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危険な魔法
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しおりを挟む「それにしてもここまで視えてしまうとはね。」
ノートンさんがぐるりと部屋を見回す仕草に習うと、灯りの付いている所はもちろん窓辺の小鳥や執務机の上の置物なんかにも魔法陣が浮かんでキラキラしていた。
左手に視線を落とせば袖に隠れた『お守り』の辺りにも魔法陣が浮かぶ。袖を上げると空の蒼色の魔法石の周りにはノートンさんが魔法を付与した魔法石と同じ様に、だけどより複雑な魔法陣が均一にいくつも並んでいてキラキラと輝いていた。
「キレイ……。魔法陣が沢山ありますね。」
「はは、『過保護が過ぎる』からね。これでもかってくらい防御魔法が付与してあるよ。でもそんなものでキレイだと言ってくれるのかい?それならぜひ外をみて欲しいな。今ならノートン先生の魔法の素晴らしさがその目で視られるはずだよ。」
窓辺に立ち窓を開けたルシウスさんに手招きされ、その腕の下から窓の外を見ると『桜の庭』を囲む縦格子の塀に魔法陣がそこかしこに浮かび虹色に煌めいてそれに導かれる様に空を見上げると網目の様な模様が虹のようにキラキラと桜の庭の上空をおおっていた。
「凄い……あれ全部ノートンさんの魔法ですか?」
声を出せば夜の空気に口から出た吐息が白くこぼれてしまった。せっかくの煌めきを隠さないように慌てて口を両手で覆う。
「凄いな、こんなの自分でも初めて見たよ。これでは『桜の庭』の魔法はルシウス君にバレバレだったね。」
ノートンさんも俺達の隣の窓を開けキラキラ光る外の景色を嬉しそうに眺めていた。
「防衛魔法の掛けられた建物はいくつもありますが『桜の庭』は群を抜く美しさです。学校は魔法士達がこちらを真似たものですから機能は整ってますが美しくありません。ここのように人の悪意に反応することもありませんしね。」
シーツを掛けていた時窓辺に腰掛けてルシウスさんがん見ていた窓の外の景色はこれだったんだ。
だけど瞬く虹色はこの夜の闇の中こそ美しいに違いない。
「実は子供の頃あまりの美しさに『ここに入りたい』と言ったら両親にひどく叱られてしまいました。『桜の庭』の子供達に失礼だと。」
ルシウスさんが申し訳無さそうにした告白も無理はない。
「仕方ありません。こんなのが視えていたら誰だって近くで見たくなりますよ。もちろん僕も同じです。僕はこんなに美しいものに護られているんですね。」
まるでテレビで見たルミナリエみたいだ。
間近で見る美しい世界にうっとりしながら窓に頬杖をついて眺めていたそれは程なくして夜空の暗闇に溶けてしまった。
「……消えちゃいました。」
「大丈夫だよ。私の魔法の効果が切れただけでノートン先生の魔法が消えたわけじゃないからね。」
暗闇となった空にがっかりして見上げたルシウスさんはクラウスによく似た優しい笑顔でそう応えるともう一度空を見上げた後窓を閉じた。その瞳にはきっと今見た美しい光景が視えているんだ。
再びソファーに腰を掛け、ノートンさんが新たにテーブルの上に出した用紙はマリーとレインの学校説明会の案内状だった。
「冬の2月の10日ってあと幾日もないんですね。」
1枚を借りて内容を確認させてもらった。
「うん、休暇が終わったら伝えるつもりだったんだけどすっかり忘れてしまっていたんだ。」
申し訳ないと眉をハの字にして俺の顔を伺うけれどノートンさんは忘れてたんじゃなくて俺の所為で言えなかっただけだ。
「お手伝いって僕は何をしたらいいですか?」
「何って程の事はないんだけどまぁ付き添いだよ。この日はマリーとレインだけじゃなく『桜の庭』の子供達をみんな連れて行くんだよ。マリーとレインは制服の採寸やクラス分けの為の能力検査をしたりするんだけどそれ以外の子供達はこの機会に生徒さんに学校を案内してもらうんだ。昼食も学校で出してもらうから生徒さんだけではちょっとね。トウヤくんはいつもの様に年少の子達といてくれるかな。」
「はい。」
その日は小さい子組と留守番だと思っていたから学校の中に入れるなんて嬉しい。
「では後ほど私の方から学校を往復する際の馬車と護衛騎士の手配が必要だと第一皇子様の方に報告しておきますね。流石に4日では魔法を完成させる自信がないです。」
「ルシウス君、ありがたい話だが馬車はいつもエレノア様が出して下さっているんだ。今年もすでにお願いしてあるんだが……」
「そうでしたか。では騎士の派遣だけ依頼しておきましょう。クラウスかセオ君だっけ、小鳥ちゃんが望めば騎士の指名も出来るよ、どっちにする?」
ノートンさんにそう言ったあとにっと笑って俺を見るとそう告げた。
セオかクラウスを護衛騎士に?
「───でしたらお二方『以外』でお願いします。」
「あれ?そうなの?」
「はい。」
「わかった。じゃあ学校へ行く話はこれでいいね。おや、もうこんな時間だ。」
壁に掛けてある時計が19時を知らせた。元の世界では23時少し前ぐらいだ。
「遅くなってしまったね、明日も早いんだろう?小鳥ちゃんに教えてもらいたいことは一通り済んだからもう部屋に戻っていいよ。」
テーブルの上の地図は片付けられる様子もなくルシウスさんは時計から俺に視線を移しそう言った。確かに俺がいた所で何の役にも立たないよな。
「ではお先に失礼します。」
「あ、そうだ明日はチビちゃん達と教会の広場へ行こうか。」
「いいんですか?でも……」
不安でノートンさんに目を向けてしまう。今日の明日で魔道具は出来ないと護衛騎士を手配する事になったのに子供達を外へ連れ出して大丈夫なんだろうか。
「チビちゃん達の遊んでる姿を見たほうが必要な魔法がわかると思うんだ。それとそんなに心配しないで、キミ達を護る魔法ならちゃんと持ち合わせているから。そのブレスレット誰が作ったか知ってるよね?」
ルシウスさんに左手に視線を送られまた無意識に撫でていた『お守り』から慌てて指を離した。
「トウヤくん、付与魔法はそもそも自分で使えないと駄目なんだ。ルシウス君は相当な使い手だから安心していいよ。」
「じゃあ本当に明日は広場で遊べるんですね。ルシウスさん、ありがとうございます。」
俺が見たことのある魔法は少ない。失礼なのはわかっているけどはっきり言ってしまえばルシウスさんの魔法がどのくらい凄いのかやっぱりよくわからないの俺にとって、ノートンさんの優しい顔が何よりの安心材料だ。
「そうだ、最後にもう一ついい?」
「はい、何でしょう。」
「さっきここは小鳥ちゃんの育った所によく似ていると言っていたね。そこでは小鳥ちゃんはどんな風に防犯対策してたのか参考までに聞いてもいいかい?」
子供達を広場で走らせてあげられるのなら質問なんていくらでも、って思ったけどどうにも答えにくい内容だった。
「えっ…と……特に何もしてません。」
「危ないじゃないかトウヤくんみたいな可愛い子が独り歩きなんか!」
再びノートンさんに両肩を掴まれてしまった。だって本当のことだから仕方ない。
それにしたってノートンさんまで俺の事小さいだなんて確かにこの世界じゃ女の人よりも小さくて貧弱だけどこれでも170センチある男だから危ないと言われても困る。まあ確かに元の世界でも細い部類に入るのは認めるけどね。
「王都と変わらないって言ったじゃありませんか。大丈夫ですよ、本当に平和な所だったので。あ、でも子供や女性は防犯ベルを持っている事もありましたよ。」
「防犯ベル?」
「ベルって音の?」
「はい、小さな子供や女性は何かあっても怖くて咄嗟に大声で叫んだり出来ないでしょう?代わりに大きな音で周りに助けを求めるんです。僕も12才ぐらいまでは持っていました。」
「それだけ?拘束魔法とかも付いてるの?」
「いえ、音だけです。」
「それじゃ何の意味もないじゃないか。」
「そんな事ないですよ。音に驚いて悪い人も逃げるし周りの大人も気付いてくれるし。」
「トウヤ君はそれで護られた事はあったのかい?」
「いいえ。練習で鳴らした事はありますけど実際はそんな事に遭遇しない人が大半で僕も使うことなく大人になりました。」
音しかならない事が余程不思議なのか2人が交互に質問をしてきた。他の国では違うかも知れない。もちろん日本でも理不尽な事故や事件、災害に巻き込まれる事はある。けれども俺を含め大半の人は何事もなく生涯を終える平和な国だ。
「小鳥ちゃんはアルフレッド様に戻らない約束をして良かったのかい?」
深緑色の瞳が真っ直ぐに俺を囚える。
「確かに平和な所でしたけど今の僕の幸せはここにあるので。」
ルシウスさんが気にかけてくれた事は俺にとってなんの不利益にもならない。それだけは間違いない。
元の世界での俺は生きていくに困ることは何一つ無かったけれどひとりぼっちだった。今は子供達にノートンさん、セオ、それにクラウスのいるこの世界から離れたくない。
そう思ったら自然と笑みが溢れた。
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