迷子の僕の異世界生活

クローナ

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騎士とミサンガ

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俺は毎朝のこの時間が好きだ。

寝息の聞こえる小さい子の部屋にそっと侵入してカーテンを開ける。

「おはよう、朝だよ。」

決して大声ではない。なぜならこれから眠ってる子たちをひとりずつ起こしてハグちゅうしていくからだ。

「そーんな時間今日は無いわよ!」

「ほらチビ達!セオさんに会えなくなるぞ、起きろ!」

すでに着替えを済ませ後はコートを羽織るだけの状態の年長組の登場にあっさりそれを奪われ、いつもグズグズして着替えをさせながらちゅうし放題のディノが飛び起きた。

今日は仕方ない。俺だって寝坊をしないように構えてたから早く起きすぎてしまった。
戻り次第朝食が取れるように既にテーブルはセットしてあるし出る前にみんなが飲めるようミルクティーとクッキーを用意してある。

「ほらトウヤ、拗ねてないで早く手伝って!」

「は~い。」

温度管理のされている室内と比べ外は寒い。しかも寝起きなので風邪を引かないように、そしてせっかくなので遊び着よりも少しだけみんなオシャレにした。とは言え学校の制服みたいにシャツとパンツにベストにニットの上着。マリーはスカートでサーシャはキュロットスカートだ。コートを着たら見えないけどね。

顔を洗って食堂に入ると奥の台所に教会からカイとリトナが食事を届けに来てくれていた。

「おはようございます。今日はすみません。」

「おはようございます。トウヤさん。昨夜伺ってるので大丈夫ですよ。」

「おはようございます。そうですよ、トウヤさんが来るまでは僕たち勝手に置いて帰ってましたから。」

ノートンさんひとりの時もあったからそれもそうなんだろう。

「じゃあ2人とも後よろしくね。トウヤくん行くよ。」

既に全員コートを着て準備が出来ていた。2人に「それじゃあ」と頭を下げて俺も慌ててコートを羽織った。


教会の裏を少し、子供の足で10分も歩かないくらいの所に騎士団の施設があった。塀で囲まれているから中に何があるのかわからないけれど出入り口らしき門の格子の門は左右に引き込まれていた。

その前で暫く待っていたら中からあの大きな馬を引いた騎士隊の人が次々現れた。

「「「おおきい~」」」

あっという間に15頭ほどの鞍を着けた馬と2頭建ての荷馬車が3台並んだ。

その中に騎士服の上に黒の外套を来たセオがいて、子供達が呼びかけると驚いた顔をした後照れくさそうに走ってきた。

「おはようございます。みんなで見送りに来てくれたんですね。朝早いのに……ありがとうございます。」

そんなセオにノートンさんが真っ先に声を掛けた。

「気を付けて。無理しないようにするんだよ。無事に帰って来るのをみんなで待ってるからね。」

「はい。」

ノートンさんの言葉にセオがはにかんで笑った。お兄さんみたいなところしか見たことの無いセオもノートンさんの前だと子供みたいな顔をするんだな。

そんなセオによじ登ろうとするディノの頭をくしゃりと撫でてなだめながらお揃いのコートを褒めてくれた。

「帰ってきたら一杯遊んでやるからな。その間いい子にしてろよ。」

「「「はーい。」」」

結局セオによじ登ったディノを受け取ろうとしたらセオが小さな声で俺を呼んだ。なんだろうと思って耳を寄せる。

「トウヤさん、クラウスさん呼んできますよ。」

そう云われてディノを受け取るのをやめた。

「ううん、俺はいいです。呼びに行ったらその分セオさんがここにいられないでしょう?休みの度に来てくれるの、実は俺も当てにしてたんです。ひと月も来れないんだらその間きっと大変なので。」

半分本当で半分は痩せがまん。クラウスに直接『行ってらっしゃい』を云う場面を想像してた。
でも仕事の邪魔はしたくないし、ましてや子供達とセオの時間を奪うなんてもっとしたくない。
手紙もミサンガも渡してもらった。それで充分。後はここでひと目見れたらいい。

なのでセオに抱っこされているディノのほっぺをぷにぷにとつついていた。

「そうしてると2人お似合いなんだけどなぁ。キミもそう思わないかい?」

不意にノートンさんが『誰か』に向かって問いかけた。

「思いませんよ。トウヤにお似合いなのは俺だと思ってるんで。」

「クラウス!」

いつの間にかノートンさんの前にセオと同じ黒の外套を来たクラウスが立っていた。

「改めまして。クラウスと申します。トウヤを少しお借りしてもよろしいでしょうか。」

「少しだけだよ?キミにはトウヤくんをうちに連れてきてもらった恩があるからね。」

姿勢を正して挨拶をしたクラウスにノートンさんが仕方ないと云った顔で俺を連れ出す許可を出した。
驚いてぽかんと口を開けていた俺の手をクラウスが引いてみんなから少しだけ離れた。

「しゅ、出発の準備はいいの?」

「ああ、遠征組はこの時間自由なんだ。こうして家族や恋人の見送りを受けるために。」

そう言って俺の手にキスをするからびっくりして引っ込めてしまった。思わず子供達の方を見たけど街路樹に遮られて見えなかった。良かった。見られてたら恥ずかしい。
だってたったそれだけの事で途端に先日のやり取りを思い出してしまう。

きっと真っ赤だろう俺の顔を見てクラウスが満足そうに笑った。

「手紙ありがとう。文字が読み書き出来るようになったのか?やっぱりトウヤは凄いな。」

「うん、難しいのはまだ無理だけど絵本は読めるようになったんだ。」

頑張った事褒められて嬉しい。

「だからこれ、トウヤに付けて欲しくて少し期待してた。」

外套の合わせ目から手を入れると、その下に赤の騎士服が覗く。そして騎士服の内ポケットから俺が編んだミサンガが出てきた。

「嬉しい……俺も同じこと思ってた。」

見送りに来るのは昨日急に決まった事だからセオも知らなかったのに俺が来るかもと思って待っていてくれたんだ。その気持ちに応える機会をくれたノートンさんに何かお礼しなくちゃ。

クラウスからミサンガを受け取り、差し出された左手に願いを込めて結んだ。

「クラウスが無事に帰ってきますように。」

「ありがとう。トウヤのお守りがあれば安心だ。」

そう云って俺が『お守り』にいつもするみたいにミサンガを撫でた。

「もう一つ頼んでいいか?このピアスに魔力を注いで欲しいんだ。」

クラウスがブレスレットと対だと云ったピアスを指差した。魔力?以前マデリンで俺にもあるとクラウスが教えてくれたけど意識して使ったことなんて一度も無いからわからない。

「どうやったらいいの?おれ魔法使えないから上手く出来ないかも知れないよ。」

「じゃあ。取り敢えずピアスに触れて俺の事考えてみて。」

わざわざ考えなくても今はクラウスの事で頭がいっぱいだ。
少ししゃがんで手の届きやすくなったクラウスの左耳の透明のピアスに右手の親指でそっと触ったらギルドの水晶みたいにホワンと光った。
でも光ったのはピアスだけじゃなかった。俺の左手の『お守り』まで同時に光った。

「キラキラして凄く綺麗だね。俺、上手く出来た?」

「ああ上出来だ。」

「ごめんね、こんな素敵なのの代わりがこんな物で。」

「いいや、これ以上のものなんてないさ。他の連中も喜んでたよ。それに俺のは特別なんだろう?」

クラウスのミサンガが『特別』だと知ってるって事は俺の手紙がちゃんと読めたって事だ。

その時6時を知らせる教会の鐘がなり始めた。出発の時間だ。

「うん、そうだよ。俺のお願いがいっぱい織り込んであるよ。だから無事に帰ってきてね。」

「ああ、約束する。じゃあそろそろ行くよ。トウヤも元気で。」

鐘がなり終わるとクラウスと同じ様に外套を着た騎士達が門から沢山出てきて馬や馬車に乗り始めた。

「うん……行ってらっしゃい。」

口ではそう云ったのに思わず外套を掴んでしまった。

「じゅ、10だけ。」

思いの外気持ちに忠実でクラウスを引き止めた行動に言葉をのせる。子供っぽいお願いだってわかってるけどこれが俺の精一杯の意思表示なんだ。

「10だけぎゅうってして。」

言い終わるか終わらないかのうちにクラウスが抱き締めてくれて誰が見ても茹でダコみたいになっているだろう顔を隠してくれた。

「もっと早く云ってくれ、ほんとに10だけしか出来ないじゃないか。戻ったら覚えてろ。」

言い終わると身体を離して、おでこに押し付けるように口付けると「じゃあ行ってくる。」と俺の大好きな笑顔で笑って騎士団の人達の方へ走って行った。




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