスはそばにいてくれるし指輪とお護りもある。

今の俺は案外無敵かも知れない。




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