迷子の僕の異世界生活

クローナ

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危険な魔法

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ノートンさんに入れてもらったお茶を飲み終わるとテーブルを片付け、そこにルシウスさんが教会を中心とした周辺の地図を広げた。

王都の入り口を背にお城を見た時教会の手前の広場をを左手に行くと『桜の庭』があって、右手に行くと学校がある。

「実際『桜の庭』から外に出る頻度はどのぐらいですか?」

「そうだね、外と言っても教会の広場で遊ぶくらいかな。以前は月に1度くらいあるかどうかだったけどトウヤ君が来てからは割と頻繁かな。」

「あれ?そうなんですか?」

広いとはいえ『桜の庭』だけではつまらないだろうとノートンさんのお仕事が少ない時や子供達がセオが待ち遠しい時、お昼のメニューがサンドイッチにできそうな時などお散歩に行ったりお昼を広場で食べたりする事がある。遊びの内容は同じでも場所が変わると気分も大きく変わるものだ。

「初めてみんなと出会ったのが教会の広場だったから僕てっきりよく遊びに行く場所なんだと思ってました。」

あの日『桜の庭』の場所を確かめに来てディノに靴を持っていかれた事がきっかけでみんなに受け入れてもらうことが出来た。この世界に来て色々あったせいでまだ3ヶ月程しか過ぎていなのに随分前の事みたいだ。

「そうだよ、トウヤ君みたいなお人好しを探しに行くために行っただけだから。」

「おや?小鳥ちゃんはクラウスが連れてきたんじゃなかったんですか。」

ノートンさんの演技に騙されここに来たあの日の事をお互い思い出していたらルシウスさんにそう聞かれたしまった。そんな事まで知っているなんてやっぱり仲良しだ。

「そうなんですけどそうじゃないと言うか話せば長くなるんです。」

「面白そうな話だね、長くてもいいから聞きたいな。」

テーブルに身を乗り出して興味津々のルシウスさんにノートンさんがストップを掛ける。

「王都に連れてきたのはクラウス君かも知れないが彼から紹介されるより先にトウヤ君を見つけたのは私達だ。ほら、夜も遅いんだから本題に入らないと朝早く起きるトウヤ君の眠る時間がなくなってしまうだろう?」

「ほらほら。」と少し不機嫌そうにルシウスさんにまくし立てて反れた話題を修正したけれど脱線してしまったのは俺だからなんだか申し訳ない。

「え~…、じゃあっ…、と。半日『桜の庭』を見せてもらったけれどやはりここの魔法は美しいですね。敢えて指摘する所があるとしたら私が来た時に開いた門から入れてしまった事ぐらいですけど『悪意』を向けた瞬間拘束されるから修正する程でもないので大丈夫ですね。と、なると後は子供達の外出時にどうするかと言う話になりますが小鳥ちゃんが昨日聞いた通り治癒の飾り紐の噂は確認されていないんだけどまだ調べ始めて日が浅いから確実ではないんだよね。1番てっとり早いのは小鳥ちゃんのブレスレットと同じ物を外出する時に付けたらいいと思うんだけどどうかな?」

ノートンさんの態度に困惑しながらもルシウスさんが提案してくれた。『桜の庭』の防犯面も問題ない事も改めてノートンさんが凄いことがわかる。ここにいれば本当に子供達は護られているんだと心から安心できる。でも……外出する時はこれと同じものを?

膝の上に置いた両手。その左の袖口に右手を忍ばせ『お守り』の石を親指でなぞる。すっかり癖となったこの行為はアルフ様の前でも止められなかった。

「子供達には少し重いかと思うんですけど……」

「ああ、形じゃないよ?魔法の効果の話だ。腕が駄目ならネックレスにしてもいいよ。それに重いと感じるなら軽量化の魔法も組み込んでしまえばいい。」

「───首に掛けるのは駄目です。引っ掛けてしまうと危ないので。……あのこの石1個分くらいの大きさになりませんか?」

「ごめん。流石にそれは出来ない。かなり高価な魔法石を使ってもその大きさだとせいぜい2つくらいしか魔法を組み込めないよ。」

「流石ルシウス君だね、私なら1つが精一杯だ。」

魔法の原理がわからない俺の云うことは無茶苦茶なのかも知れない。でも困った顔をしたルシウスさんはノートンさんの言葉で嬉しそうに笑った。

「じゃああの……外でも『桜の庭』みたいになりませんか。」

「はは、それこそ無理な話だね。」

尋ねたものはルシウスさんにあまりにもあっさり断られ思わず右隣に座るノートンさんを見上げてしまったけれど肩をすくめて首を横に振る。『桜の庭』を魔法で護っているのはノートンさんだ。その人が無理だと言うなら無理なんだ。

「それ、ちゃんと作動したって言ったよね?クラウスに頼まれてキミの為に作ったものだ。小鳥ちゃんを護るためにかなりの魔法を組み込んである。チビちゃん達に持たせるのには充分過ぎるはずだ。」

部屋の明かりに青く煌めく黒髪を耳に掛けながらルシウスさんは真顔で深緑色の瞳を俺の左手に向けた。
ただそれだけなのになぜか大切な『お守り』が奪われてしまう様な気がして、咄嗟に胸に引き寄せ袖の上から右手で隠すように握り込んだ。

「ふふっ大丈夫、それはもう小鳥ちゃんのものだから取り上げたりしないよ。だけどそんなに気に入ってくれているのに同じものを持たせるのを嫌がってるように聞こえるけど気のせいかな?」

ルシウスさんが苦笑いで『何もしないよ』と云うように両手を上げて見せた。確かに俺の言ってる事はおかしい。子供達を護りたいのに確実にそうしてくれるであろうブレスレットをつけるのを拒むのは矛盾している。

「私も護っていただいたからこのブレスレットを付けていれば子供達は安全だと思います。でも子供達がずっと身につけていることは無理だと思います。」

「そうだね、ディノなら遊ぶのに邪魔ですぐに外してしまいそうだ。」

極力口を挟まないようにしていたノートンさんが厳しくなった雰囲気をクスリと笑って和ませてくれた。同時に俺の味方だと云うように大きな手を背中にあててくれたおかげで詰めていた息を吐き出すことが出来た。

「だから外さない様にするには理由を話さなくてはいけなくなります。それが嫌だと思いました。」

子供達を護りたい。だけどそれは身体だけじゃない。

「ここは僕の育った所によく似ていてとても平和な所です。本当なら何の心配もなく広場で遊べるのに俺がいるせいで『悪い人がいるかも知れない』と怖がらせてしまうのが嫌なんです。だから『桜の庭』のように子供達がそれと気づかなくとも護ってあげられたらって思うんです。」

クラウスやセオ達騎士が毎日警備して護っている王都でこの先もずっと子供達は暮らしていく。俺の所為でこの平和を疑って過ごすのはやるせない。それが一時的なことなら尚更だ。

「うん、トウヤ君の気持ちは私にはよく分かるよ。私も『桜の庭ここ』の防犯を考えた時に同じ事を思ったからね。」

眼鏡の奥で金色の瞳が優しく揺れて微笑むノートンさんの背中を撫でてくれる温かい手が『間違ってないよ』と言ってくれていた。

「そっか。ごめん、小鳥ちゃんに私を否定されたかと思ったんだ。」

ノートンさんの言葉に納得してくれたルシウスさんは腕組みしていた手を解き両膝に置いて頭を下げてくれた。やっぱりすこし怒っていたんだ。だけど魔法士の魔法を否定すると云う事はその人自身を否定した事になるのだと云う事を俺はようやく理解した。それはとても失礼な事だ。

「いいえ、僕こそ言葉足らずで誤解させてすみませんでした。」

ルシウスさんがしてくれたように俺も『お守り』から手を放して同じ様に頭を下げた。

「いや、小鳥ちゃんは少しも悪くない。『任せて』なんて偉そうな事言ってキミの意見を無理だと否定してばかりだったのは私の方だ。ノートン先生の前で恥ずかしいな、穴があったら入りたいよ。でもおかげでキミが何を望むのかよく判ったから今度こそ任せてくれないか?絶対にキミの信頼を得られるものを考えるよ。」

「研究室に籠りがちな魔法士によくある事だよ私にも経験がある。キミもこれを機会にもっと外に出るといい。新たな魔法を考える切っ掛けにもなるよ。」

「はい、肝に命じておきます。」

ノートンさんが掛けた言葉は落ち込んだ様子のルシウスさんを子供みたいな笑顔にした。その笑顔を見届けた後今度はくるりと俺に顔を向けた。

「それにしてもその魔道具が作動したって事はトウヤ君の身に何かあったって事じゃないか。いつ起きたんだ?そんな大事なこと何故教えてくれなかったんだい?」

ノートンさんの眼鏡のガラスが鈍く光った。




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