迷子の僕の異世界生活

クローナ

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『桜の庭』の暮らし方

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綺麗な鈴の音が聞こえる。郵便屋さんが来た時と同じだ。

「どなたですか。」

両開きの縦格子の門扉の真ん中に裏口にあったのと同じ小鳥が2羽飾られていてそこからノートンさんの声がした。

「おはようございます、冬夜です。これからよろしくお願いします。」

「もう来てくれたのかい?今開けに行くから少し待ってておくれ。」

最初は驚いたけどインターホンってことだよな。

屋敷の中央の扉が開くと一番にサーシャが飛び出してきた。それからディノ、ロイが続いてレインも走ってくる。その後にマリーと手をつないだライ。

「おにーちゃんまたきたの?いっしょにあそぶ?」

サーシャが扉の取っ手にに飛びついて来た。

「お前らが行っても開けれないだろ。ほらどけって。」

レインに言われて小さい子組がほっぺを膨らませながらも一歩下がる。レインが両手で左右の取っ手を触るとカチャリと音がしてゆっくり扉が開いた。

「すごい。どうなってるの?」

「登録したヤツでないと鍵が開かないようになってるんだよ。でも子供は俺とマリーだけな、チビ達は出てっちゃうから。」

「へぇ~」

「今からトウヤくんも登録しようね。」

扉の仕組みに感心しているとノートンさんも出てきてくれた。大きなかばんをなんとか門の内側に入れると

「手を貸してご覧」

ノートンさんが俺の両手を取っ手に乗せてそれごと握って何か呪文を唱えると格子の門扉が光った。

「これでトウヤくんも出入り自由だよ。ようこそ『桜の庭』へ。こちらこそこれからよろしく頼むよ。」

「はい!」

元気よく返事をしたもののかばんが大きいのと、更にちびっ子達がくっついてるので上手く進めない。

「ははは、早速人気者だね。かばんは私が運んであげよう。トウヤくんは子供達とおいで。」

ノートンさんがひょいっと俺のかばんを持ち上げてしまった。……おじいちゃん結構力持ちなんですね。

みんなと一緒に食堂へ行くとみんな席について食べかけのご飯を食べ始める。

「すみません、ご飯の途中だったんですね。」

「いや、いいんだよ。早く来てくれて助かったよ。朝起きてから口を開けば「いつ来るの」って聞かれてね。ほら、トウヤくんと遊びたかったら残さず食べるんだよ。」

「「「は~い!」」」

「ね。」ってノートンさんがウインクして俺の非礼をなかったことにしてくれた。

「じゃあ部屋に案内しようか。」

「俺も行く」

「私も」

「君たちは食べてから出ないとダメですよ。」

椅子から降りかけた子供達があわてて座り直した。

「歓迎してくれてるんですね、嬉しい。」

ふふっと笑うと「そりゃあもう。私の立つ瀬がないよ。」と苦笑いされた。

「さあ、ここが君の部屋だ。子供達と相談してね、子供達の隣の部屋だ。ちょっとベッドが間に合わなくて小さいがまあ不都合があったらまた相談しよう。」

そこは俺には広い12畳ほどの個室でベッドと洋服ダンスと勉強机が用意してあった。部屋の広さを除けば俺が長いこと生活してた空間によく似ている。それにベッドは全然小さくありませんよ。この世界に来る前に使っていたベッドと同じくらいでむしろ落ち着くかもですよ。

「すまないが荷解きは夜にしてもらって食堂に行っててくれるかい?契約書を持って私も行くから。」

そう言われて俺はまたもや大事な事を伝えるのを忘れていた。

「ノートンさん、あの僕ここで働けるのが嬉しくて伝えるの忘れてたんですけど……実は文字が読めないんです。それが都合が悪いならその……」

「……そうか。でもまあ多少は不便だがなんとかなるさ。それにそんな理由で君を雇わなかったら私は子供達に嫌われてしまうよ。」

「ありがとうございます。僕に出来ること、精一杯頑張ります。」

手放しでOKと言う感じではないものの、ノートンさんがそう言ってくれたので安心でき、改めて挨拶をした。

それから食堂に戻ってみんなの食事の世話をやいて、ノートンさんが持って来た契約書を読んでもらってサインをした。

「よし、これで正式契約だね。それにしても綺麗な文字を書けるじゃないか。」

「名前だけは書けるように教わりました。」

クラウスが俺にくれたものの1つだ。自分の名前なんて見るのも書くのも嫌だったのにそれを褒められて嬉しいと思えるなんて少し前までは想像できなかったな。
クラウスのお手本にそっくりにかけるまで何度も練習した俺の名前。

「トウヤくんがその気があるなら子供達と一緒に教えてあげるよ?」

ノートンさんの思いがけない申し出に一も二もなく飛びついた。



『桜の庭』は新しい人が長続きしないのが状態化していてノートンさん1人で出来るわけでもなく、食事は教会から運ばれ、掃除や洗濯は3日ごとに掃除の人が来てまとめてやってくれるらしい。俺が加わることで何が出来るのか。取り敢えず暫くは小さい子組のお世話を中心とすることになった。

と言っても一緒に遊んでいるだけだ。

マリーやレインも見た目は大きいけど中身は小学1年生。遊び始めると夢中になる。出逢った時に『賑やか過ぎるのも大変』みたいな事を言ってたノートンさんの言葉は直ぐに実感できた。これは俺の体力づくりを真剣に考えなければいけないかも。

遊びのメニューも考えよう小さいディノから大きいレインとマリーが一緒に出来るもの。

保育士になる夢を諦めた俺に与えられたこの機会に前を向こう。今の俺だけを見てくれる人たちの中で頑張ろう。いつかこの庭の『始まりの桜』を笑って見れる様に。





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