迷子の僕の異世界生活

クローナ

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本当の結婚

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クラウスの話 王都編 ㉕


「───でしたらぜひ治癒魔法士様のお部屋をお遣い下さい。本格的に使用なされる前に不備などありましたらお聞かせ頂きたいのです。」

そう言ったのは宰相首席補佐官だ。今夜から王都の宿で過ごすだけだと報告したのをそれでは足りないと根掘り葉掘り聞き出そうとする兄達から助けてくれた。足りないも何も冬夜の希望は本当にそれだけ。決まっているのは宿と実家に行くかもという事くらいだ。

「防犯面に関しても安心では?」

確かにそうかも知れないが教会で事件のあった夜に冬夜と話した様にお互い落ち着かないだろう。何より部屋の前には王城騎士が立ち、俺の仕事の境目もわからず、更にはいつアルフレッド様や兄達が訪ねて来るやも知れない。それでは冬夜の『こうしていたい』という希望が叶えられない。

「いえ、本人も王都の宿の方が良いと。それに部屋についてですが最年少の愛し子様はまだ3歳程と聞いてます。少なくとも後4年は『桜の庭』にお勤めになられると考えます。」

俺の返事につまらなそうに溜息をついたのはアルフレッド様だ。

「王城で部屋を与えられるなど名誉でしかないのに相変わらずトウヤにはどうでも良さそうだな。しかしまさか結婚も新婚生活もそこまでお預けにするつもりか?理解できんな。頼むからきっちり捕まえといてくれよクラウス?」

「はっ。」

言われなくともそのつもりだ。

それならば、と最上級の防犯魔道具を貸し出された。これひとつで俺の考えている大きさの家が何軒も買えてしまう。今後のために冬夜の物も制作中らしい。



夜、冬夜を連れ宿の部屋に入りにすぐに魔道具を発動させた。これで俺は一応護衛の任を解かれる。

話があるのはわかっていた。だけど隣に腰掛け「それで?」と促してもなかなか話し始めない。
急かすつもりはないけれどただ触れたくて、邪魔にならない様に抱きしめる代わりに冬夜の華奢な左手を取って薬指のリングを親指で撫でる。自分がゼロから用意したものを身に着けているのがたまらなく愛しい。その指先を冬夜もされるがまましばらく眺めていた。
長い沈黙の後、不意に深呼吸をした冬夜がようやく口を開いた。

「クラウス、俺……明日教会に行きたい。」

結婚の事だろうとは思っていた。不安なのは冬夜自身の筈なのに心変わりの理由はなんなのだろうか。

「───それは俺の為か?」

「ううん、俺の為だよ。」

「……嫌だ、と言ったら?」

「ど……うし…て?」

俺の答えに明らかにとまどいを見せた。確かに教会に行きたいと告げたのは俺だ。けれど不安は同じだけある。それに自分のためだと言う冬夜の言葉も納得いかない。

「───自信がないんだ。教会へ行かないのは俺が悪いのに今はクラウスが悪く言われてる。俺はひとりだから何を言われても構わないでもクラウスにはクラウスを大切に思う家族がいる。その人達に俺のせいでクラウスが悪く言われるのは嫌なんだ。」

その理由じゃどこをどう考えても『俺のため』だ。

「俺はクラウスにそんな事をさせる俺が許せない。だからきっといつかそのせいでクラウスを好きなことを諦めてしまう。それが嫌なんだ。俺は欲張りだからクラウスを諦めたくない。だから教会で結婚式を挙げて神様からの祝福を受けてこの先ずっと俺だけを愛して欲しい。だってそうじゃないといつかクラウスが素敵な人に取られちゃうかも知れないでしょう?」

なんとか雰囲気を変えて俺を頷かせようとする冬夜の言葉に少しムッとした。王都に来る前から惹かれていた、告白も袖にされ、あげく必要ないと言われ、さんざん焦らされた末にようやく手に入れたと思ったのにすり抜けられ並び立てるよう努力して求婚したこの俺が結婚式を挙げてないからいつか浮気するって?

「言ったろう?式を挙げなくたって生涯冬夜を愛しぬく自信がある。冬夜は俺の気持ちを疑うのか?」

逃げられないよう捕まえて覗き込んだ黒曜石はしっかり俺を見返して口元にわずかに笑みを浮かべた。

「クラウスの気持ちを疑ってなんかいないよ。でももう決めたんだ。俺は明日教会へ行ってクラウスと結婚したい。それで誰もが認める伴侶になりたい。」

どれだけ理由を並べ立てられても教会へ行くのはやっぱり俺のためであって冬夜のためとは思えなかった。

「クラウスの言う通り、最初は神様が怖くて教会に行きたくないと思った。本当は今も凄く怖い。」

「だったら……」

───やめよう。

その続きは冬夜によって遮られ言うことは許してもらえなかった。

「でも俺は来ないかもしれない『いつか』を怖がらずに『今』をクラウスと生きて行きたい。教会で無事に結婚式を挙げることが出来たらもう元の世界に戻る不安からも開放されるかも知れない。俺は俺の名前を『始まりの場所』に変えてくれたクラウスと一緒にあの桜が咲くのを見たい。これから先も何年もクラウスの隣で、今と同じ気持ちで。」

俺を真っ直ぐ見つめる瞳は王城でアルフレッド様と交渉をやり遂げた時となんら変わらない。赤騎士であった俺が怖気づく程惚れ直したその姿に叶うわけがなかった。

「……誓いの言葉を使うなんてお前は本当にずるいな。」

やられた、完敗だ。こんな事言われてしまえば頷くしか無い。
俺より不安な筈の冬夜がそう答えを出したのにここで首を横に振ったら意気地なしと罵られこの場で愛想を付かされそうだ。本当にお前は男らしくて格好良いよ。さすが俺の自慢の『よめさん』だ。

抱きいれた腕の中で俺の同意を得てホッとした顔をしている冬夜にこれだけは伝えたかった。

「お前はもうひとりじゃない。」

ひとりだから何を言われても構わないなんて聞いたら院長が、子供達が、セオがどれ程悲しむ事だろう。
途端にぽろぽろぽろぽろとその瞳から大粒の涙が溢れてくる。さっきまで俺の目の前にいた孤高の男は『桜の庭』で愛される愛し子に戻った。





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