245 / 333
変わる環境とそれぞれの門出
245
しおりを挟む翌朝起きてきたマリーとレインは目蓋を赤く腫らしていた。
セオは『あっさり』なんて言ってたけど部屋に戻ったふたりはそれぞれ泣きながら眠ったに違いなかった。
「おはようマリー、レイン。」
今日も元気いっぱい遊ぼうね。
互いに確認して自分の顔の状態がわかっているようでマリーが前髪で顔を隠しながら恥ずかしそうに近寄って来る。
俺は毎朝繰り返してきたいつものハグちゅうをしてマリーの目蓋の腫れ具合を間近で確かめようと覗き込むとすでにスッキリした顔に戻っていて驚いてしまった。
そんなつもりはなかったのに治癒してしまうなんて通りで子供達が気付く筈だ。でもこんな事で子供達が文字通り元気でいられるのならお安い御用だ。
うん、もっといっぱいハグちゅうしちゃおう。
「おはようトウヤ。」
マリーの様に隠す前髪のないレインは視線を外しながら近寄って来ると軽く両腕を広げ自ら頬を差し出した。
「ねえ、もしかしてこうやってたまに積極的な気がする時ってどこか怪我してたの?」
ハグちゅうを済ませ捕まえたままこちらも腫れぼったさが取れてすっきりとした目元になったレインに問えばニヤっと笑って簡単に抜け出されてしまった。
どうやら俺は気付かないうちにレインに便利に使われていたみたいだ。
これなら飾りボタンの事に気付かないまま渡してしまっても賢いふたりなら案外上手く使ってしまえたかも知れない。
洗面台へ向かうみんなを見送って俺は食事の支度に向かいながら今朝の目蓋を腫らした二人の姿をセオに教えてあげたいと思った。
昨日の夜、セオの言葉をどう受け止めるのが正しいのかしばらく考えた所為で今朝は少し寝不足だ。何しろ『内緒』と言われたからクラウスに相談も出来なかった。
以前リトナに似たような事を言われたけれどあの時はこの世界の結婚の話しを聞いたばかりで深く考えていられなかった。でもリトナが『僕達の為にも』と言った言葉はセオの言ったのとは少し違うと思っている。
リトナもカイと同じで俺に好意を持ってくれているのかなと思ったけれど改めて考えてみればそうではなくてリトナはカイが好きなんだと思う。
これにはちゃんと理由があって教会でカイに寄り添う姿も言葉遣いに反して涙を拭う優しい指先もそして優しい視線もどれもクラウスを思い出させるから。だから俺が結婚する事が俺を好きなカイとカイが好きなリトナのためになるという事できっと間違ってない。
『カイの為にも俺の為にも』
その言葉が心に引っかかって見上げた時の辛そうに笑うセオの顔が今も目に焼き付いている。でもすぐにいつものお日様のような笑顔に変わったから余計に混乱して何も聞けないままセオは帰っていってしまった。
あれをセオが俺の事を好きだと言う意味だ思うのは自惚れだろうか。でもカイやましてやクラウスの事を好きだと言う意味でもないと思う。
リトナにも『鈍感だ』と言われたけれど俺は長い間人との間に壁を作って相手に踏み込ませない代わりに自分からも踏み込まないようにして来た。それは元の世界で身についた自衛のようなものでセオの事もノートンさんの事も信頼しているけれど染み付いてしまったものは自分でもどうにもならない。
クラウスはその壁を叩き割ってくれたけれどそれでもやっぱり怖くて最初の一歩を踏み出すのには随分時間がかかってしまった。
セオと直前にした『好き』の告白はお互いに子供達と同じ『好き』だったはずなのになんで急にあんな事を言ったのかわからない。
俺にとってセオが養護施設の職員のお兄さんみたいだった様にセオにとって俺は『チビ達みたい』だった筈だ。
これまでの記憶の中でも勝手に治癒したことを怒ってノートンさんに言い付けられた事や掃除道具を取り上げられた事はあっても俺の事をそういう意味で好きなのだろうかと思う様な行動は示された覚えがなかった。
そうやって悩んで考えているうちになんだか腹が立ってきた。
大体いくら俺が鈍感だからってあんな曖昧な言葉じゃわかるわけないだろ?何だよ俺をこんなにも悩ませといて自分だけスッキリした顔で笑っちゃってさ。
『少しくらい俺の事意識して下さい』だなんて……。
「あんなの、俺への告白なんて思わないんだからな!」
しばらく会えないと言うのに走っていく背中を何も言えずに見送ることになってしまった腹いせにそれだけを言葉にだして掛布を頭からかぶって目を瞑った。
いつものお日様みたいな傍にいたらほっとする笑顔でさっさと結婚しろって言ってくれたのはクラウスとの事を認めてくれているから。
はっきり言わなかったのもこれから先も俺のお兄さんでいてくれるつもりだとそう思っていいんだよね?
それが悩みに悩んで俺が辿り着いた答えだった。
……それにしてもクラウスに内緒にする事とセオの『長生き』と何が関係あるんだろう。
「ねえもうこれ運んでいいの?」
昨日の夜に結論は出したはずなのについ考え込んでしまっていた。
「あ、ごめんねマリーちょっとだけ待って。今朝りんごをいただいたんだ。」
カイとリトナがくれた差し入れをうさぎりんごにしてみんなのお皿に乗せてオッケーを出す。
今日のティーポットの中にはその皮と芯を入れてあるから紅茶が甘い香りになってちょっとだけ贅沢な気分になる。
「さ、朝ごはんにしよう。」
そう、今日は大事な一日だから考えるのは子供達のことだけにしなくっちゃ。
みんなで過ごせる最後の日なんだから。
58
お気に入りに追加
6,212
あなたにおすすめの小説
黒王子の溺愛
如月 そら
恋愛
──経済界の華 そんなふうに呼ばれている藤堂美桜は、ある日パーティで紹介された黒澤柾樹に一目惚れをする。
大きなホテルグループを経営していて、ファンドとも密接な関係にあるというその人が、美桜との結婚を望んでいると父に聞かされた美桜は、一も二もなく了承した。
それが完全な政略結婚であるとも知らずに。
※少し、強引なシーンがあります。
苦手な方は避けて下さいね。o(_ _)o
※表紙は https://picrew.me/share?cd=xrWoJzWtvu #Picrew こちらで作成させて頂きました!
投了するまで、後少し
イセヤ レキ
BL
※この作品はR18(BL)です、ご注意下さい。
ある日、飲み会帰りの酔いをさまそうと、近くにあった大学のサークル部屋に向かい、可愛がっていた後輩の自慰現場に居合わせてしまった、安藤保。
慌ててその場を離れようとするが、その後輩である飯島修平は自身が使用しているオナホがケツマンだと気付かないフリをさせてくれない!
それどころか、修平は驚くような提案をしてきて……?
好奇心いっぱいな美人先輩が悪手を打ちまくり、ケツマンオナホからアナニー、そしてメスイキを後輩から教え込まれて身体も心もズブズブに堕とされるお話です。
大学生、柔道部所属後輩×将棋サークル所属ノンケ先輩。
視点は結構切り替わります。
基本的に攻が延々と奉仕→調教します。
※本番以外のエロシーンあり→【*】
本番あり→【***】
※♡喘ぎ、汚喘ぎ、隠語出ますので苦手な方はUターン下さい。
※【可愛がっていた後輩の自慰現場に居合わせたんだが、使用しているオナホがケツマンだって気付かないフリさせてくれない。】を改題致しました。
こちらの作品に出てくるプレイ等↓
自慰/オナホール/フェラ/手錠/アナルプラグ/尿道プジー/ボールギャグ/滑車/乳首カップローター/乳首クリップ/コックリング/ボディーハーネス/精飲/イラマチオ(受)/アイマスク
全94話、完結済。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
【完結】氷の騎士は忘れられた愛を取り戻したい〜愛しています〜令嬢はそれぞれの愛に気づかない
たろ
恋愛
★失った記憶①
何作か記憶を無くした話を書こうと思っています
婚約解消をわざわざ誕生日に父に言われた。
どうせなら他の日に言ってくれたらいいのに。
お父様は娘のわたしに対していつも怒っているようにしかみえない。
王子との婚約解消で学園に行けば好奇な目で見られる。そんな苦痛な生活を送るならば母の療養先の領地で新たに学校に通いたい。
お父様に言えばまた何か言われそう。
それならばとお兄様に頼んで口添えをしてもらう。
そして、お母様の住む領地で、新しい生活を始めた。
わたしは忘れていたようだ。
大切な思い出を。そして想いを。
少しずつ忘れていたものを取り戻していくお話です
★少しタイトルを変更しました。
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる