迷子の僕の異世界生活

クローナ

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休暇と告白

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クラウスを急かしてトランクを出してもらうとタオルと下着とパジャマを準備した。
それからソファーの上に膝で乗り上げると窓にペタリとおでこを付けてそこから見えるお風呂を見学する。

外のようでちゃんと壁と窓がその先にもある。だよね、じゃないとうっかり4階から落下しちゃうもんね。
温泉が売りの観光地のせいか部屋の割には湯船はナイデルの宿と同じくらいある。もしかしてこのサイズがこの世界のお風呂の標準サイズ?これだけあったら子供達みんなと入っても大丈夫だよね。
お風呂のお湯から湯気が立ち昇っているけどお湯は熱いのかな?ぬるいのかな?あの先は何か景色が見えたりする?夜だから────

「トウヤ。」

「うん、クラウス準備できた?」

お風呂を観察しながら呼ばれて振り返るとクラウスはまだブーツの紐を緩めている所だったので思わずがっかりしてしまった。

「いや、まだだけどもしかして待ってるのか?」

「うん、そうだよ。」

だって先に入ったら疲れてるクラウスに失礼じゃん。

「……わかった、気にしなくていいから先に入れ。」

「え?ホントに?いいの?じゃあ先に入ってるね!」

クラウスのOKをもらった俺は遠慮も忘れて2つ返事でテーブルに置いていたお風呂セットを抱えて扉を開けた。

中に入って扉を閉めると窓から覗いて気がついた脱衣所部分に着替えを置く。どうやら部屋の中のもう一つの扉からトイレ、洗面所、脱衣所、シャワー室、お風呂と繋がってるみたいだ。

きちんと身体を洗うときれいなタオルを1枚持って待ちわびた湯船の中に身体を沈めていく。

「ほわあぁ~気持ちいい~。」

手や足の指先からじわじわと中にお湯が染み込んで来るように身体が温まってゆく。何年もお風呂に慣れた体は何時まで経ってもシャワーだけの生活には慣れてくれない。
いっそ俺も洗濯のたらいに湯をはってみようかとノアルがいなくなってから何度かにらめっこしたけれど子供達の手前やれる機会はなかった。

深くて広いお風呂の中にすっぽり浸かって窓際に移動する。湯船の縁に手をついて伸び上がるとはめ殺しになった窓から外を覗けたけれど4階という高さと夜の暗闇でしばらく目を凝らしていたけれど何も見えなかった。

その時にようやく扉からクラウスが入ってきたので脱衣所とシャワーの場所を伝えてまたお湯の中に滑り落ちる。少し冷えた身体がまたじわ~んとなるのが楽しい。

湯船の縁に頭を預けてタオルを目の上に乗せてる。働き始めてから時折使うようになったパソコンで疲れた目を風呂に入るとこうしていたわっていた。

「湯の中で眠るとまたのぼせるぞ。」

リラックスしすぎてたからクラウスの声に驚いてお頭を上げると目からタオルがずり落ちた。

目の前に濡れた前髪を掻き上げ鍛え上げられた身体にタオル1枚のクラウスの姿があった。

「ね、寝てないよ?」

真ん中を占領してた身体をできるだけ端に寄せて場所をあけるとクラウスも俺の斜め向かい側の位置でお湯の中に身体を沈めた。

「───ふう。」

「ふふ。気持ちいいね。」

胸の上あたりまで沈んだところでクラウスの口から吐息が漏れる。やっぱり声でちゃうよねぇこの気持ちよさには抗えないよねぇ。

「そうだな。たまにはいいな。」

「クラウス。俺がお風呂好きって言ったの覚えててくれたんだね。すっごく嬉しい。お風呂に入れたのも嬉しいけどそんな些細な事を覚えててくれたことが凄く嬉しい。ありがとう。」

あの時だって『一緒に入ろう』って言ったのにお風呂の習慣はないからって断ってきたのに俺の為にお風呂のある宿を選んでくれたし今も一緒にお湯に浸かってる。
自分の好きなものを一緒に気持ちいいと感じてくれるのが何より嬉しく感じた。

「いや、些細じゃなかったろ。あの時浴室覗いた時どれだけ驚いたと思ってるんだ。」

「それは忘れていいよ。」

クラウスの呆れ顔にはしゃぎすぎた自分を思い出し恥ずかしくなって背を向けた。

「あ、ねぇそう言えばここから何か見えたりするの?俺さっき覗いてみたけど暗くて何も見えなくて。」

「さあどうだかな?」

話題を変えようと目に入った窓の先の話をしたのが大きな間違いだった事に気付いたけどもう遅かった。
お湯のゆらぎで見なくてもクラウスが近づいたのが分かってそのまま背後から肩を組む様に片手で抱きこまれた。

「な、なに?クラウス。」

「別に?」

「あの…離して?」

胸の前から肩に回された太い腕や俺の背中に触れるクラウスの胸。素肌の触れ合う感覚に心臓が跳ね上がった。

正直初めは失念してた。誰かと一緒にシャワーを浴びるのも人前で裸になるのも今の俺の日常になっている。だから相手が違うとなんだか恥ずかしいってホントはクラウスがお風呂に入ってきた時に気がついてたけど今更『別々で』って言える状態じゃなかった。

お風呂に興奮しすぎて気が回らなかったのは確かに俺が悪いんだけどこの状況は長くなると心臓が持ちそうにない。

「やっと俺の事意識したな。」

そう云ってクラウスが身動きの出来ない俺の首筋にキスを落とすとお湯から上がってすぐに浴室から出ていくのを背中を向けたまま感じていた。

だけど俺の方はせっかくお風呂で温まったのに水で顔を洗って火照った頬を冷ますまで部屋に戻れなくなってしまった。




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