迷子の僕の異世界生活

クローナ

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『桜の庭』の暮らし方

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俺が『桜の庭』に来てから10日が過ぎた。

その間に俺のやる仕事が段々増えてきた。

初めは小さい子組のお世話を中心に、なんて言われたけどどう考えても遊んでるだけだった。

「そんな事ないわよ。」

「めっちゃ助かる。」

年長組はそんな事言ってくれたけどはっきり言って毎日が日曜日だった。こんなんでお給料もらうのは良くない。それにあまりの暇さに俺が根を上げた。

3日に一度の洗濯に来てくれた人に手伝わせてもらうとなんと『桜の庭』には洗濯機があった。さすが王国立の施設だ。『とまりぎ』ではもっと大きいシーツを10セット手洗いで洗濯していたから子供サイズのを俺の含めて7セットにノートンさんの。服やタオル類を考えたって洗濯機があるなら楽勝!ってことでまずは洗濯を俺がやらせてもらうことになった。

掃除は屋敷が広すぎるので毎日使う所だけやって他は今まで通りお願いすることにした。

食事も今まで通り教会から運んでもらう。

子供達の中で大きく変わったのは小さい子組のシャワーの世話を今までレインがやっていたのを俺が代わったこと。最初に小さい子組と俺がシャワーを浴びて、それからレイン、マリーが1人ずつ、最後にノートンさんがシャワー室をついでに掃除してくれる。これは今まで通り。

それから寝室も本人達の希望でマリーとレインは一人部屋になった。

今までは小さい子組がたまに起きたりするのを気にしてくれていたみたいで、俺が来て二日目には余ってる部屋を掃除してベッドを移した。

だって夜中に起きたディノとサーシャは隣の部屋の俺のベッドに潜り込んで来たんだもん。
一番に2人の負担を減らしてあげたかったからその辺りは凄く嬉しい。

そして10日が過ぎた今では起きてからの流れも出来た。

まずは朝起きて着替えたらエプロンをつける。

1階のリネン室の隣の部屋の洗濯機のスイッチを入れたら台所でお湯を沸かし台所と食堂の窓を開けてテーブルを拭いていく。
湧いたお湯でティーポットを温めていると台所の窓辺の小鳥の彫像が『ピヨピヨ』と可愛らしく鳴く。
これは教会の人が来た合図だ。

この小鳥は屋敷のあちこちにいた。来客の時は鈴の音が響き渡り、教会の人や掃除の人などの出入りの許された人の時は今みたいに『ピヨピヨ』と鳴いて知らせてくれる。他にも鳴る時があるらしいけど『それはまたその時にね。』とノートンさんに言われた。

「おはようございます。朝食を持ってきました。」

扉が開いて教会からワゴンに乗せて運んできた朝食をグレーの詰め襟の学生服によく似た服を来た2人の男の人が台所のテーブルにのせてくれる。まだ温かいスープの鍋は一度お願いしてからコンロに乗せてくれるようになった。朝、昼、夜の三食分が入ったお鍋はとても重たいのだ。

「おはようございます、カイさん、リトナさん。紅茶いかがですか?」

「「いただきます!」」

2人は初日のお昼と夕飯を運んで来た時にそれぞれ会ったのだけど、次の日の朝からいつも2人で食事を運んでくれる。

朝、紅茶をいれた時に丁度来たため一度誘って以来茶飲み友達?みたいになった。

「そのクッキー、頂いた材料で焼いたんですけどどうですか?」

『何か必要なものはないか』と聞かれ、紅茶と珈琲ぐらいしかなかった台所に少しずつ調味料を増やして貰っている。だけど思いの外沢山の小麦粉とバターとお砂糖を貰ったので卵を貰ってみんなのおやつにクッキーを焼いたのだ。

バレンタインとホワイトデーに散々手伝わされただけあってレシピは覚えていた。

「え!手作りですか?」

「めちゃめちゃ美味しいです!」

……いや、普通の味ですけど。

「お口に合って良かったです。」

「また何か必要な物があったら言ってくださいね!」

毎回聞いてくれるのでついつい俺も子供達のリクエストに答えたくてあれこれ頼んでしまうのだ。

「じゃあ、もし生クリームが手に入るようだったら何か果物と一緒に持ってきていただけますか?」

昨日マリーがクレープを食べたいと言っていたからだ。
今ある材料で出来なくもないが生クリームがあるならもっといいに決まってる。

「生クリームですか、料理長に聞いてみますね。」

「ありがとうございます。」

そんな風に毎朝話をしているとノーマンさんも珈琲を飲みに来る。

「おはようトウヤくん。……君たちも。」

朝のノーマンさんは俺にはにっこり笑ってくれるけど2人のことはいかにもついでだ。これには理由がある。

「おはようございます!じゃ、トウヤさん、お昼にまた来ますね!」

ノートンさんが来るとそそくさと帰って行くからだ。

「まったく、あの2人ときたらトウヤくんが来てからというもの毎回2人で来るようになったし今までは食事を置いたら挨拶もせず戻っていたのに毎朝毎回居座って同仕様もないな。」

と、言うことらしい。

「でもいい人たちですよ?昨日のクッキーだってお二人が持ってきてくれた材料で作れましたし、今も必要な物を聞いてくれたので生クリームと果物をお願いしてみました。」

「トウヤくんはそういうとこ案外おねだりが上手だね。」

「だって子供達の喜ぶ顔が見れると思ったらつい。ダメでしたか?」

「いや、君が子供達を一番に思ってくれてるのはよくわかってるからね。」

ノートンさんはそういいながらも少しため息混じりだった。ちょっと生クリームは遠慮がなかったかな?でも2人が頼んでいない物もいろいろ持ってきてくれて『ほかに』と言われたら生クリームくらいしかなかったって事なんだよね。

「それじゃあ子供達を起こしてきますね。」

ノートンさんに淹れたての珈琲を渡して二階に向かう。レインとマリーの部屋をノックすれば2人は既に起きているようだった。
俺は小さい子組の部屋に入るとカーテンと窓を開け四人に声をかける。

「おはよう、朝ですよ。サーシャ、ライ、ロイ、ディノ起きてね。」

声をかけるとまずロイがむくりと起きてライを起こしにかかる。

「おはようロイ、今日も一番だね。ライもおはよう。」

俺の朝のご褒美ハグちゅうタイムだ。その後に隣のベッドの小さな塊がもぞもぞ動いてサーシャが起きる。

「おはようサーシャ。」

まだ開かない目元にハグちゅうすると「きゃ~」と毎朝喜んでくれる。

ディノは全然起きないので「ディノ~朝ですよ~」と声を掛けながらみんなの着替えを用意してベッドに置いていく。

準備が終わった所で全然起きないディノを着替えさせる。着替えが終わるくらいにようやく目を醒ましたディノにハグちゅうするとディノも「おはよう」と返してくれる。

「おはようトウヤ」

「おはよう」

着替え終わったマリーとレインが一緒に洗面へ向かうため来てくれるので二人にもハグちゅうだ。

「おはようマリー、レイン。」

二人に小さい子組を任せ俺はノートンさんを手伝って朝ご飯の準備に取り掛かる。
小さい子組のはあらかじめ小さく切ってから盛り付けるようにしたら随分上手に食べる様になった。

食べ終わって食器を洗い終わると次は洗濯物だ。

1度目の昨日の服やバスタオルなんかを洗濯機からカゴに出してから二階に行ってシーツを剥がす。マリーとレインは自分の物をやってもらってパジャマと一緒に2度目の洗濯を待つうちに1度目の洗濯を干す。

これが楽しい。みんなが周りで遊びながら洗濯を干すんだけどマリーとレインも手伝ってくれる他に小さい子組が競って俺に洗濯物を渡してくれるのであっとゆう間に干せてしまうのだ。
シーツを干す時も賑やかでたいていかくれんぼが始まる。洗濯をやり始めた初日は子供達もはしゃぎ過ぎて洗濯をやり直しになった事もあったけど今では「ほどほど」に遊べる様になった。

これが最近の『いつもの朝』になった。

そしてこの時間になると『桜の庭』の前を二人組の騎士服の人達が通り過ぎて行くのだ。

じっと見すぎて騎士の人と目が合ってあわててペコリと頭を下げると向こうも手を挙げて挨拶を返してくれた。

「トウヤは騎士団が好きね、いつもみてる。」

だって気になるんだもの。

「今日は赤騎士の日だな。かっこいいよな。」

うん、だから尚更見てしまうんだ。きっとかなり格好いいと思うよ。

赤い騎士服の人が縦格子の向こうを通るのを見るのは今日で4回目だけどいつも目当ての人ではなくて今のように慌てて頭を下げる事になる。

それにしても格子の向こうを通り過ぎて行く騎士達はなんだか別世界の人みたいだ。

……まあ、まるごと全部別世界なんですけどね。

「……窓拭きでもしようかな。」

暇ができるとどうにもならない事をつい考えてしまうのだ。
今の所この時間以外はガラリと変わった生活の中でやる仕事を増やせば余計な事は考えずにすむのがありがたかった。






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