155 / 333
危険な魔法
155
しおりを挟む「『ほっそい』ってなんだよ。いくら俺だってそのくらいで折れたりなんて……。」
「トウヤは黙ってて!この人はねウチの一番小さいのが飛び付いただけで倒れちゃうような子なのにあんな勢いで来ていいわけないでしょう!」
俺の申し立てを断ちラテ屋のお姉さんを怒鳴りつけているマリーの背中はもちろん俺より小さい。それを一緒に眺めているレインも俺より低い身長だけど『俺と違う』と小さい子組に称された通り逞しさを感じる腕に引き寄せられたのを思い返す。俺は今、小さなふたりに護られている。
「とおやだいじょうぶ?」
「けがしなかった?」
「しなかった?」
小さい子組も次々に俺の心配を口にする。もしかしなくても今魔道具が発動したのはラテ屋のお姉さんから俺を護ろうとしてくれたの?
「ふ、ふふ、ふははははははっ!あ~可笑しい、小鳥ちゃんに過保護なのは我が弟だけじゃないんだ、あははははっ。」
その気付きが間違いでないのはお腹を抱えて笑っているルシウスさんが証明してくれた。
「でも彼女の言うとおりだよ。今のは物理反射が起きたんだ。キミが彼に与えようとした衝撃が跳ね返った、小さな彼なら怪我をしたに違いない、それをこの小さな騎士達が危険とみなして魔道具が反応したんだ。キミは挨拶と言ったがそれにしては度が過ぎている。」
マリーの横に並び出た長身の王国魔法士の言葉にラテ屋のお姉さんが泣きそうな顔になってしまったところでセオとジョセフがルシウスさんに向かって敬礼をした。
「騎士隊のジョセフと申します。こちらは同じくセオです。失礼ですが王国魔法士の方ですね。今の異変をご存知でしょうか。」
「ああ、私は第一皇子様から『桜の庭』の防犯強化を仰せつかった王国魔法士のルシウス=ルーデンベルクと云う者だ。今話した通り今回のは彼女の勢いに子供達が危険と判断して魔道具が発動したんだ。」
「そうでしたか。ではすでに危険はないと云うことですね。彼女の処分はどういたしますか?」
俺とルシウスさんの表情を確認しながら『処分』と云うセオの言葉ににラテ屋のお姉さんの顔がすっかり青褪めてしまったので俺は慌てて首を横に振った。
「いや、今回は事故みたいなモノだし知り合いの様だから厳重注意と云うことで何もしなくていいよ、本人も反省しているしね。」
「わかりました、ではその様に報告を上げておきます。それでは私達は通常警備に戻ります。さあ、あなたも戻って下さい。」
「ごめんね、また会えるなんて思わなかったから嬉しかったんだ。二度もキミを驚かしてごめん。良かったらまた来てね今日のお詫びに奢るからさ。」
ジョセフに俺達から離れるように促されたお姉さんは背中を丸めなながら申し訳無さそうにそう言って右手を差し出した。差し出された手を取り握手をするとへにゃりと笑ってその後随分うなだれてラテの屋台へ戻って行く。そして騎士服姿のセオも子供達に再び『いってらっしゃい』と送り出され照れくさそうに去って行った。
「さてと。チビちゃん達びっくりしただろう?」
「びっくりした。」
「おもしろかった。」
「きらきらしてきれいだった。」
「おとがりーんりーんてしたよ。」
目をキラキラさせながら一生懸命身振り手振りでそれぞれの思ったことを話す姿にルシウスさんが芝生に膝を付いてニコニコしながら聞いてくれた。
「まずはレイン、トウヤを護ってくれてありがとう。キミは勇敢だ。今回魔道具を発動させたのはキミだよ。」
「え、俺ですか?」
膝を折ってもレインよりまだ大きいルシウスさんに名前を呼ばれ身に覚えがないと云う顔をした。
「うん。キミはさっき『トウヤが危ない』って思ったろう?それに反応して魔法障壁が出来て周りに危険を知らせる警告音がなったんだ。」
「どうしてきらきらきえちゃったの?」
「急に膜が出来て大きな音も鳴ってみんな驚いただろう?でもセオ君が来て安心したね?みんなが『もう大丈夫』って思ったら魔法も消えるようにしてあるんだ。いつまでもあのままだと遊べないだろう?」
「「じゃあもうあそんでもいいの?」」
「いいよ。みんなのおかげで実験大成功だ。だからいっぱい走り回っておいで。」
視線を合わせゆっくりわかりやすく説明してくれたルシウスさんにそう言われ子供達はまた大喜びで駆け出して行った。
「ふふふ、小鳥ちゃんはチビちゃん達にとても大事にされてるんだね。こんな形で実証実験出来るとは思わなかったけど上手くいった。もうチビちゃん達を傷付ける事はアルフレッド様でも出来ないと保証できるよ。それに『音』というものは私の思っていた以上に効果のあるものなんだね。周りも注目していたし騎士もすぐに来てくれた。今ここにいなくとも噂は広がるだろうし騎士団から報告も上がる、キミを狙うものがいるならば手出しは難しいと考えるだろう。どうかな?私の考えた『防犯ベル』は安心でき得る物に出来上がったかな。」
立ち上がり、ローブの裾に付いてしまった芝を払いながら笑っているルシウスさんに今の気持ちを上手く伝える言葉が見つからない。フランディールで最も強いと云うアルフ様が無理ならもう誰にも子供達を傷付けられないって事だ。
「ああ、ごめん。あれだけじゃわからないか。魔法石も小さいし数も少ない。でもそれぞれ違う魔法を付与してあってそれを『共鳴』と云う魔法で繋いであるんだよ。今のは双子ちゃんの付けてる『防犯ベル』の物理攻撃反射と防御結界で他にも小鳥ちゃんのと同じ……。」
「ありがとう、ござい……ます。」
ルシウスさんが話すのを止めたのが先かノートンさんが抱きしめてくれたのが先かわからないけれど、ほっとした俺はどうしようもなく涙が溢れてそう伝えるのが精一杯だった。
175
お気に入りに追加
6,442
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
神は眷属からの溺愛に気付かない
グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる