迷子の僕の異世界生活

クローナ

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変わる環境とそれぞれの門出

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お言葉に甘えていつもより少しだけゆっくりシャワーを浴びて小さい子組の部屋へ近づくと賑やかな声が聞こえてきた。

そっと部屋を覗くとみんなで楽しそうに歌に合わせて手遊びをしていた。

それは俺の知らないこの世界の歌。普段は俺が教えた手遊びで遊ぶ子供達もあまり知らないみたいで間違えてはサーシャがぺろっと小さな舌を出す。そんな中でジェシカさんとハンナさんそして子供達の中では唯一マリーが先生になって遊んでいた。

「あ、トウヤ来たなら声かけろよ。」

「ごめんレイン、みんな凄く楽しそうだったから。シャワーお先に。」

1人でシャワーを浴びるレインはいつも最後だ。最近メキメキ上達した風魔法で俺の髪を乾かすと着替えを持って部屋を出ていった。

「レインくんもマリーちゃんも入学前なのに魔法が随分上手ね。」

「ノートンさんの教え方がいいのよ。でもトウヤは全然出来ないけどね。」

ジェシカさんに褒められてそんなふうに謙遜して見せたかと思えば俺にはいつものしたり顔を向ける。そう、実はノートンさんに何度か教えてもらったけれど治癒以外の魔法はどうしても出来なくて相変わらず髪を乾かすのはマリーとレインにお世話になっている。2人が入学したらノートンさんが手伝ってくれる事になってるんだよね。

「いいの俺は人に乾かしてもらうのが好きなんだから。それよりさっきの手遊び俺にも教えて?」

不要になったバスタオルを洗濯物のかごに入れてさっきまでレインが座っていたディノのベットに腰掛けた。

「じゃあもう一度初めからね、せーの。」

マリーの音頭で歌が始まった。それはとても賑やかな曲で手遊びは途中で隣の人と手を合わせる。
シャワーから戻って楽しそうなその光景を見た俺はジェシカさんやハンナさんにお母さんの姿を重ねていた。

この手遊び歌はいつからあるんだろう。もしも転移する事が無かったら、お父さんとお母さんが生きていたら俺もこんなふうに歌を聞いて育ったんだろうか。

親を想う事なんて今までしたくても出来なかった。少しだけ鼻の奥がツンとしたけれど淋しさよりも頂いた絵のおかげでお母さんの顔を思い浮かべられる事が嬉しかった。

忘れてしまわないように今度お城に行ったらなるべく長く見ていよう。それから俺の教えた手遊び歌で遊ぶ子供達も可愛いけれどこの世界のこういう歌をもっと知りたいな。自分が触れて育つはずだった母から子に伝わるもの、そしてそれを『桜の庭』で生きるディノ達と分け合えたらいいな。

レインが戻ってきて後は絵本を読んで眠るのだと話すとジェシカさんとハンナさんは「じゃあまた明日まいります。」と言って子供達におやすみの挨拶をした。

「今日はありがとうございました。あの……また明日さっきみたいな歌を教えてもらえませんか?」

「はい。もちろんです。」

「では昔を思い出しておきますわ。」

俺のお願いに2人は笑顔で応えてくれた。一緒に返事を聞いていた子供達も大喜びだ。おかげで絵本よりも明日が待ち遠しくて仕方ない。

「知らないの?明日は早く眠ると早く来るのよ?」

マリーのひと声に小さい子組が一斉に口を小さな手で塞いだ。

「ありがとうマリー。」

お礼を言って自室に戻るマリーとレインにおやすみのハグちゅうをした。
そしてマリーの魔法の言葉のおかげで3冊の絵本を読み終える頃には全てのベットから小さな寝息が聞こえてきて夢の住人となった子供達の無防備なほっぺにおやすみなさいのちゅうをした。

今日はこれで終わりじゃなかった。

突然の訪問者の事でこの後ノートンさんの所に行くことになっている。部屋に戻って寝間着から普段着に替えた俺は少し悩んだ末通信石を持ってノートンさんの執務室へ向かった。
部屋にいないうちにクラウスから連絡が来たら長くいるにはまだ肌寒い外で待たせてしまうと思ったから。クラウスを優先させてしまう俺を見てノートンさんは笑うだろうか。

そんな心配が必要なかったと知るのはノックをした後に中から扉を開けられた時だ。
すぐに外に出られる様にと腕に上着と通信石を抱えた俺を見て嬉しそうに笑ったのはそのクラウスだった。

「──来てたんだ。」

大好きな空の蒼色が煌めく笑顔にクラウスの腕に飛び込んでしまいたかったけれどノートンさんの前だからその気持をぐっとこらえた俺は偉いと思う。

部屋の中にはノートンさんにクラウス。そして朝のようにテーブルに図面が広げられソファーの横に立つトマスさんがいた。

「お疲れ様トウヤ君、私の隣に座ってもらえるかい。」

そう言われノートンさんの定位置の横に移動するとクラウスが少し後ろをついて歩き俺が座るとその真後ろに立ち、続けてノートンさんとトマスさんが腰を下ろした。

「どうかしたかい?」

「いえ、大丈夫です。」

そう応えたけれど内心全然大丈夫じゃない。2人の奇妙な態度に思い出したのは学校でアルフ様が現れた時の事だった。でも俺には身の丈に合ってないからその気遣いを申し訳ないと思いながら背筋だけは伸ばしてみた。

「クラウス君は少し前に来てくれたんだ。今日は子供達と彼女たちを任せっぱなしにしてしまったがどうだったかな?」

「はい、ジェシカさんもハンナさんもとてもいい方で子供達もすっかり懷いて明日も来てくれると聞いたら大喜びでした。僕もすっかりお世話になってしまって申し訳ないくらいです。」

「それは良かった。これならセオが来れなくても安心して出掛けられるね。」

「はい。」

そう、お披露目式は前日からお城に行くことになっている。出かける時いつもセオを当てにしてしまって本当に申し訳ないのだけど前日はお休みではないし御用始めの儀当日はセオも主役だから絶対に頼むなんて事は出来ない上にマリーとレインもすでに『桜の庭』にはいない。
ノートンさんは大丈夫だと言うけれどマリーとレインがいなくなってすぐにセオも来れない中小さい子組を置いて出かけるのが心配でなんとか最小限の外出時間で済むように出来ないかクラウスに聞いてもらっていた。

「じゃあ次は別館のことなんだけどトマスさんが早速新しい設計図を持ってきてくれたから見てくれるかい?」

「え?もうですか?」

「はい。首席補佐官殿から『早急に』と言われておりますので。王城とは建物の大きさが違いますので少々狭くなってしまいますがお気に召していただけたと言うことなので造りは同じに致しました。では図面を見ながら説明をさせていただきます。」

高校の選択で少しかじったくらいじゃ図面なんて読み取れないけれどトマスさんの説明と実物を見た後だからなんとなくわかる。応接室に寝室にサニタリールーム。別館は普段鍵がかかっているから立ち入った事は無いけれど外観の大きさは今使っている建物とほとんど変わらない。その建物の二階の半分を使うのだから充分広すぎると思う。

「ゆくゆくはご結婚相手もご一緒にお住みになられると言うことなのでトウヤ様のお部屋が終わり次第屋敷全体の改装も順次行って参ります。」

トマスさんの説明に思わず視線を送った。

「クラウスは知ってた?」

「いえ。」

視線を受け止めた背中の近衛騎士は短くそう答えた。





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