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危険な魔法
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しおりを挟む「そんなに食べられるの?」
「このくらい食べれるよ。」
3つ目の大きなサンドイッチに手を伸ばした俺を目ざとくマリーが見つける。沢山走り回ったのと外で食べる楽しさと美味しいサンドイッチの効果で俺の食欲も旺盛だ。それにこの所俺の食欲を奪っていた不安はなくなった。これを期に俺はレインより重くなってやるんだからな。
あれから再び『防犯ベル』が鳴る事もなく10時、もとの世界では12時を知らせる鐘がなる頃カイとリトナが大きなバスケットを2つ運んで来てくれるとそれを見つけた腹ペコの子供達が集まってきて持ってきた大きなラグを広げた上で無事お弁当を食べることが出来た。
バスケットの中にはたっぷりの野菜と一緒に蒸し鶏やハムや卵の挟んだいろんなサンドイッチとカットしたフルーツが沢山入っていて子供達の目を輝かせてくれた。
「そう云えばさっきの女性とはどういう知り合いなんだい?」
ノートンさんも4つ目のサンドイッチを食べ終えて思い出したように俺に尋ねた。
「えっと、昨日話したギルドで転ばせてしまった人です。美味しいココアラテを売ってるんですよ、王都に着いたばかりの頃は毎日飲んでました。いつもギルドから真っ直ぐ歩いた宿屋さんの前にお店を出していらしたので広場に来てるなんて思わなかったです。」
俺がもっと早く気づいていればお姉さんがあんな風に責められなくて済んだのじゃないかと思うと申し訳なかった。
───お金持ってこれば良かったかな。
久しぶりにあのココアラテを飲みたくなってしまった。前に飲んだのはひと月程前で鼻の頭のクリームをクラウスに掬われたのを思い出す。
使い道のあまりないお給料で広場に来た時たまにおやつを買う時もあったけれど、やっぱり今日の外出は不安もゼロにはならないしカイとリトナがお弁当を頼んでくれた事もあってそんな気にならなかった。
「ここあらて?」
俺の横でサンドイッチを頬張っていたディノが初めて聞く名前に敏感に反応する。『桜の庭』で飲み物と云えば紅茶か果実水かミルクだ。珈琲を飲むのもノートンさんぐらいで俺も殆ど口にしない。
「うん、チョコレートみたいな味でね。上にたっぷりクリームがのってて美味しいんだ。あ、俺が持ってきたドーナツもあのお姉さんのお店のだよ。」
「でぃのもちょこれのみたい。」
「さーしゃも」
「どーなつ」
「すき」
ラテ屋のお姉さんに対する子供達の誤解が解けるかなって思って話してみたけど美味しい話を聞いたら食べたくなっちゃうよね。口にはしないけどマリーとレインも屋台が気になるみたいだ。
「今日はみんな食欲旺盛だからお弁当も残さず食べられそうだしいいんじゃないか?どれ、私が戻ってお金を持ってこよう。」
「それなら私がご馳走するよ、今日のお礼に。」
ノートンさんがおしぼりで口を拭いて立ち上がろうとした時にルシウスさんが5つ目のサンドイッチを食べながらそう言ってくれた。
「「いいの?」」
「「やった~」」
すぐに子供達から感嘆の声が上がり遠慮を口にする隙間も無かった。今日のお礼と言うならするべきは俺の方だ。
「その代わりこれからも『桜の庭』から出る時はその魔道具を付けてくれるかい?まだまだ仕掛けがあるんだ。」
「「はーい」」
子供は秘密が大好物だ。まだ仕掛けがあるなんて聞いたら喜んでこの鈴を付けてくれる。何度か見せてくれる子供の上手な扱い方に、クラウスもこんな風に上手く転がされていたのかなって想像したら可愛かった。
結局手を出した3つ目のサンドイッチの半分を食べた所でレインが攫ってくれて、俺はルシウスさんと食後の一杯を求めラテの屋台に向かった。
「サンドイッチ食べきれなかったのに大丈夫かい?」
「甘いものは別腹なんで。」
美味しいものの前ではそんな心配無用なんです。
ぽんっと手を打つルシウスさんはお城でアルフ様に無理矢理チョコレートを口に入れられていた俺の姿を思い出しているに違いない微笑みだった。
今日他に並んでいるのはいつものクレープ屋さんとホットドッグ屋さん。お昼時のせいかラテ屋のお客さんは屋台の隣のベンチでカップを置いて編み物をする赤いコートの女性ぐらいだった。
「天使ちゃん!来てくれたんだ。ありがとね、ココアラテでいい?」
近寄って声を掛ければ暇そうに頬杖を付いていたお姉さんが嬉しそうに迎えてくれた。
「はい、それを1つと小さめのココアラテを6つに珈琲を2つとドーナツも下さい。」
「お金は私が払うよ。」
注文の多さにビクッとしたお姉さんはルシウスさんがそう云えば『じゃあドーナツおまけするね』と笑顔で言ってくれた。
並んだカップの上に生クリームがぐるぐるとトッピングされるのを眺めていた時だった。
「あら,ねえあなた。あなたよね騎士隊の飾り紐を作った子。」
知らない男の人の声に俺の心臓は跳ね上がって思わずルシウスさんのローブに掴まる。
キョロキョロと見回したけれど声の主は見当たらない。でも確かに『騎士隊の飾り紐』って聞こえた。それは間違いないようでルシウスさんが俺を自身と屋台の間に隠すようにする。
「ねえ、そうでしょう?うちで同じ色の刺繍糸沢山買って行ったじゃない。あたしの事忘れちゃった?」
もう一度聞こえた声と同時に立ち上がったのは編み物をしていた赤いコートの女性だった。
「───あ。」
「知っている人?」
思わず声をあげた俺を背中に隠したまま肩口からルシウスさんが視線を向けた。
「はい多分、あの……手芸屋さんの方ですよね。」
「そうよぅ思い出してくれたのね。あなたに会いたかったの。ねね、あなたも『桜の庭』の子?」
「はい、まあ広い意味では。」
「じゃあやっぱりあなたが遠征の騎士隊に飾り紐を作った子で間違いないわね?そうでしょう?」
不躾な質問だけど嘘を言うわけにも行かず素直に答えればすぐに核心を突くその問いに答えを返したのはルシウスさんだった。
「それを知ってどうする。」
質問に質問で返した事で手芸屋のお姉さん?は頬を緩ませにや~っと笑って見せた。
「その反応合ってるみたいね、よかったぁ。やーね、魔法士様そんな怖い顔しないで。あんたみたいの研究塔に籠もってるから知らないんでしょうけどその子の作った飾り紐が今王都で大流行なのよ。来月には学校で最後の大会があるでしょう?恋人や意中の相手にあげたいからって学生がよく来るんだけどその子達の説明じゃどんなものかわからなくて。ね、こちらに座らない?」
どうやら彼女が聞きたいのは純粋に『飾り紐』の話みたいだ。確かにアンジェラにミサンガを頼まれた時にもそんな話しをしていた。ルシウスさんも危険はないと判断した様で俺は手芸屋のお姉さん?の横に座らせてもらうことになった。
「それでね、友達の騎士に聞いたらその飾り紐はどうやら騎士の制服の色を模しているって聞いてあたしはすぐあなたに違いないって思ったんだけど『桜の庭』からの差し入れだって言うじゃない?だから迷っちゃって訪ねようかどうしようかずっと悩んでいたの。」
「俺になんの御用ですか?」
「知りたいの、飾り紐の作り方。それにそれをお店で売る許可も欲しいの、絶対売れると思うのよね……図々し過ぎて駄目かしら?」
前髪をくるくると指で弄ぶお姉さん?から思っても見なかった話で驚いて返事が出来ない。なんて断わればいいのか判らなくて見上げたルシウスさんはそれ以上に思ってもみない返事をした。
「いいですよ。私達は今からあそこでラテを飲むのでその間に教わったらいい。編み方ならその毛糸でも教えられるだろう?」
「え?」
「っま!案外話のわかる魔法士じゃない。」
お姉さん?は唇に手を当て腰をくねらせ嬉しそうだ。戸惑う俺にルシウスさんがそっと耳打ちをする。
「教えて差し上げたらいい。人を隠すなら人混みの中だ。飾り紐もそこらに溢れてしまえば誰も気に留めなくなると思わないか。」
「でも……」
上手く作れる気がしない。俺が何も願わなければ治癒は付与されたりしないのだろうけど出来上がったものが本当に何も付いてないのか自信が無かった。
「大丈夫、私が視てあげるから。」
ルシウスさんがウインクして深緑の瞳を人差し指で示す。そうだルシウスさんが見てくれたらうっかり魔法を付与してしまう心配はない。
出来上がったラテをみんなの所に運ぶと俺はせっかくの美味しいココアラテを味のわからないまま流し込み、毛糸を借りてルシウスさんの監視の元ミサンガを編んで見せれば流石手芸屋さんだけあってあっという間に自分の物にしてしまうと「ありがとう、今日のお礼は必ずするから待っててね。」とバチンって音のするようなウインクをルシウスさんにかましてこれまたあっという間に去って行ってしまった。
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