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騎士とミサンガ
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しおりを挟むクラウスの話 王都編⑧
討伐遠征が明日に迫っていた。
俺は昼飯を食べた後、そのまま食堂で団長のオースターとキール達数名と打ち合わせをしていた。
討伐遠征はその大多数が赤騎士隊から選ばれるから30人に及ぶ討伐隊もオースターが指揮を執る。
「クラウスさん、少しお時間よろしいでしょうか。」
「お、セオじゃないか。お前もこっち来て座れよ。」
食堂の戸口から俺を呼んだセオをキールが自分の隣の椅子を引いて誘った。
自分の為に引かれた椅子と俺の顔を見て戸惑う様子からどうやらこの場では切り出しにくい話のようだ。
「わかった、悪い、ちょっと席外す」
その場の面々に断りを入れてセオの立つ戸口に向かった。
「なんだ?今日は休みだったろ。『桜の庭』に行ってたんじゃなかったか?」
セオが遠征に参加するのが決まって以来合同訓練もあり以前より更に話す機会が増えた。
新しく用意したブレスレットも、俺からでは素直に受け取らないだろうと思ってセオに頼んだ。あの様子で渡しに行ったら多分顔すら見せなかっただろう。
『最初の予定通り俺からって事にしようとたらクラウスさんからの以外はいらないって云われましたからちゃんと伝言も伝えておきました。』
トウヤらしくない嘘をつくのに巻き込むぐらいだからかなり懐いてるんだろうけどあの時セオに腕を絡みつけた光景を思い出すといい気はしない。
けれどそのセオのおかげでトウヤがブレスレットを付けてくれのは揺るがない事実だ。
「トウヤさんからこれを預かってきました。」
小さく細長い箱を差し出され受け取ると「俺も頂きました。」と右手に結んだ3色の飾り紐を見せてきた。
箱の中にはセオのいう様に同じ赤青黒の3色に見事に編まれた飾り紐と小さく折りたたんだ紙が入っていた。
「───クラウスへ───この前は手芸屋さんまで送ってくれてありがとうございました。とても嬉しかったです。遠征気をつけて行って来て下さい。無事に帰って来るように気持ちを込めてお守りを作りました。手か足に付けて下さい。みんなのと同じに見えるけど同じじゃないです。寒くなります。体に気をつけて下さい。───トウヤ──」
まるで子供が書いた箇条書きのような文章だけれどもトウヤの伝えたいことはよくわかる手紙だった。
王都に着いた時自分の名前を繰り返し練習してやっと書けるようになっただけだったのにたった2ヶ月でここまで文字が書ける事に改めてトウヤの凄さを思い出す。懸命に書いている姿を思い浮かべて口元が緩んだ。
「ありがとう。悪いな、お前に頼りっぱなしだ。」
「お礼なら遠征の後も俺の鍛錬に付き合ってください。」
「その前に向こうで嫌と云うほど鍛えてやるよ。」
俺の返答に嬉しそうにする所に黒騎士隊から選ばれるだけの実力が垣間見える。
芯の強さや年の割に面倒見の良い所はやっぱりトウヤと同じ様に早く独り立ちしたせいなんだろうか。年下ながら見習うべき所の多い男だ。
「それからこれ、全員分頂いたんですけど……」
セオが開けた箱の中には同じ3色の飾り紐が沢山入っていた。
そうか、だからあの日ギルドと手芸屋に出掛けたのか。
『同じだけど同じじゃない』
自分の掌の物とセオの物を見ると俺のには少し光って見える所があった。
「俺も違う所探したんですけど全然わかんないですよね。」
そうだよな、俺のだけじゃなくセオのものにもたっぷりトウヤの『気持ち』がこもっているんだろう。仕方ない、それがトウヤだからな。
トウヤからの『お守り』を左手に結ぼうとしたらセオが小さく「あ」っと云った。
「なんだ、手首か足首に巻けばいいんじゃないのか?」
「は、はいそうです。」
セオは『しまった』とゆう顔をして慌てて口を塞いだ手をごまかすように自分の顎を撫でた。
「なんだよ歯切れが悪いな。」
「いえ、明日トウヤさん見送りに来ないんですか?もしそうなら……」
「───お前のそれ、トウヤが結んだのか。」
「はい、あ、いいえ、じゃなくて……はい。」
言いにくそうな態度に答えを促せば思った通りの返事が帰ってきた。
「そうかよ、ちょっと妬けるな。」
「す、すいません。」
『桜の庭』でトウヤの横にいたのを認識して思わず睨んでしまって以来時々セオに緊張させてしまうようだけど俺は子供じみた態度を見られたせいか話題を共有できる唯一の相手なせいかつい気が緩んで本音が漏れる。
「ふっ。まあいいさ。明日セオの見送りに来るのか?」
「いえ、そんな話はしてませんでした。」
「じゃあ無いな。トウヤは子供達を放り出して来るようなやつじゃないだろ。」
それは口にした俺が1番わかっているのだけれど、自分でつけるのは王都を出てからにしようと手紙と一緒に胸の内ポケットにしまった。
残りの飾り紐はセオから団長に渡させた。
騎士隊の赤青黒を彩った3色の飾り紐は『桜の庭』からの差し入れと云う事も相まって夕飯前に行われた激励会で討伐隊のメンバーに渡されるとそれぞれ甚く気に入って手首や足首に結びつけていた。
トウヤが見たらきっと喜ぶんだろうな。
あの花が咲いたような笑顔を思い出したら『お守り』を入れたポケットの辺りがじんわり温かいような気がした。
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