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騎士とミサンガ
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しおりを挟むいつもならこの時間はパジャマを着ているのだけど、ノートンさんにお茶を頼まれているので普段着に着替えた。
別に全員俺のパジャマ姿は見慣れているのだろうけどクラウスとセオは騎士服だしそんな中ひとりだけパジャマっていたたまれない。
台所でお湯を沸かす間にティーポットに4人分のカップとクッキーを準備してカートに乗せてノートンさんの執務室まで運ぶ。
「冬夜です。お茶をお持ちしました。」
ノックをして声を掛けるとセオが扉を開けてくれた。
「お疲れ様でした。お茶ありがとうございます。」
そしてそのまま自然にカートを奪われてしまった。
「お疲れ様トウヤくん。お茶はセオに任せて座りなさい。」
「は、はい。」
取り返そうとしたらノートンさんに座るよう言われてしまい仕方なくソファーに腰掛けた。
テーブルを挟んで向かい合ったソファーの向こう側にノートンさん、その隣にセオ。こちら側にクラウスで俺はその隣。クラウスの空の蒼色の瞳をと目があったら照れくさくてへへって笑ってしまった。
騎士服のクラウスはキラキラ眩しくてなんだか見てられない。視線をテーブルに移すとそこに俺の作ったミサンガが並んでいた。
「────これ、みんな切れちゃったんですね。俺のもさっき服を脱いだ時に切れちゃってたんです。使った糸が悪かったのかなぁ?」
編んでる時はそんな事なかったのにいわゆる粗悪品を渡してしまったみたいでなんだか申し訳ない。アンジェラにあげたのは大丈夫だろうか。
「願い事が叶ったら切れるからいいんじゃないのか?」
「だからそう云われてるってだけで本当はこんな簡単に切れたりしないよ。」
さっき確かにクラウスにはそう言ったしこれは切れたら縁起がいいってものだけどそれにしたってどれもこれも切れるのはやっぱり糸のせいなのかなぁ
「トウヤくんが着けてたのもみせてもらってもいいかい?」
「え?は、はい。」
切れたミサンガはシャワーの後に着替えた時カーディガンのポケットに入れたままだったけれどなぜ見たいのか不思議に思いながら取り出してテーブルに並べた。それをノートンさんが手にとって裏や表をじっと見ている。
「うん、同じだね。」
理由がよくわからず、ノートンさんの言葉に少し首を傾げる。
「同じじゃないんだろ?俺たちのと他のは。」
俺の傾げた首が今度はそのままクラウスの方に向いた。意味深な物言いはやめて欲しい。
だけど机に並んだ4本のミサンガの中から金糸がちらりと覗くクラウスの為に編んだものを迷わず選んで手にとった。
「一緒だよほとんど。ちゃんと全部願掛けしたから。」
「なんて?」
「なんてって……言うの?願い事は言ったら消えちゃいそうだから嫌だよ。」
「もう叶ったからいいだろう?──知りたい。」
俺の大好きな空の蒼色に視線を合わせたまま聞かれたら嫌と言えない。なんで俺はクラウス相手だとベラベラ喋っちゃうんだろう。
「───あのね、クラウスやセオさんや騎士隊の人が怪我しませんようにって。」
「それから?」
「んと……怪我しても早く直りますようにとか風邪とか引きませんようにって。」
「他には?」
「王都に無事に帰って来ますようにって。なんだよもう!恥ずかしいじゃんかクラウスのばか!」
近付きすぎたキレイな顔に耐えられなくて立ち上がってしまった。だってノートンさんもセオもいるんだから。
今のやり取りが見られていたのが恥ずかしくて、慌てて視線を走らせた先でなぜかセオが泣いていた。
「………くっ…‥ふ…うぅ……」
「セオさん、どうしたんですか?どこか怪我したんですか?」
思いがけない涙に駆け寄って膝の上で握りしめている拳をそっと握って顔を覗き込んでみた。痛いところでもあるんだろうか。
「すいません、なんでもないです。怪我もしてません。お…俺が無事に帰って来れたのは、トウヤさんのおかげだなぁと思ったら胸がいっぱいになってしまって。」
「やだなぁやめてくださいよ。ただの子供だましだって言ったじゃないですか、無事に帰ってきたのはセオさんが頑張ったからですよ。無事に子供達の所に戻ってきてくれてありがとうございます。」
「そうだよセオ。よく頑張ったね。」
横からノートンさんがセオの肩を抱きながら頭をよしよしするともっと泣いてしまった。
「セオにとって初めての遠征だったからな。ここに来てホッとしたんだろう。」
そう言いながらクラウスがソファーをポンポンと叩くのでセオはノートンさんにおまかせしてクラウスの隣に戻ったらそのまま腰を引き寄せられてしまった。
ちょっとクラウスさん!?目の前でセオが泣いてるのに何をするんだよ!という気持ちを込めて精一杯抗議の目を向けてみた。
だけどクラウスは俺の腰に手をかけたまま反対の手はソファーの肘掛けに肘をついてそこに顎を乗せてしれっとした顔でいる。手足長くていいデスネ。
セオが泣き止むまで俺たちはしばらくそのままだった。
「そうだトウヤくん。お休みの話なんだけどね。明日の夜子供達が眠ってから4日後の朝に帰って来るって事でいいかな。」
「明日からですか?しかもそんなに沢山いいんですか?」
「もちろんだとも。今までの分だと思ってゆっくりしなさい。次にまとまったお休みをあげれる日はなかなかないだろうからね。」
「……でも……そんなに貰うとセオさんのお休みがなくなってしまいます。」
さっきだって討伐遠征がきっと俺には想像できないほどつらくて大変だったのを思い出して泣いてしまったんだろう。そんなセオが俺のために休めないなんてダメだ。
「俺の事は気にしないでください。チビ達と遊ぶだけなんで休暇みたいなもんです。」
セオが赤くなった鼻を照れくさそうに擦る。今回だけ甘えてしまってもいいだろうか。でも……
「子供達が心配かい?あんなに1日中『セオ』『セオ』言ってたんだ。もの珍しくて3日くらいは大丈夫だろう。子供達にはうまく言うからトウヤくんは内緒にね。」
「内緒ですか?」
日にちが決まったらちゃんと言っておこうと思ってたのに……
「俺も内緒の方が出掛けやすいと思います。任せてくださいよ。俺も『桜の庭』の子供なんで。」
「───わかりました。ありがとうございます。よろしくお願いします。」
そうだ。俺の方が新入りなんだ。そう思ったら安心して素直うなずくことが出来た。
そうして俺が納得してうなずくのを待ち構えていたようにクラウスが立ち上がった。
「それでは私達はこれで失礼します。今夜は有り難うございました。」
クラウスが差し出した手にノートンさんが応えて握手を交わす。
「いや、こちらこそ。王都に戻ったばかりに来てもらってすまなかったね。明日からトウヤくんを頼むよ。ちゃんと『桜の庭』に帰してくれたまえ。」
「もちろんです。じゃあトウヤ、明日迎えに来るからな。」
そうゆうと俺の頭をくしゃりとしてからニヤッと笑ってセオと共に帰って行った。
その夜は明日からの期待といろんな心配でなかなか眠れなかった。
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