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すれ違いの中で
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しおりを挟む教えてもらった通りに鼻で息をして口も小さくだけど頑張って開けていたけれど重ねるだけのキスで終ってしまった。
それでも受け止めるのに必死だった俺はいつの間にかクラウスの膝の上から柔らかなベッドの上に寝かされていた。真上から見つめられて、シャワーを待つ間に思い出してしまったクラウスの言葉をまた思い出してしまいドキドキしすぎた心臓が痛い。
「あの……クラウス、俺……。」
「何だ、膝の上のほうが良かったか?俺はいいけどそれだと冬夜が眠り辛いだろう?」
前髪をかき分けて俺のおでこにキスをするとスルスルと掛布を首元まで掛けられてしまった。俺の右側で寝そべって枕に頬杖をついて微笑まれたら自分の考えていたことがただただ恥ずかしい。
そしてその言葉にホッとしたのかガッカリしたのか自分でもよくわからかったけれどまだ眠ってしまいたくはないのは間違いなかった。
「俺まだ眠くないよ。」
「ああ、俺もだ。だから沢山話しが出来るな。さっきの続きを話そう。」
そうだ、俺達はすれ違ってしまった時間を埋めたくて宿に来るまでの間ずっと話しをしていた。それぞれかけ違えた釦を一つずつ直すように。不安に過ごした事全てがお互いを思いあった結果だと今ならわかる。
そして宿に着く頃にはこれからの話しを始めたところだった。
「うん、じゃああの……今更だけど結婚って具体的にどうするの?俺は住み込みだしクラウスはお城にいるんでしょう?」
「冬夜自身のこともあるから暮らし方はすぐには決められないな。まだはっきりと決まって無いけれど春の御用始めの儀でお前のお披露目式をするとユリウスから聞いた。俺としてはその前に結婚という事実が欲しいだけだ誰かに取られないうちに。」
そう言うと掛布の上に出していた俺の両手のうち薬指にリングのはまった左手を取るとそこにちゅってキスをした。
「誰も取らないよ?」
「そう思うのは冬夜だけだ。何しろ俺は告白も求婚も目の前で他の男に先を越された情けない男だからな。」
俺の左手を握ったまま、リングを撫で拗ねたような顔をして見せる。それはもしかしてジョセフとアルフ様の事だろうか。あんな事を気にしてそんな可愛い顔を俺に見せてくれてると思ったら嬉しくなってしまった。
「あんな冗談本気にしたりするような子供じゃないよ。俺の事を本気で『好きだ』と言ってくれたのも『結婚しよう』と言ってくれたのもクラウスだけだよ。」
俺の左手を握るクラウスの左手にも同じ銀のリングがある。そのまま引き寄せてクラウスのリングにキスを返した。
宿に向かう途中サイズがぴったりな理由を聞いたらウォールで俺が眠ってるときに測った事を教えてくれた。屋台で指輪を見かけた時元の世界の指輪の話しをした事に深い意味なんてなかった。あんな小さな話を覚えててこんなにも幸せにしてくれる人なんて他にいない。
「───でも結婚なんて勝手に決めちゃって良かったの?その……クラウスのご両親とか怒られたりしない?」
あとユリウス様とかルシウスさんとか。俺がクラウスと結婚するなんて聞いたら怒るんじゃないだろうか。
「元から勝手にして良いと言われてるから構わないさ俺よりもむしろ冬夜の方が大変そうだ。」
「どうして?俺には断らなちゃいけない人なんていないよ?」
「何言ってるんだ。俺は子供達と院長に怒られるのしか想像できないよ。みんなの大事な冬夜を独り占めするんだからな。院長には明日の朝に報告させてくれないか?それが済んだらすぐにでも教会に行って結婚しよう。」
教会と言われ自分の体がびくっと震えたのが分かった。当然それにクラウスが気づかないわけがなかった。
「ダメか?ならその理由を教えてくれればいい。」
俺の髪を撫でて空の蒼色が俺の心まで覗き込む。その優しさに甘えてしまった。
「俺……マデリンでソフィアさんに説明してもらった時は文字が読めなくてわからなかったけど王都のギルドで文字を学んでから見たギルドのプレートには俺の出身地の部分は読める字がなかったんだ。ギルドの水晶はちゃんと俺の出身はここじゃないって判断したんだと思った。でもギルドのは教会の水晶よりずっと簡易的な物だって。俺はこの世界の人間じゃないから洗礼も受けていない。だから教会の水晶に触れたら俺がこの世界の人間じゃないってはじき出されてしまうような気がして怖いんだ。」
「それならやめておこう。」
正直に話はしたもののクラウスの反応が怖かった。『じゃあ結婚は出来ない』と言われる覚悟もしたのにあまりにもあっさりとそう言うから俺は拍子抜けしてしまった。
「いいの?」
「形にはだわらないさ。それに冬夜の世界ではこれが婚姻の証になるんだろう?教会なんか行かなくても俺はこれで充分だ。こんな物つけているのは俺達しかいない。お揃いの指輪を見せて冬夜は俺のだってみんなに自慢するよ。」
俺の指に再び口づけると『抱き締めていいか?』なんて聞いてきた。
俺が頷くと両手でぎゅうっと抱きしめてくれた。耳元で聞こえるクラウスの心音をもっと聞きたくて胸に耳を寄せると今度は『キスして良いか?』って聞いてきた。
「……恥ずかしいからいちいち聞かないで。」
触らなくてもわかるほど俺は耳まで赤いと思う。
「駄目だ、冬夜の嫌がることはしたくないんだ。」
「だから嫌じゃないから聞かないでって言ってるの。」
「本当に?でも嫌だと思う時だってあるだろう?だから聞くんだ。」
俺がこうなるのを楽しんでいるのかと思ったけどクラウスの顔はいつになく真剣でようやく俺はプロポーズされた時にクラウスが話してくれた事を思い出した。
クラウスは俺のトラウマを自分のせいだと思っていたんだって。
「わかった、ちゃんと全部言う。俺がいろんな事に馴れてなくて恥ずかしかったせいでクラウスが誤解したんだからそうじゃないって事ちゃんと言う。俺はクラウスに抱きしめられるのが好き。髪を撫でられるのも好き。クラウスの俺の髪を撫でる大きな手も、その優しい瞳も……キ、キスも。」
顔を見てそこまで言ってしまったらもう限界でそれ以上は恥ずかしくてクラウスの胸で顔を隠した。
「だからもう聞かないで。俺はクラウスにされて嫌なことなんて一つも無いんだから。」
嘘じゃないよって伝えたくて俺もクラウスをぎゅうって抱きしめ返した。
そうしてキスを待つ俺の頭上にクラウスの大きなため息が聞こえたかと思ったら抱きついた俺をあっさり引き剥がし自分は再びヘッドボードに背中を預けると俺の事も引っ張り出してまた膝の上に乗せられてしまった。
「お前のこと丸ごと手に入れたいと思ってる男の前でそんな事簡単に言ったら駄目だ。どうなっても知らないぞ?」
呆れた顔で言うそれはまるでお説教だ。俺は良いって言ってるのになんで怒るのかわからない。それに『彼シャツ』来てたら襲うって言ったのはクラウスなのに。
「嘘じゃないよ。俺本当にクラウスなら何されても嬉しいって思うんだから。だから早く……キスして。」
そう言って唇を差し出して見せたけれど流石にこれ以上は恥ずかしくて目をぎゅうってつむったら。やっとちゅってキスをくれた。その後にもう一度。更にもう一度。
「分かった。じゃあ俺の好きなようにするからな。」
その言葉にドキリとしたけど結局クラウスは俺を丁寧にベッドの中に戻すと「教会は行かなくても院長への挨拶は避けて通れないからもう寝るぞ」と言ってこめかみにおやすみのちゅうをしたらさっさと部屋の灯りを落としてしまった。
それが物足りないと思う俺ははしたないのだろうか。
でもクラウスに抱き込まれて髪を撫でられるうちに世界一安心する鼓動に誘われいつしか眠ってしまった。
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