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騎士とミサンガ
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しおりを挟む予告どおりに前回と同じ頃、馬車が正門にやってきた。
門扉が開かれると馬車の扉が開けられ、侍従さんにエスコートされてアンジェラがふわりと降り立つ。
ぱっちりしたレモン色の瞳。ハーフアップに編み込まれた赤い髪。ほんのり赤いルージュの唇がキメの細かい白い肌によく映えてとても愛らしい。
「本日もよろしくお願いいたしますわ。」
ノートンさんにうやうやしく挨拶をする姿はまさにお姫様だ。
「今日はお土産もありますの。運んでもよろしくて?」
前回来てくれた時と違ってその貴族らしい様子に戸惑いながら大きな箱を3つ抱えた侍従さんを取り敢えず食堂に案内した。
「あの……お嬢様こちらの方は……」
アンジェラの後ろについてトランクを持っていたメイドさんがなぜかおろおろしながら尋ねる。
「あ、それはそのへんでいいわ。」
指先で示された壁際に戸惑いつつそのトランクを置き隣に立つ。
「何してるの?あなたも帰っていいわよ。」
「ですがお嬢様……」
「前の時も私ひとりでしたわ。お手伝いに来た私が侍従を連れているなんておかしいでしょう?さっさとお帰りなさい。」
メイドさんに掛ける声は少し冷たい感じだった。云われたその人は仕方なさそうにノートンさんに一礼すると馬車に乗って行ってしまった。
「さてと。トウヤ、着替えるからお部屋貸して!」
振り返ったアンジェラはこの前の、子供達とはしゃいだ時と同じ笑顔だった。
「うん、マリー、サーシャ俺の部屋に案内してあげて。」
「「はーい。」」
前と様子の違うお姫様然としたアンジェラに戸惑っていた子供達もホッとした顔になった。
着替えに使うのは小さい子部屋でもいいかと思ったけれど一応鍵もかかるし俺の部屋にした。
「おまたせ~。ね、ドレスをトウヤのベッドの上に置いたままだけどいい?」
シャツの上にざっくりとしたセーターを来てパンツ姿のアンジェラに変わって2階から降りて来たけれど髪は来たときのままだった。
「それでドレスがシワになったりしないなら構わないよ。ところで今日は髪型変えないの?」
俺の世界の女の子とほぼ変わらない格好なのに髪だけ凝って結いあげているからなんかちぐはぐだ。
「この前適当に結い直して帰ったら『何をしてきたの』ってお母様にうるさく聞かれちゃったからこのままでいいわ。」
そうだとしても走り回ったら結局崩れてしまうんじゃないだろうか。
アンジェラが箱の中のお土産のお菓子を子供達に披露し始めたのでその間に小さい子部屋に足を運ぶ。
「マリー、ちょっとアンジェラの横に座ってくれる?」
「「なあに?」」
「ちょっとだけ、できるかどうか確認するからマリーに協力して欲しいんだ。」
不思議がるマリーとアンジェラに持ってきた櫛とリボンを見せた。施設にいた頃毎朝の日課だった女の子たちのスタイリングをしていたのが懐かしい。小学生から高校生まで好みや流行りにうるさくて時間ギリギリまで編み込みとかしてあげていた。
普段のマリーは薄紫の長い髪を二つ結びが定番で、最近は自分で結んでいる。久し振りの感覚を楽しみながら癖のないそのきれいな髪をアンジェラを真似ながら編み込んでいく。
「どうかな?アンジェラみたいに毛先を巻いてないから違って見えるかもしれないけど。」
二人は自分のがわからないだろうから出来具合をレインに尋ねる。
「いや、俺に聞かれても……一緒?」
「凄いわトウヤ!じゃあこれ解いてもいいのね!」
頼りない返事のレインの横でマリーの髪型を確認したアンジェラはさっさと自分のリボンを解いてポニーテールにしてしまった。
マリーは気に入ったらしくそのままでいいと言ってみんなと一緒にご機嫌で庭に飛び出して行った。
「トウヤくんは髪まで結って上げられるのかい。いや、驚いた。」
「孤児院にいた頃毎日やってましたから。久し振りで楽しかったです。」
頂いたお土産を箱に収めながらノートンさんが驚いてくれたけどこのくらい夏祭りに髪型が決まらなくて何度も結い直しをさせられたのを思い出せばなんてことない。
庭から聞こえ始めた賑やかな声を聴きながら洗濯の終わったシーツを干すことにした。
セオがいない子供達の寂しさをアンジェラが埋めに来てくれると思わなかった。ドレスを着ている時はお姫様なのに本質はとっても気さくで子供達と全力で遊んでくれる。本当にいい子だ。
でも今日の俺にはちょっとだけ心配事がある。
「話、できるかなぁ。」
勇気が欲しくて左手のお守りをそっと撫でた。
お昼ごはんが終わって後片付けをした俺は、アンジェラに話したいことがあるのに二人きりになる機会がなくて話すタイミングを見つけられないまま小さい子組のお昼寝前の読み聞かせをするべくプレイルームに向かった。
部屋では小さい子組が椅子に座ったアンジェラが絵本を読んでくれるのをマットレスの上でゴロゴロしながら聞き入っていた。
「あ、お待ちかねのトウヤが来たわよ。」
アンジェラの凛とした心地の良い声に聴き惚れているのに俺を待ってたなんてお世辞でも嬉しいよ。椅子に座ろうとしたらディノがトコトコ歩いてきた。
「駄目よトウヤ。私じゃ眠れないみたいなの。」
膝にぎゅうってしがみついて可愛い。
「おねえちゃんじゃなくていいの?」
「とおやとねんねするう」
嬉しくて可愛くて抱き上げたディノにハグちゅうするとサーシャが「はやく」と服の裾を引っ張った。
アンジェラから絵本を受けとるといつものお昼寝スタイルでマットレスに仰向けで寝転ぶ。俺の横にディノとサーシャが寝転んでその外側にロイとライが絵本を覗けるように頭をピッタリ俺にくっつける。
アンジェラに読んでもらっていたからか、俺が読みだしたら5分もしないうちに寝息を立て始めた。潰さないように身体を起こして寝顔の髪におやすみのキスをする。
「あんなに懐いてくれたのにお昼寝はトウヤじゃないと駄目なんて妬けちゃうわ。」
子供達にハーフケットを掛けるのを手伝うアンジェラのつぶやきは俺へのご褒美かな。
「それにしてもアンジェラ、今日はどうして遊びに来てくれたの?」
「そうだね、うちは子供達が楽しそうで助かるけど。」
マリーの質問にノートンさんも同調する。きっとずっと聞きたかったんだろうな。それは俺も同じ。
マリーとレインとノートンさんのいるテーブルに椅子を戻して座って貰うと言いにくそうに口を開いた。
「ん~と……ちょっとお父様と喧嘩しちゃって。」
その理由にどう返事をしたら良いものか迷ってしまう。
「あ、でもそれだけじゃないのよ!ほら、騎士団が今討伐遠征に行ってるでしょ?その騎士団の方々がお揃いてつけてたってゆう飾り紐が欲しいの。『桜の庭』の子供達からの差し入れだって噂で聞いたんだけど……」
「ノートンさん、俺たち差し入れなんかしてないよな?」
顔の前で合わせた掌をもじもじさせながら尋ねる仕草が可愛いけれど2つ目の理由にも驚かされてしまった。セオは気を使ってそんな風に言ってくれたんだろうか。
「そうだね、私も見送りに行った時団長さんにお礼を云われて驚いたんだけど───」
「はい、俺です。勝手なことしてごめんなさい。」
集まる視線に申し訳なくてとにかく謝るしかなかった。
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