迷子の僕の異世界生活

クローナ

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真実

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宝物庫を出た後ルシウスさんとは別れて、改めて国王陛下と宰相様とお話することになった。

そしてさっきの自分の振る舞いについての謝罪と共に俺の事は一般人として扱って欲しいとお願いした。

「ならば私のことは父上と呼んでくれるのかな?」

「陛下、トウヤ様の仰ってのはそういう意味ではないかと思われますが。」

アルフ様と同じ様な国王陛下の言葉に思わず目を丸くしてしまった俺を助けてくれたのは宰相様だった。

「先代王のお従兄弟様としてではなく今のご年齢の皇子様のお立場として良いと仰るのですよね。」

せっかく俺が『失われた皇子様』である確かな証拠を見つけてこの手に握らせてくれたのにあんな態度を取ってしまったし挙げ句に大泣きしてしまったからなんとなく気恥ずかしい。
でも宰相様はコクコクと頷き同意を示した俺に少しも気にしていないといった顔で胸に抱きしめている黒いケースを目に止めて口の端を上げた。

「それで如何でしたか?お持ちの大銀貨と同じものでありましたでしょう?」

「は、はい。でもあの……本当にもらってもいいんですか?」

その手を離す気なんかないくせにもう一度聞いてみた。だってやっぱり高価な物だというししかもそれが2枚もだ。

「もちろんだとも。ガーデニアに関するものがその銀貨と小さな肖像画1枚しかなくて申し訳なく思っている。」

「いいえ充分です。ありがとうございます。」

王様の許可を改めて頂いて銀貨の箱をギュッと抱きしめた。お父さんとお母さん、自分にはないと思っていたものが形となって手の中にあるのが嬉しい。

「受け容れて頂いたようで何よりです。亡き両陛下もトウヤ様の胸に抱かれていたほうが宝物庫に眠っているよりずっと喜ばれる事でしょう。ある日突然『貴方はガーデニアの皇子だ』と言われれば誰だって驚くでしょう。ましてやトウヤ様は異世界で何も知らずにお育ちになったのですから無理もありません。どうぞゆっくり理解していって下さいませ。」

「ありがとうございます。あの…できれば宰相様も普通に話して下さい。」

相変わらず『トウヤ様』と言われムズムズする。

「もちろんです。」

そう言って宰相様はにこりと笑った。

「ですがこれがトウヤ様に対する私の普通です。たとえ年相応の扱いをすると言えどトウヤ様は王族であることに変わりありません。私は王族に仕える者としてトウヤ様を敬うのは当然の事ですよ、どうかお気になさらないで下さい。」

「でも…。」

丁寧な言葉使いに納得できてない俺に宰相様は小さく溜息をついてしまった。
だけどその扱いが自分に不釣り合いな気がしてしまうのは仕方ない。この人も俺よりずっと年上でその上宰相様というのは王様と共に国の政を担う方だと教えてもらった。

「トウヤ様、確かにゆっくりで良いと申しましたが皇子様であらせられる以外にもトウヤ様は稀代の治癒魔法士様でもあらせられます。こちらの方も亡きガーデニア王と王妃様より受け継がれた生まれ持った資質でありましょう。なので何をどうしても私が貴方様の上になることはございません。それを知っていただくためにも本来でしたらもっと前からこの城に御逗留頂くべきところだったと私どもは思っておりますよ。どうでしょう、落ち着くまでこのままこちらにおいで頂くというのは。」

さっきの銀貨の時と同じ様にゆっくりと諭す様に話してくれたけれどお陰で何を言われているのかよく理解できた。だからまたもや本音が口を衝いて出てしまった。

「そんなの困ります!」

言った途端はっと気付いて慌てて口を塞いだけれど学習能力のなさに自分でも驚いてしまう。

「ほらな、トウヤから見たら私達は『そんなもの』だって言ったろ?もうとっくに断られてるんだから無理強いすると嫌われるぞ、何をしたって『愛し子』達に比べたら魅力がないようだからな。」

クスクスと笑いながらアルフ様が俺の肩を組んできた。今回はひとりではなく隣にアルフ様が一緒に座っていてくれるのだけど心強い味方……でいいんだよね?

「ではトウヤはこれからも『桜の庭』にいるつもりか?」

「ええ、それが我らが願い姫の望みなので。な、トウヤ。」

「はい。」

王様の質問に俺より先に返事をしてくれた。ちゃんと強い味方だったアルフ様の隣で頷くと王様と宰相様が顔を見合わせた。でもそれはちょっと困った顔だ。

「だがなトウヤ、流石に今回の事は治癒魔法士とは違い秘匿にはできぬ。先代の魔法士長のお陰であの鐘の音はフランディール全土から他国の教会のある場所全てに響き渡っておる。聞き慣れぬ音にすでに多くの混乱を招いているゆえ早急に対応せねばならない。それに私は王として国民を安心させる為にはトウヤの気持ちを優先してはいられないのだ。それは理解してくれぬか?」

王様にそう言われ教会で見た介助の若い教会の人の姿や広場に集まった人々の姿を思い出した。
多くの人がアルフ様の言葉に不安な顔を緩めていた。それがあちこちで、と言うなら今頃マデリンでビートやジェリーも怯えているかも知れない。

「……必要なら従います。でも今回はノートンさんにお休みを貰っているんです。子供達にも明日の朝に帰ると約束をして来ました。だからそれだけは守らせて頂けませんか。」

1度は帰れない覚悟をして『桜の庭』を出たくせに都合が良すぎると思う。だけどこのわがままが通るなら戻りたい。

ああ、でも戻ったところでなんて言おう、次にノートンさん会うときはきちんと結婚した報告をするつもりだったのに。マリーやレインにもクラウスを俺の『だんなさん』だとちゃんと紹介するつもりでいたのにな。

「ふふっトウヤそう心配するな。ちゃんと『桜の庭』には帰してやる。国王陛下も宰相も今夜から城に軟禁しようと言っている訳ではない。ただこれから先ガーデニア皇子として人前に立って貰わなくてはならないと言うことだ。」

「私が人前に……ですか?」

「そうですね、それは避けられません。何しろ『失われた皇子様』なのですから。」

「だがそれもすぐではない。トウヤの心の準備が必要なようにこちらでもそのための準備が必要だ。今はこの先にそういう事があると思っていてくれれば良い。」

「───はい。」

王様と宰相様、それにアルフ様が俺を泣かさないように気を使いながらゆっくり話してくれるのに気づいてしまったらそう返事を返すのが精一杯だった。

俺はこれからどうなるのかな。

「では今宵の話はここまでとしよう。今夜はゆっくり休むと良い。今の間にガーデニア王と王妃の肖像画も飾り終えてあるはずだ。」

王様に優しい笑顔でそう言われクラウスの姿を探すとすぐに俺の座るソファーに近づいて手を差し伸べてくれた。
けれどその手は取らずその腕に飛び込んだ。

抱きついた俺の背中をトントンとあやす手にホッとする。だってずっと不安だった。話し相手はこの国の一番偉い人で隣にアルフ様が座っていてくれたけどクラウスは王様の執務室に入ってからはユリウス様と共に少し離れた所に立っていたから。

「そう言えばトウヤ様は結婚の儀を受けるために教会へ行かれたのでしたね。」

「はい。あ、あの……それで私達の結婚はしてもいいんでしょうか。」

まさにクラウスの威を借るなんとやらの俺はアルフ様に駄目だと言われた結婚のことを聞いてみた。

「あ~……それ、ね。」

歯切れの悪い返事をした王様の視線が宙を泳いで更に宰相様とアルフ様の間をウロウロとする。その視線に宰相様は口に手をあてて顔を逸してしまった。

「クラウスとの仲を反対している訳ではない、だが少し待て。」

「……はい。」

またしてもアルフ様に駄目だと言われ一番元気のない返事をした。

「明日は早くに『桜の庭』へ戻るのだろう?では私ともまたしばしの別れだぞ?」

だからなんだと思いながらもアルフ様を見たら手を広げてどう見てもハグ待ちだった。今までアルフ様とハグなんてしたことなかったけど『末っ子』だったらするものなのかな?

正解がわからないままクラウスに銀貨のケースを預けてアルフ様に近づくとハグをして頭に『おやすみ』のちゅうまでしてくれた。することはあるけどしてもらうことはあまり無いから照れくさいけどちょっと嬉しく思っていると「じゃあ私も」と王様からも求められいそいそと駆け寄ってしまった。

「ではトウヤ、明日『桜の庭』に戻ったら手始めに今日の事を信頼を置くものに話すが良い。」

「話しても良いのですか?」

ハグをされたまま見上げると王様はニコニコと笑っていてあたたかい大きな手で俺の頭をよしよしと撫でてくれた。

「ええ大丈夫ですよ、どうせすぐに公式発表致します。それに身近な者に話すことによってより実感される事にもなるでしょう。」

そうなのかな?でもノートンさんや子供達に本当のことを言えない自分にこのところうんざりしていたから王様と宰相様に『話していい』と言われたのは嬉しかった。

「はい、じゃあそうしてみます。今日は私のために色々と有難うございました。宰相様もおやすみなさい。」

深々と頭を下げてクラウスの元に駆け寄って銀貨のケースを受け取った。
そして「じゃあね」小さく手を振るアルフ様と王様と宰相様にもう一度頭を下げて王様の執務室を出た。






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