迷子の僕の異世界生活

クローナ

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真実

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洗礼の匙はクラウスに預けて今朝あったところに一緒に置いてもらうようにお願いしてしまった。
それにあんな乱暴な説明もノートンさんがちゃんと気付いてくれたから通じたんであってセオは多分半信半疑だったんだと思う。

「う~ん。」

「え~だめなの?」

「あ、ごめんごめん。考え事してたんだどれにするの?」

小さい子組が本棚の前でお昼寝前に読む絵本を選ぶ中、俺自身は1冊の絵本のページをめくっていた。

「きょうはそれにするぅ?」

すごく残念そうに自分の選んだ絵本を抱きかかえているディノに申し訳なくて慌てて手にしていた本を棚に戻した。

「ううん、ディノは何にしたの?」

受け取るとそれは格好良い騎士が魔獣に襲われたお姫様を助けて結婚する話。騎士の出てくる絵本は最近のディノのお気に入りだ。

そうだ、その話もしないとなぁ。どうする?クラウスに来てもらっちゃう?なんて、お仕事中のクラウスをそんな理由で簡単に呼べる訳がない。

「さーしゃはこれ。」

「らいはこれだって。」

「ろいもこれだって。」

ディノの選んだ絵本の上に重ねられたのは皇子様と異国のお姫様。または冒険者とパン屋の女の子。全部『結婚して幸せに暮らしました』で終わる話だ。
こういう偶然て都合良く利用すべきなのかな。

いやいやそれもどうよ。と、安直な思考をかき消してマットレスの上に寝転ぶと右にサーシャ、左にディノ。ロイとライは絵本が覗ける様に俺とは逆さまに寝転ぶのがいつもの定位置だ。

そしてディノの一冊目を読み終わった時だった。ムクリと起き上がったサーシャが俺を覗き込んだ。

「とおやもしあわせにくらす?」

「おにーちゃんとけっこんするぅ?」

「およめさんになっちゃうの?」

「らいとろいがおよめさんにしたかったのに。」

「え、ちょっ、なっ……。」

最初はわからなかった小さい子組の言葉の意味に気付いてびっくりして身体を起こしてしまうとテーブルに座っているマリーとレインがニヨニヨ笑ってこっちを見てた。

「喋っちゃった~。」

「いいだろ、どうせ話すんだし。」

「でもどうするのかな?ロイとライに求婚されちゃってるわよ?」

選ばれた絵本は全然偶然じゃなかった。
大人をからかう2人には感心しないけれどまさか話す切っ掛けを子供達に作ってもらえるとは思ってなかった。
でもそのおかげでマットレスに座り込んで並んで俺を見つめる4人にもちゃんと結婚の報告をすることが出来る。

「……うん、結婚するよ。クラウスさんて言うんだ。今度みんなにも紹介するね。」

「とおやおかおまっよ~。」

今日二度目のサーシャの指摘は今回はごまかし様が無かった。そしてその告白の勢いのままさっき本棚に戻した本を取りに行った。

「あのね、俺実はこの絵本の皇子様なんだって言ったら信じる?」

それは『桜の物語』子供向けに書かれているけれど偉大なフランディール王の建国史。そしてそのきっかけとなったガーデニアの事も書かれている。

「なにそれ、仕返しのつもりなの?」

「違うよそんなつもりじゃなくて……。」

マリーは冗談だと思ったみたいだったけどレインは俺と絵本をじっと見比べてから口を開いた。

「信じるよ。」

そしてニヤって笑った。

「でもトウヤが皇子様なら俺もだな。」

「じゃあ私とサーシャは皇女様ね。」

「でぃのはぁ?」

「もちろんディノとロイとライも皇子様だぞ~。」

「え~ろいはきしさまになる。」

「らいもきしさまになる。」

結構重大な告白をしたはずの俺の事なんかすっかり置き去りでマットレスではしゃぎ始めた子供達を横目にノートンさんが近寄って来て「やっぱりこうなったか。」と言いながら慰める様に背中をぽんぽんと叩いた。

すっかり興奮してしまった小さい子組を寝かしつけるのにはちょっと苦労してようやく眠った頃には洗濯物を取り込む時間になっていた。
ノートンさんは少し多めの課題を2人に出して自習をさせると、手伝いと称して俺に付いて来てくれた。


「全然上手く話せませんでした。」

俺が小物を外しながらため息を付くとノートンさんはシーツを取り込みながら苦笑いをしていた。

「ノートンさんこうなるってわかってたんですか。」

「子供達に100年前にいなくなった皇子様が目の前にいるなんて理解するのは難しいだろう。私も魔法士としてこの奇跡の理由を知りたいと強く思うよ。」

そうだよね、ノートンさんだって俺の話しをクラウスに確認してた。突拍子の無い話しを信じてくれたのはノートンさんの洞察力と王様達が認めていると聞いたからだ。

そもそも俺自身が魔法を理解できてないのにあんな雑な告白で結び付けさせようと言うのが無理なんだ。
あの絵本には『桜の庭』で暮らす子供達は可哀想な孤児ではなく王妃様の大切な愛し子であり多くの人から愛される存在なのだと教えてくれる絵本だ。だから絵本の皇子様と言った俺をレインは同じ『孤児』だと解釈した。確かにそれも間違いじゃない。

「トウヤ君の信頼する者の中に子供達もいる事はとても嬉しいよ。でもそんなに急がなくても子供達に話すのは国王陛下の公式発表が終わってもっと大勢の人が今この地に『失われた皇子様』が戻られたことを知ってからいいんじゃないかな。子供達に内緒は難しいからね。」

そう言われ今朝クラウスが2人に口止めしたことを思い出した。王様に『話していいよ』と言われてもう今までみたいに子供達に違う言い訳をしなくていいなんて単順に考えてしまった。

もし理解していたら子供達にもカイやリトナのように『誓約魔法』を掛けられてしまったかも知れなかったかと思ったら自分の浅い考えにゾッとした。

「すみません……考えが足りてませんでした。」

「トウヤ君の悪い癖だ。そんなに堅苦しく考えなくてもいいんだよ、キミには悪いが結果はわかっていたからね。」

結局ノートンさんは初めから子供達が『信じない』とわかってたから俺の好きにさせてくれたんだ。なんか本当にノートンさんて大きな人だな。やっぱりもっといろんな事を教わってノートンさんみたいな人になりたい。

「それにもう出掛ける時に嘘や誤魔化しをしなくていいじゃないか。目的が何であれトウヤ君の外出には必ずクラウス君が付くのだろう?大いに悪者になってもらおうじゃないかキミの『婚約者殿』にね。」

その時のノートンさんの笑顔に俺はなぜかアルフ様を思い出した。




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