迷子の僕の異世界生活

クローナ

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変わる環境とそれぞれの門出

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翌朝起きてきたマリーとレインは目蓋を赤く腫らしていた。

セオは『あっさり』なんて言ってたけど部屋に戻ったふたりはそれぞれ泣きながら眠ったに違いなかった。

「おはようマリー、レイン。」

今日も元気いっぱい遊ぼうね。

互いに確認して自分の顔の状態がわかっているようでマリーが前髪で顔を隠しながら恥ずかしそうに近寄って来る。
俺は毎朝繰り返してきたいつものハグちゅうをしてマリーの目蓋の腫れ具合を間近で確かめようと覗き込むとすでにスッキリした顔に戻っていて驚いてしまった。

そんなつもりはなかったのに治癒してしまうなんて通りで子供達が気付く筈だ。でもこんな事で子供達が文字通り元気でいられるのならお安い御用だ。

うん、もっといっぱいハグちゅうしちゃおう。

「おはようトウヤ。」

マリーの様に隠す前髪のないレインは視線を外しながら近寄って来ると軽く両腕を広げ自ら頬を差し出した。

「ねえ、もしかしてこうやってたまに積極的な気がする時ってどこか怪我してたの?」

ハグちゅうを済ませ捕まえたままこちらも腫れぼったさが取れてすっきりとした目元になったレインに問えばニヤっと笑って簡単に抜け出されてしまった。
どうやら俺は気付かないうちにレインに便利に使われていたみたいだ。

これなら飾りボタンの事に気付かないまま渡してしまっても賢いふたりなら案外上手く使ってしまえたかも知れない。

洗面台へ向かうみんなを見送って俺は食事の支度に向かいながら今朝の目蓋を腫らした二人の姿をセオに教えてあげたいと思った。

昨日の夜、セオの言葉をどう受け止めるのが正しいのかしばらく考えた所為で今朝は少し寝不足だ。何しろ『内緒』と言われたからクラウスに相談も出来なかった。

以前リトナに似たような事を言われたけれどあの時はこの世界の結婚の話しを聞いたばかりで深く考えていられなかった。でもリトナが『僕達の為にも』と言った言葉はセオの言ったのとは少し違うと思っている。
リトナもカイと同じで俺に好意を持ってくれているのかなと思ったけれど改めて考えてみればそうではなくてリトナはカイが好きなんだと思う。
これにはちゃんと理由があって教会でカイに寄り添う姿も言葉遣いに反して涙を拭う優しい指先もそして優しい視線もどれもクラウスを思い出させるから。だから俺が結婚する事が俺を好きなカイとカイが好きなリトナのためになるという事できっと間違ってない。

『カイの為にも俺の為にも』

その言葉が心に引っかかって見上げた時の辛そうに笑うセオの顔が今も目に焼き付いている。でもすぐにいつものお日様のような笑顔に変わったから余計に混乱して何も聞けないままセオは帰っていってしまった。

あれをセオが俺の事を好きだと言う意味だ思うのは自惚れだろうか。でもカイやましてやクラウスの事を好きだと言う意味でもないと思う。

リトナにも『鈍感だ』と言われたけれど俺は長い間人との間に壁を作って相手に踏み込ませない代わりに自分からも踏み込まないようにして来た。それは元の世界で身についた自衛のようなものでセオの事もノートンさんの事も信頼しているけれど染み付いてしまったものは自分でもどうにもならない。
クラウスはその壁を叩き割ってくれたけれどそれでもやっぱり怖くて最初の一歩を踏み出すのには随分時間がかかってしまった。

セオと直前にした『好き』の告白はお互いに子供達と同じ『好き』だったはずなのになんで急にあんな事を言ったのかわからない。

俺にとってセオが養護施設の職員のお兄さんみたいだった様にセオにとって俺は『チビ達みたい』だった筈だ。
これまでの記憶の中でも勝手に治癒したことを怒ってノートンさんに言い付けられた事や掃除道具を取り上げられた事はあっても俺の事をそういう意味で好きなのだろうかと思う様な行動は示された覚えがなかった。

そうやって悩んで考えているうちになんだか腹が立ってきた。

大体いくら俺が鈍感だからってあんな曖昧な言葉じゃわかるわけないだろ?何だよ俺をこんなにも悩ませといて自分だけスッキリした顔で笑っちゃってさ。

『少しくらい俺の事意識して下さい』だなんて……。

「あんなの、俺への告白なんて思わないんだからな!」

しばらく会えないと言うのに走っていく背中を何も言えずに見送ることになってしまった腹いせにそれだけを言葉にだして掛布を頭からかぶって目を瞑った。

いつものお日様みたいな傍にいたらほっとする笑顔でさっさと結婚しろって言ってくれたのはクラウスとの事を認めてくれているから。

はっきり言わなかったのもこれから先も俺のお兄さんでいてくれるつもりだとそう思っていいんだよね?

それが悩みに悩んで俺が辿り着いた答えだった。

……それにしてもクラウスに内緒にする事とセオの『長生き』と何が関係あるんだろう。

「ねえもうこれ運んでいいの?」

昨日の夜に結論は出したはずなのについ考え込んでしまっていた。

「あ、ごめんねマリーちょっとだけ待って。今朝りんごをいただいたんだ。」

カイとリトナがくれた差し入れをうさぎりんごにしてみんなのお皿に乗せてオッケーを出す。
今日のティーポットの中にはその皮と芯を入れてあるから紅茶が甘い香りになってちょっとだけ贅沢な気分になる。

「さ、朝ごはんにしよう。」

そう、今日は大事な一日だから考えるのは子供達のことだけにしなくっちゃ。

みんなで過ごせる最後の日なんだから。




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