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真実
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しおりを挟むそれからまた長い廊下をクラウスについて歩いて『治癒魔法士様』の部屋に戻ってきた。
今夜はここでのお泊りが決定みたいだ。
「クラウスも一緒にいてくれる?」
部屋に入った後それが心配で真っ先に聞いた。だってここに来るまで騎士服を着ていないだけでクラウスの振る舞いはユリウス様そっくりだったから。
「冬夜がそう望んでくれるなら。」
そう言うとふわりと俺を抱き上げ部屋の中を歩いた先に宝物庫で見た絵が掛けてあった。
クラウスが抱き上げてくれたお陰で丁度俺の目の高さにある。
俺はその絵のすぐ下にある棚に大銀貨の入ったケースを開いて置いた。中には俺の持っていたのも入っている。
「そこにそのまま入れておくのか?」
「うん。だってこっちのお母さんもひとりじゃ淋しそうだから。」
お父さんの銀貨と向かい合わせのお母さんの銀貨。片方だけもらってまたひとりぼっちにしてしまうのも可哀想に思えた。
「ひとりじゃなかっただろう?ずっと冬夜と一緒にいてくださった。淋しくなんてなかったさ。」
「──うん、そうだね。お母さんずっと俺と一緒にいてくれたんだ。なのに俺もう少しで捨てちゃうところだった。」
いつか必要だと言われ嫌々受け取った箱を手に養護施設を後にして一人暮らしを始めるその部屋で中を見た。
12月の寒い夜、冬枯れの桜の下で肌着一枚で見つけられた俺は肉親探しの手がかりになるかと『桜木冬夜』と名付けられ唯一服の中にあったコインはどこの貨幣とも一致せずおもちゃだろうと結論付けられていた。
いらないから捨てられた。そう思った。
それまでずっと育てられない理由を探していた。でもその存在を想像すればやっぱり求めてしまうからあまり考えない様にと重ねた日々が無駄だったのだと、あの日自分とその箱を捨ててしまおうと外に飛び出した。
けれど結局そうできず、部屋に戻って箱の中身をぶちまけてコインを壁に投げつけた。
忘れる訳がない、それまで生きてきた中で1番激しい衝動だった。
壁に投げつけたこのコインを財布にねじ込んだのは『いつか捨ててやろう』と思っていたから。
でも捨てられなかった本当の理由は財布の中を探るたびそれまで欠片も感じなかった親の存在を確認できたからだなんて今更の言い訳にしか聞こえないよね。
誤解してごめんなさい。絵の中で微笑むふたりにどれだけ謝っても足りる気がしない。
「でも冬夜は捨てなかった。それが事実だ。言っただろう?もう自分を責めるな。」
優しい空の蒼色の瞳がそう言って俺を見上げる。欲しい時に欲しい言葉をくれるクラウスにはやっぱり俺の心が透けて見えるのかな。
「ありがとうクラウス。大好き。」
「光栄だな。」
抱き上げられたままクラウスに抱きついた俺の背中をあやすようにトントンと叩く。また俺が泣いてると思ってるのかな。
そしてクラウスは俺をそのまま抱き上げて寝室の扉を開けた。
「少しひとりにしても大丈夫か?」
「どこか行くの?」
「一度騎士舎に行ってここに泊まる準備をして戻ってくる。ついでに夕飯も取ってくるが冬夜も必要なら食事を準備する。」
そっかクラウスずっと俺に付いていてくれたのに自分の事にいっぱいいっぱいで全然気が回らなかった。
「ううん俺はお腹いっぱい。クラウスはゆっくりしてきていいよひとりでも大丈夫。あ、できればその間に俺もシャワー浴びれたらいいかな。」
話しながらクラウスは天蓋のベッドのある寝室を突っ切って歩き、奥の扉の前で俺を降ろした。てっきりベッドに降ろされるかと思ったのに。
クラウスがボーイの様にその扉を開けるとまた随分広い造りの部屋で中には大きな洗面台に大きな鏡。どうやら水回りらしく更に扉が2つ。片方はやたら広くてやたら豪華なトイレ。じゃあこっちがシャワー室かと扉を開けた。
そこは脱衣所と言うには広すぎる空間で一人がけのソファーに何故か簡易ベッド。でもガラスで仕切られたその先にはシャワーだけじゃなく大きな猫脚のバスタブがあった。しかもすでにお湯が張られている。
「わ、わ、クラウス、俺これ入っていいの?」
「もちろん冬夜の部屋の物だからな。俺はいないが廊下に続く入り口の扉は許可のある者しか開けられないしその前には王城騎士がいる。誰も入れないように言っておくから安心して入っていていいぞ。」
お風呂は嬉しい。でもやっぱりひとりになるのは少し淋しくて扉の前で見送りをした。
「じゃあいってらっしゃい。」
服を引っ張ればしゃがんで差し出す頬にキスをしたらクラウスは戻って来るはずなのに俺をハグして子供扱いのキスを髪に落とす。
「風呂で寝るなよ。」
「大丈夫だってば。」
ニヤリと笑い俺をひやかしてクラウスは部屋を出ていった。
「……子供扱いして。俺はちょっとだけ新婚さん気分だったのにな。」
キスを落とされた髪を撫でながら広すぎる寝室でお風呂に入る用意をした。
タオルは準備してあったから着替えだけでいいよね。
仕切りがガラスだから繋がって見えるせいでやたら広いその場所で服を脱ぐのがなんか変な気分だった。
挙げ句シャワーの前に大きな鏡があって何故か曇りひとつないそこに自分の姿が映り込んでしまう。
目につく紅い痕。
今朝は嬉しかったそれが今はやたら恥ずかしくて手早くシャワーを済ませてバスタブに身を沈めた。
「はぁ〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰。」
この声の長さは今日の疲れだと思う。何か入浴剤が入っているのか優しい花の香りとお湯の温かさに身体がほぐれていくのがわかる。
びっくりするぐらい長い一日だった。
まさか今お城でお風呂に浸かってるなんて今朝の俺に想像できなくたって仕方ないよね。
俺が物語の皇子様だなんて不思議過ぎる。
だって俺が今朝まで想像していたのは元の世界に戻されて絶望していたか無事に結婚式を終えてクラウスと一緒に今頃────あれ?今頃?
ひとりでお風呂に浸かり順を追い始めてすぐ大切な事を思い出した。しかも今!?驚きすぎて足を突っ張っていたのを忘れ俺には大きすぎたバスタブの中でずるんと足を滑らせお湯の中に沈んでしまい慌ててヘリに掴まった。
「うわ〰〰〰〰どうしよう、すっかり忘れてた。クラウスのお家に行く約束してたのに。」
どうしよう、どうなったんだろう。まさかすっぽかしちゃったのかな?だってクラウスはずっと俺の傍にいてくれたし……
思い出してしまったらせっかくのお風呂も浸かっていられなくて慌ててお湯から上がって外に出た。
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