迷子の僕の異世界生活

クローナ

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『桜の庭』の暮らし方

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クラウスの話 王都編⑥




あの魔獣討伐に始まり何度目かの休みの機会を逃し流石のこの状況に焦りもする。
逢わないうちにトウヤの俺への興味が薄れはしないかと。

「なあキール、王都の警備の場所って今どうやって決めてるんだ?」

「前と変わらず順繰りだぜ?」

「いや、まだ1度も教会の向こう側に行ってない。」

2度目の場所も何度かあったのに何故か『桜の庭』に当たらないのだ。

「ああ、あそこな。なんかあそこだけ行きたいやつが多くて毎回前日に決めてるらしいぜ?俺は子供に興味無いからどうでもイイがなんか最近『桜の庭』に赤騎士隊をじっと見つめてくる可愛い子がいるんだと。」

「は!?」

「え?何?お前も興味あんの?わ~以外。」

興味あるに決まってる。最近になって現れた可愛い子なんてトウヤ以外有り得ない。

2日後の夕食が終わった後の食堂で部屋に戻らず待ってるとキースの言ってた通り赤騎士隊ばかり集まった中で何やら始まりだした。

「では~明日の『桜の庭』周辺警備争奪戦を始めま~す!挑戦者の方はこちらで腕相撲に参加してくださ~い。」

1人の若い赤騎士隊の男が声を張り上げる。ちょっとした催し物を見学してる奴らも結構いた。

「クラウスはいつもすぐ部屋に戻るから知らなかったろ?面白いから冷やかしで参加するやつもいるぜ?」

ほら。と指を指すのを見れば団長のオースターも混ざっていた。団長公認なら順番が回って来なかったのもうなずける。

「え?マジで参加すんの?」

立ち上がった俺にキールが信じられない顔をした。

「もうこの前なんて『何か困ったことでもあるのかい?』って声を掛けたら照れて奥に引っ込んじゃったんだよ?もう可愛いのなんのって……え!クラウスさん?まさか参加するんですか?」

司会を始めた騎士の肩を掴むと俺を見て慌てた声になる。

「も~団長もクラウスさんも冷やかしならやめて下さいよ!俺達のささやかな潤いなんですから~」

「いや、冷やかしじゃないから。」

青ざめる若い騎士達を完全に無視して圧勝してやった。これでようやくトウヤに会える。



******


「長い付き合いの俺でも昨日のお前にゃ流石に引いたわ。何やってんの?若手の楽しみ取ってやるなよ。」

キールもソフィアと同じく学生時代からの腐れ縁だ。ほっとけと言わんばかりにその言葉を無視して警備に出る前の装備点検を黙々と進める。最後に騎士用の剣を腰に下げた。
警備に出る時は服装だけでなく髪型も騎士らしくきちんと結うのが習わしだ。もうひと月も顔を見ていない。見慣れない姿の俺に気付いてくれるだろうか。

騎士団の詰め所を出て警備を始めるが市中は平和そのものだ。こうして騎士団が毎日警備しているからなんだろうがつい気も緩みやっと会えるトウヤのことばかり考えてしまう。だけど『桜の庭』が近づくに連れふとそんなにタイミングよく会えるのか?と不安になった。

「悪いキール、ちょっと先に行く。お前はゆっくり来いよ!」

そう言って相棒を置き去りに走り出す。こんな俺を見たらソフィアは爆笑だろうな。

『桜の庭』にたどり着き賑やかな声のする方を見れば、子供達が楽しそうに遊んでいる。その中にトウヤはいない。

屋敷の中で仕事なのか?そう思いながらフェンス伝いに歩けば小さな黒い頭がその背中をフェンスに預けて立っていた。

そっと真後ろに立ち、驚かせないよう声をかける。

「トウヤ。」

このひと月、何度も呼びたかったその名前を口にする。ぴょこんと跳ねた華奢な肩に気づいた事を確信してもう一度呼んだ。

「トウヤ、やっと会えた。」

こんな近くにいるのにこんなにも会えないとは思ってなかった。振り返ったトウヤは相変わらずどこにもない大きな黒曜石の瞳で俺を見た。その綺麗さに吸い込まれそうになる。
声もなく俺をその瞳でじっと観察したのち、顔をほんのり紅く染めてうつむいてしまう。
その仕草は可愛いけどせっかく会えたんだからもっと顔が見たい。

「顔が見れて安心した。外に出てて良かったよ。」

そう言うとぱっと顔をあげてふわりと笑った。俺の1番見たかったトウヤの顔だ。でもその顔はすぐ消えて少し困ったような顔をしたあとようやくひと言『元気そうで良かった。』と言う。
トウヤの話したいことなら全部聞きたいのに無理やり一言におきなおした態度にこのひと月が長すぎたと実感した。懐いたはずの猫が少し警戒を取り戻したような感じか。

そんな事を考えていたら小さなお使いがやってきた。ジェリーより少し大きな体をトウヤに隠し俺を見る子供を抱き上げるとその子供相手にあろうことか『お友達』と紹介した。

しかも答えを迷った挙げ句がそれだ。赤騎士隊の中で噂になる程だったんだ。俺を探してくれていたんだろ?
けれどその答えもトウヤらしい。
またお預けされた柔らかい唇を親指でなぞりそれに口づけをすれば瞬く間に顔が真っ赤になった。

「子供の前で何するんだよクラウスのばか!」

俺の名前の後に『ばか』を付けるのはどうやらトウヤの照れ隠しみたいだ。でもフェンス越しとはいえ久しぶりの逢瀬を大事にしたいのにその声の為に子供達が集まって来てしまった。

「すげぇ、クラウス様に『ばか』とか言うやつ初めて見た。お前この子と知り合いなの?」

背中からキールの声が掛かり、思わずトウヤを背中に隠す。俺がひと月振りなのに他のヤツに簡単に見せたくない。そう思った矢先、トウヤはフェンスから離れ若い男の元にいた。

誰だソイツ。

「うちのトウヤになにか用ですか?」

俺からトウヤを隠すように立つ少女に向けてその若い男がトウヤを押して寄越した。しかも俺とトウヤが知り合いなのを知っている。

キールとそいつのやり取りを眺めてるうちトウヤもフェンスから離れたままだった。仕方ない。今日は話せただけで良しとするか。
キールに促されて返事をすれば慌ててトウヤが走り寄ってきた。それだけでたまらなく愛おしい。

「じゃあなトウヤ。また来る。」

その言葉に躊躇いながらも頷く瞳に涙はない。『桜の庭』がちゃんとトウヤの居場所になっているんだろう。撫でた小さな頭の感触を手のひらに閉じ込めてキールの後を追った。

教会の先の左に折れた所で街路樹にもたれキールが俺を待っていた。

「悪かったな。」

「珍しいもん見れたからいいさ。なんだよ噂の可愛子ちゃんはお前の知り合いってウケんだけど。あそこにいるってことは子供?それにしちゃ大きいな。」

こいつの態度も仕方がない。腐れ縁の挙げ句遊び仲間だった。

「俺がマデリンから連れてきた、子供じゃない。先月からあそこで働いてる。」

「ふ~ん。今までのと比べるとなんだか以外っつうかなんつうか。」

「別に今までに好みなんていなかった。それより中にいたやつ誰か知ってるのか?」

今は俺の好みがどうとかよりトウヤの近くにいた若い男が気になる。見覚えがある気になるのは髪の色と子供を抱き上げた雰囲気がビートに似ていたからだろうか。

「あいつは黒騎士隊のセオだ。『桜の庭』出身でな。そのせいかよく気の回る良いやつだぞ。時々顔を出して院長の手伝いをしてるらしいな。」

「やけに詳しいな。」

「まあな。あいつ大人しそうな顔して結構やるんだよ。ウチの団長も目を掛けてる。次の試験で赤騎士隊に上がってくるんじゃないか?」

まさかの有望株に対して今身動きの取れない自分の立場が恨めしい。でもそもそもトウヤは俺に返事をしなかった理由は『男は対象外』なんだから心配はしない。しないが無自覚ぶりが増してる気がしてならない。なんせ赤騎士隊の連中を既に巻き込んでるくらいだからな。

「なんか3年見ないうちに変わったなぁクラウス。ま、頑張れ?」

キールの言葉を苦々しく受けながら自分でもこんなに狭量だったかと思いつつ次の警備担当も勝てば良いんだと気持ちを切り替えたのだけど次からの争奪戦はくじ引きに変わってしまうのをこの時の俺は予想もしてなかった。




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