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『桜の庭』の暮らし方
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しおりを挟むビートを思い出させる紺色の髪に紺色の瞳。床に座り込み驚きに満ちた顔で俺を見つめる黒い騎士服の男。
この人見覚えがある。そう思った時だった。
「な~んだセオさんか。」
「また来たの?生憎この部屋はもうトウヤの部屋なんだから寝るなら別の部屋にしてくれる?」
「あ、俺とマリーの部屋もダメ」
驚いている俺と侵入者をよそにマリーとレインがいつものトーンで話を進めるそこにまだ起きていただろうノートンさんが階段を駆け上がってきた。
部屋の様子にまずシーツを被って壁に張り付いたままの俺の心配をしてくれた。
「驚いたろう、トウヤくんすまなかったね。この子はセオと言ってここで育った子なんだ。」
ノートンさんが俺の手をそっと包むように握って撫でてくれて初めて自分が震えていることに気づいた。その様子に床で呆けていた男も慌てて立ち上がった。
「スイマセン俺、新しい子がいるって知らなくてその……」
「いつでも来ていいとは言ってるが挨拶はしなさいと何度も言っただろう。だからこう云うことになるんだ。もう大丈夫だよ、さあゆっくり息をしてご覧。」
ノートンさんが男を諌めながら俺の背中をゆっくりさすって呼吸を促してくれた。自分でもよくわからない恐怖心に支配されていた。みんなの様子や自分の記憶からこの人は悪い人じゃないってわかっている。
「すいません、突然の事だったので驚きすぎてしまって……。」
左手の『お守り』を撫でているうちにようやく震えが収まってきた。
「なによトウヤって結構怖がりなのね。」
マリーの軽口に場が和み「ははは、ホントだね。」と返した。
突然の訪問者の正体は俺と同い年の黒騎士隊所属のセオ。『桜の庭』育ちで学生の頃から休みの日になるとたまにもどって子供達と遊んだり、ノートンさんのお手伝いをしてくれるらしい本当にとってもいい子だ。
俺がなんで見覚えがあったかと言うとこの人は紫頭のジョセフを殴り倒して片手で引き摺って行ったもう1人の黒騎士隊の人だったからだ。
食堂に場所を移してノートンさんのいれてくれた紅茶に一息つく。
「あの……トウヤさんてこの前クラウスさんと一緒にいた人ですよね?」
セオが大きな身体を小さくして申し訳なさそうに聞いてきた。180センチを余裕で越える身体はよく鍛えられていて立派だ。まさか覚えられているとは思わなかった。
「冬夜でいいですよ。俺こそ驚きすぎてすみませんでした。」
自分でも気づかないうちにトラウマみたいのが出来てしまったんだろうか。こうゆうのって気にしなきゃそのうちなんとかなるかな?
「2人は会ったことがあるのかい?」
「会ったってほどじゃないですよ。話をするのは初めてです。」
俺達の会話にノートンさんが入ってきた。時間が遅いのでマリーとレインは部屋に戻った。
「じゃあ改めて私から紹介するよ。こちらは先日から『桜の庭』で住込みで働いてくれているトウヤくんだよ。こちらはセオ、今は騎士団の中の黒騎士隊で頑張っている子でね、寂しがりですぐ帰って来ちゃうんだ。」
やれやれといった感じでノートンさんに言われたセオが顔を真っ赤にして否定する。
「ち、違います!寂しいとかじゃなくてちょっと最近鍛錬が厳しくって寝付けなかったんで明日の休みはゆっくりしたかったんです!その……寮にいると休みでも引っ張り出されちゃうんで……」
「そんなに厳しんですか騎士団て。」
怪我はしてないだろうか。心配になり『お守り』に視線を落とし無意識に撫でてしまう。
「ふふっ、トウヤくんはそれいつもよく触ってるね。」
見られてたなんてなんだか照れくさい。
「……はい、僕の『お守り』なんです。」
「うん、すごい『お守り』だよそれ。大事にされてるんだね。」
ノートンさんがニヤリと笑った。すごいって何?
「ここの扉の仕掛けもそうだけど私は付与魔法が得意でね、それに付与されてる魔法がなんとなく読み取れてしまうんだよ。それにはトウヤくんを護る魔法が二重三重に掛けられているからもしそれがさっき発動していたらセオは無傷じゃ済まなかったよ?」
ノートンさんの言葉に二人して驚いたのは言うまでもない。
結局のところなぜこうなったかと云えば、俺の部屋が元々セオの部屋で疲れと眠気でよく確認もせずにベッドを使おうとしたらしい。
けれども今夜はもう時間も遅く、別の寝室を用意してられないので、セオはプレイルームのマットレスで寝ることになった。
「僕がディノのベッドで寝てもいいですよ?時々一緒に寝てるし。」
と言う提案は「あちこち怒られそうなんで大丈夫です。」と断られた。あちこちってどこ?
そんな事があったので今朝は起きるのが少しつらい。
着替えをしてエプロンを付け、階下に降りて洗濯機のスイッチを入れる。
お湯を沸かしながら食堂と台所の窓を開け放った時に外で鍛錬に励むセオを見つけた。
「ゆっくり休みたいって言ってたのに。」
セオがこちらを向いたので「おはよう」の意味で手を振るとペコリと頭を下げた後、高速腕立て伏せをやり始めた。
その勤勉さに頭を振って眠気を払い、自分もと気合を入れ直しテーブルを拭き上げ紅茶の準備をすると小鳥が朝食をが届いたのを知らせてくれる。
タイミング良くカイとリトナが卵を沢山持ってきてくれた。
これならセオの分の朝食を用意してあげられる。
ちらりと窓の外を見ればセオの鍛錬にレインが参加していた。
二階に上がりマリーの部屋をノックして起床を確認するといつも通り小さい子組をハグちゅうして起こして行く。
赤目のロイと紫目のライは別々に寝てても朝起こしにいくといつもロイがライのベッドに寝ている。しっかり者なのはロイなんだけどそれ故にライが心配なのかも知れない。
起きてきたマリーにハグちゅうしてレインの不在をつげると
「いいわよ、毎回の事だから。」
と快く1人で小さい子達を洗面に連れ立ってくれた。
俺は急いで台所に戻るとチーズオムレツを追加して9人分のお皿を並べてノートンさんとおかずを盛り付けた。
「セオさん、レイン、朝ご飯だよ~」
窓から呼べばレインと共に寄ってきたセオが遠慮する。
「俺自分の分持って来てるんで……」
「大きいからそれも無駄にせずに食べれてしまうでしょう?子供達も喜びますから一緒に食べましょう。ね、レイン早くセオさんを早く連れてきて。」
2人におしぼりを渡して急かす。スープやおかずが冷めてしまうからね。
「ほら、セオさん早く入ろうぜ。」
レインは『セオさん』と呼ぶ。マリーもだ。先輩の彼を尊敬しているんだろうな。……おれも同い年なんだけどね。根本的に作りが違うんだよなぁ。
自分のペラペラの身体を触っていたらマリーがそれをみて鼻で笑った。傷つくし!
「おはようございますセオさん、おはようレイン。」
食堂に入ってきた2人に改めて朝の挨拶をしてレインにはハグちゅうする。セオにぎょっとされたが気にしないもんね。これは俺の朝の日課なんだから。
「ちょっ、トウヤ俺今汗臭いからやめろよ。」
なんだよ鬼ごっこの後だって嫌がらないくせにセオがいるからカッコつけてんのかよ。
「マリー、レインが大きくなっちゃったよ~。」
「はいはい、大丈夫よ。夜には子供に戻ってるから。」
「レインおおきくなったの~?サーシャもなった?」
「ロイは?」
「ライもおっきい?」
「ディノも~」
「うんうん、みんな可愛いよ。」
昨日の夜の出来事はこうして楽しい1日の始まりに続いてくれた。
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