迷子の僕の異世界生活

クローナ

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危険な魔法

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閉じたドアに近づいて耳を澄ますと裏口の扉の開閉の音が聞こえ、行ってしまったのだとわかった。
だけど残された上着の上から自分を抱きしめればクラウスにそうされているようで淋しくなかった。

その余韻を噛み締めながらクラウスの上着を着たまま戻ってきた俺にノートンさんとセオが目を丸くした。

「あの……次に返してくれればいいって……」

さっきの俺の行動を見透かされた様な気がして、聞かれたわけでもないのに言い訳をしてしまった。

「いや、彼がそう言うなら借りておきなさい。それよりさっきの話だけどクラウス君にはああ言ってしまったがもしも第一皇子様から教会や魔法研究所の話が出てトウヤくんが興味を持ったら迷わず選びなさい。」

反応が早かったのはやっぱりセオでその問は俺ノートンさんから聞きたかった言葉と同じだった。

「なんてこと言うんですかノートンさん。トウヤさんがいなかったら困るのに。」

「うん、困るよ。でもねセオ、ここの仕事の代わりはいくらでもいるんだ。だけどトウヤくんほどの治癒魔法を持つ人間や魔道具を作り出せる人間は滅多にいないんだよ。セオが赤騎士隊になりたいと思っているようにトウヤくんが他にやりたいことが見つかったら私達に遠慮して欲しくないんだ。」

ノートンさんがそう言ったことでセオも黙ってしまった。俺はと云えばノートンさんが俺を思って話してくれたのに嫌なところだけ勝手に切り取って、それが耳に残ってしまい部屋に戻ってからもそこだけがぐるぐると頭の中を支配してしまった。

俺の代わりはいくらでもいる。

でもそれは安心でもあった。もしも俺の存在が子供達を危険に晒す可能性が少しでもあるなら離れた方がいいのだから。
それにそもそも俺は『桜の庭』にいる事自体許されないのかも知れないんだ。

そんな不確かな不安に支配されるのが嫌で一度入ったベッドを抜け出して壁に掛けたクラウスのコートにそのままくるまった。クラウスの体温と撫でられた頭の感触をもう一度辿り落ち着くと『お守り』におやすみのキスをしてまたベッドに戻った。

「それにしても『オウジサマ』ってどんな人だろう。」

俺の知ってる『オウジサマ』はシンデレラや白雪姫のような童話の中のイメージで白馬に乗ってるのかな?とか王冠載せてるのかな?とか想像してたら案外楽しい気分のまま眠りに落ちた。



それがいけなかった。

今朝の夢見は最悪だった。俺が『桜の庭』で掃除をしていたら騎士服姿のキラキラしたクラウスがやってきて俺の足にブカブカのガラスの靴をあてがうと『お前じゃない』って言ってそのまま別の人のところへ行ってしまった。
俺はひとりほうきを持ったまま真っ暗な中にへたり込んでドレスを着た女の子の手を取って去っていくクラウスの後ろ姿を見送った。

何も地味に現実とリンクさせなくてもいいのに。

夢の中の出来事を思い出して口を尖らせながらモップがけをしていたら窓辺の小鳥が来客を告げた。

庭を見ればセオが門扉に向かっていて、それに小さい子組がチョロチョロとついていくけれどレインは玄関の方へ走って行きマリーは俺の方へ走ってきた。

「あのね、セオさんがトウヤを呼んで来てって。外に馬が来てるの。」

窓の外から興奮気味に話すマリーが可愛い。小さい子達も喜んでいるんだろうな。セオを見送りに行った後ここはしばらく騎士ごっこと馬の絵本が流行っていた。

だけどいつもと違う来客と言うことはきっとそうなんだ。

夢見の悪さを引きずったままエントランスでノートンさんと一緒になり呼びに来たレインと3人で向かうと、門の所に綺麗な毛並みの栗毛の馬とその横にセオと話す背の高い金髪の男の人がいて一瞬クラウスかと思ってしまった。

「これは……ユリウス様でしたか。中へ入られますか?」

ノートンさんが呼びかけた名前で見間違えても仕方ない人だとわかった。
けれどあの白い騎士服ではなかった。グレーの品のいいロングコートに身を包んでその中は黒のスーツが見えている。手には黒の革手袋をはめて胸元に脱いだ帽子を置いていた。

「いや、これを届けたらすぐ城に戻るからいい。トウヤ殿、この手紙をキミに。」

そう言ってコートの内側に手を入れてそこから見たこともない豪華な金色の飾りに縁取られた白い封筒を俺の前に出した。

「皇子様からですか?」

封筒を見て答えた俺にユリウス様は口元にわずかに笑みをたたえながら人差し指を立てると自身の唇に当てた。

「これでも一応『個人的に』訪ねている格好なんだ。」

「失礼しました。考えが至らず申し訳ありません。」

「いやそこまで気にしなくていい。では確かに渡したよ。」

頭を下げた俺の手を取り手紙を乗せると「じゃあね」と子供達に手を振ってそれからセオの頭をクラウスが俺にするようにポンポンと優しく叩くとあっという間に馬の背に上がり行ってしまった。

子供達を再びセオに預けてノートンさんと執務室で手紙を開いたけれど読み間違いが怖くてノートンさんにも読んでもらった。

そこには2日後の冬の2月ふたつき5日の昼過ぎに迎えを寄越すから速やかに登城するようにと書かれていた。




   
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