迷子の僕の異世界生活

クローナ

文字の大きさ
上 下
228 / 333
変わる環境とそれぞれの門出

228

しおりを挟む



リシュリューさんはメイドさんとトマスさんを残し足早にお城へ戻って行った。

俺とノートンさんが庭へ行くと気が付いた子供達がこちらへ走ってきた。

「ねえあの人達なに?」

リシュリューさんが連れてきた人は例外なく俺より身長も高く年齢も多分俺の同級生の母親くらいだろう。足元まであるワンピースにエプロンでいかにも『お屋敷のメイドさん風』でマリーとレインは少し警戒してるみたいだった。
初めて会った時、ふたり共俺のことは学校をサボった学生だと思いこんでいたからすぐ仲良くしてくれたけれど『大人』相手にはそうはいかないらしい。

かといって俺もノートンさんも聞いたばかりの話しを子供達になんて説明しようか迷っているところへその2人が近寄ってきた。

「こんにちは、私はジェシカと言います。『ジェシー』と呼んでね。」

「こんにちは、私はハンナと言います。少しの間こちらのお仕事を勉強させていただくことになったのどうぞよろしくね。」

ジェシカさんは肩までの真っ直ぐな茶髪の髪をきちんと結んでいてハンナさんは少しふくよかでこちらも茶色の髪だけど長いのか頭の後ろでお団子にしていた。

「少しだけ?」

「おべんきょう?」

「ええ、少しだけ。でも仲良くしてくれると嬉しいわ。」

ハンナさんがしゃがんでサーシャに視線を合わせるとマリーは少し緊張を解き、それを感じ取ったのか子供達は照れくさそうに自己紹介をした。

「では私達は掃除に戻ります。終わったらまたお声をおかけいたしますね。」

そう言うと2人は無理に子供達と関わろうとはせず仕事に戻った。

「じゃあとおやもうあそべるぅ?」

「うんそうだね、ジェシーさんとハンナさんが代わりにしてくれるから。」

「やった~。」

ディノに飛びつかれしゃがんでいた俺はいつもの様に力負けしてそのまま芝生に転がった。こうなると必ずサーシャも乗るしロイとライも混ざってしばらく起きれない。マリーは面白がって笑うからレインが助けてくれるまで存分にじゃれて遊ぶのが好きだ。

ノートンさんはそんな俺達を見てクスクスと笑うとトマスさんの様子を見に行くと言って館の中へ戻っていった。

『終わったら』なんて言いながらジェシカさんとハンナさんは俺が言った今日の場所以外も掃除してくれてるようでカイとリトナがお昼ごはんを運んでくれる時間まで声を掛けて来ることはなかった。



「スープとパンは朝1日分をまとめて届けてもらいます。それぞれの量はこのくらいです。」

テーブルを拭いてカトラリーを並べた後ジェシカさんとハンナさんは子供達のお皿の盛りつけを確認していた。

「こちらでも手を加えるのですね。」

「はい、作っていただく物が大人と同じ大きさなので小さい子達には食べにくいみたいです。」

「小さいとそうですわよね、すっかり忘れてしまいますわ。」

準備の中雑談をしてふたりとも成人した子供が2人ずついる事を知った。届いたものはちゃんとジェシカさんとハンナさんの分もあって食堂に椅子を追加して一緒にご飯を食べた。

片付けも3人でやればあっと言う間だ。
おかげでお昼寝前の遊び時間がたっぷりあった。

お昼寝が終わった後も一緒に洗濯物を取り込んだりシーツを掛けたり服を畳んだり。いつものことを3人でするから小さい子組が起きる時間までに随分余裕が出来たのでお茶を飲んで休んでもらうことにした。階段の手すりまでピカピカに磨き上げてくれた2人に休憩を取ってもらうことを失念してたなんてここがブラックな職場だと思われたら俺のせいだ。

「すみません、おふたりにばかりお仕事させてしまって。」

「そんな事ございません。お昼ご飯の後は小さいお子様がお昼寝なさるまでゆっくりさせていただきましたわ。トウヤ様こそ働き詰めでございますでしょう。」

「いえ、僕こそおふたりのおかげで今日は殆ど遊んでばかりです。」

「……ずっとお仕事なされていましたよね?」

「いえ、ずっと遊んでたじゃありませんか。」

本当の事を言っただけなのに2人は顔を見合わせてクスリと笑った。

「ふふっそう感じていらっしゃるのでしたらトウヤ様にこちらのお仕事はとっても合ってらっしゃるのですね。」

「合ってるなんて……そんなふうに言われると嬉しいです。」

よくわからないけれど『桜の庭』が合ってると言われて凄く嬉しかった。俺に取って最高の褒め言葉だ。大人の人に面と向かって褒められる事のはあまり経験がなくてなんだこそばゆかった。

子供達が起きてきてもう一度お茶とおやつを食べると後片付けも引き受けてくれた。

そして夕飯の届く時間まで俺は子供達と遊んでジェシカさんとハンナさんはその近くで俺たちの様子を目に入れながら窓拭きや庭掃除などしてくれていた。

そんなふうに無理に子供と関わろうとしないのが良かったのか徐々に距離が近づいてお風呂上がりに身体を拭いてもらう頃には随分と懷いていた。

「お風呂の介助もなさるのですね。よく本当に手を掛けていらっしゃるわ。」

そう言ってくれたけれど今日の俺は下は短パンで上はシャツを着たままシャワーの終わったディノを拭いていた。

「いえ、つい先日まで一緒に入って頭とか洗ってたんですけど1度自分でしたら面白かったみたいでやらせて貰えなくなちゃって今日も髪を流すのを少し手伝っただけです。」

それは先日の虫刺されが原因だった。子供達が出来ることが増えるのは嬉しいけれど髪をアワアワにして遊んだりディノのまあるいお腹やちっちゃなすべすべのお尻を洗ってあげる事が出来なくて楽しみが減ってしまった。

「ねぇでぃのじょおず?」と得意げに聞くたび勿論褒めちぎってしまうから『自分で』ブームは終わらなさそうだ。

「あらあら、子供の成長は喜ばしいですけど同時に淋しいのですね。本当にお母様みたいですわ。」

「とおやさみしいの?」

「とおやうれしいの?」

あっさり本心を見抜かれて恥ずかしい。ハンナさんが赤くなった俺を見てクスクス笑いそれをロイとライが聞きつけて寄ってきた。

「じゃあでぃのがだっこしてあげるぅ。」

そう言ってしゃがんでいる俺をディノがぎゅうって抱きしめてくれた。

「本当に仲のおよろしいこと。ほらほらトウヤさんが濡れてしまいますわ。皆さんは私と着替えをしてトウヤさんにはシャワーを使ってもらいましょう。」

「「「は~い。」」」

「たまにはごゆっくりどうぞ。お部屋で皆様とお待ちしていますわ。」

「ありがとうございます。」

ハンナさんにすっかり懷いている事に大きな安心と少しだけ嫉妬も覚えながら『桜の庭』に来て初めて本当にゆっくりシャワーを浴びさせてもらった。






しおりを挟む
感想 229

あなたにおすすめの小説

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

《本編 完結 続編開始》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...