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王都で就活?
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しおりを挟む顔を上げて振り返った時にはその子は見当たらなかった。
しばらくその子の走っていった先を見ながらボーゼンとしてたけど取り敢えず休憩を続行することにした。
例に漏れずサイズの大きなベンチはしっかり背中を預けてしまえば足は下につかないので靴のない足を気にすることなく広場の景色を眺めることが出来た。
ずっと目指して歩いてきた塔を中心に左右に広がる教会は俺のイメージするようなステンドグラスははまってなくて飾り彫刻の施された柱が等間隔に並ぶ広い回廊がありとにかく美しい建物だった。
自分の身近にはなかった建物に怯んでしまいそうだけどこの一面の芝生で遊ぶ子供たちや散歩している人やそれを目当てに屋台が少しあったりしてここの人には親しみのある場所なんだとわかる。
今何時くらいなんだろう。お昼には少し早い気がするけどいつになったら動けるかわかんない。
ベンチの下で目を合わせたあの子は笑ってた。だから盗もうとかじゃなくて遊び感覚で俺の靴を持っていった気がするんだよね。だからここに居れば多分戻って来る気がしてるから移動できない。
まあ歩いても足が痛くなったんだから靴下だけの足やましてやケンケンとかじゃ絶対宿までもたないや。ちなみに、残ってるのは右足。
ここ、スニーカーはなさそうとゆうかゴムがないのかな?下着も紐で結んでいるんだよね。一足しかないから早急に買わないといけなくなるなあ。
「ま、いっか」
本当は先に孤児院まで歩く予定だったけど思ったより時間かかったし、先に軽くお昼を食べながら靴が帰ってくるのを待つことにしよう。軽食っぽい屋台まで20メートルけんけんだ。
片足でぴょんぴょん跳ねながら辿り着いて屋台を覗くとクレープ屋さんだった。今朝のココアラテといいクレープといい甘味の屋台が嬉しい。迷い込んだあの日も片栗粉とスイーツを買う予定だった。知らない所で靴をなくして可愛そうな俺にご褒美上げないとね。
フルーツとクリームたっぷりのクレープを手に入れてベンチへ戻ろうと思ったら戻るには跳ばなくちゃいけなくてそれをやるとクレープが大惨事に…………。
足とクレープに視線を往復させたあと結局左足の靴下を脱いで裸足の足を芝生について普通に歩いてベンチまでもどった。
クレープはサイズが俺の知ってるサイズの二倍くらいある。これは嬉しいけど量が多くてそんなに気軽には食べられないな。一口目の場所を探して頬張ったけど口の周りにクリームがつくのは阻止出来なかった。
お腹がいっぱいになって、天気も良くて、青空と白い教会に芝生の緑の穏やかな雰囲気に眠くなってきてしまった。ここで寝るのは流石にやばいからそろそろ戻ってきてくれないかな?
そう思っていたら丁度靴がもどってきたみたいだ。女の子と一緒に。
女の子は俺の靴を片手に持って、泣いてる小さな男の子の手を引っ張って小言を言っている。じーっと見ていたらようやく目があったので手を振って合図してみたら変な人だと思われたのかぷいっとされてしまった。
「あの、その靴、俺の。」
声に気付いた女の子がプラプラさせた片方裸足の俺の足を見て慌てて男の子を引っ張りながらやってきた。
「あの、これ、この子が持ってきちゃったみたいで。」
ちょっと遠くから手を伸ばして靴を差し出すのを立ち上がって受け取った。
「ありがとう。戻ってくるの待ってたんだ。」
中学生くらいに見えるけれどきっとビートくらいに違いない。女の子は成長が早いからただでさえわかりづらい。泣いてる子はジェリーよりも少し小さい気がした。
足の裏を払って靴下をはいて、ようやく戻ってきた靴を履いた。良かった。でも予備の靴は早めに買おうかな。
「も、戻ってくるって思ってたの!?」
薄紫の髪を背中まで伸ばしたその子が呆れたようにいう。俺はつないだ手の先の泣いてる子を見ながら
「だってその子が俺の顔見て笑ったから。」
しゃがんで視線をあわせて「ね?」って言ったら俺を見てにぱって笑った。あ、嘘泣きだったなこいつ。
そのまま俺は突き飛ばされて芝生に転がされてしまった。フカフカで全然ダメージないけどさ。
「もう!いたずらばっかりして!」
芝生の上を走り回る子を追いかけてお姉ちゃんは真剣だけど下の子はただの追っかけっこで遊んでてそのうちそこに子供が増えて6人ぐらいの鬼ごっこに変わってた。
「うちの子が迷惑を掛けたみたいで申し訳無い。」
子供達を眺めてる俺の横にいつの間にかおじいさんが立っていた。
「いいえ。少しも。お孫さんですか?」
メガネを掛けた白髪のおじいさんにベンチの隣を勧めながら返事をした。
「まあ、孫みたいなものだね。」
「賑やかでいいですね。」
途端におじいさんの顔色が悪くなった。深いため息までついちゃった。賑やかすぎるのかな?
「所でさっきの履物はあまり見ないね。どこで売ってるんだい?」
「え?」
…………異世界です。なんて言えるわけがない。
「王都で売ってないんですか?昨日王都に着いたばかり知らなかったな~。別の町で手に入れたんですけどなんて町だったかな?」
苦しい言い訳だけど上手く誤魔化せたかな。
「ほお。で、王都には何をしに来たんだい?」
「仕事を探しに来ました。」
「仕事って、君はまだ学生じゃないのかい?今日だってまだ学校は終わっていないだろう。」
おじいさんのメガネがキラリと光った。やけに聞いてくるなと思ったらそういう事か。俺学校サボってる子供だと疑われてるんだ。
「よく間違われるんですけど僕成人してますよ。しかも18歳です。」
この世界の成人は16歳だ、見かけによらず大人でしょ。おじいさんになら名前も知られていいかと思って首に下げたギルドタグを出して見せた。
おじいさんはタグと俺を2往復ぐらいしてから納得したらしい。
「そうか、いやいや疑ってすまなかったね、トウヤくんと云うのかい。私はノートンだ。あんまり若いからてっきり学生さんかと思ったよ。仕事はもう決まっているのかい?」
「いえ、よく間違われるので気にしませんよ。仕事はまだ決まってないので今日は王都の見学してるんです。」
なんて。本当はめちゃめちゃ気にしてますけど!だってここの人たちがでかいだけだから!でも「小さいから」って言わなかったからおじいさん良い人!
おじいさん、ノートンさんと話していたら小さい子がいっぱい寄ってきた。
「ね~ね~おにいちゃんだあれ?」
「ノートンさんのおともだち?」
「いっしょにあそぶの?」
うわあ~可愛い~。抱っこしたい!
「こんにちは。仲間にいれてくれるの?」
「いいよぉいれたげる!」
そう言って目を輝かせた子供達が俺の手を引いたのでノートンさんにかばんを預けてついていく。
さっきの女の子に同じくらいの男の子。俺を迎えにきたジェリーくらいの女の子1人と男の子2人とさらに靴の男の子。6対1の鬼ごっこになった。
…‥いや無理でしょ。体力おばけの子供達と鬼ごっこなんて。18なんだってば。いつまでもやってられない。せっかく捕まえても年長組が鬼をバトンタッチしてすぐ鬼にされた。
「あ~もう走れない」
芝生にパタンと仰向けに倒れた。
「ねえちょっと大丈夫?」
「おにいちゃんどうしたの?」
「なんだよ終わりか?」
「おにいちゃんねちゃったの?」
元気に走ってた子供達が動かなくなった俺を心配して寄ってきた。小さい子が大体俺の身体に乗っかって、年長組が起こそうとしたタイミングで一網打尽にしてやった。
「つーかまえた!俺の勝ち!」
みんなちょっとずつ掴んでるしお互い絡まって逃げ出せないだろう!施設でチビ達相手に一回だけ通じる技だ。
「おまえずるいぞ!」
「心配したのに!」
1つだけ欠点がぁって大抵年長組の機嫌を損なうんだ。可愛いなぁ。
「だってみんな俺ばっか鬼にするんだもん。おあいこでしょ。あははっ」
楽しい!こんなに楽しいのいつぶりだろう。
「ノートンさんおなかすいた~」
「ぼくも」
「おれも~」
遊びが一息ついたので子供達も気持ちが切り替わったみたいだ。そういえばお昼時だった。
「じゃあそろそろ帰ろうか。」
ノートンさんがベンチから立ち上がった時だった。
「う、うぅ……」
急に苦しみだしてベンチに座り込んでしまった。
「大丈夫ですか!」
みんなであわてて駆け寄った。
「いやぁすまない急に胸の辺りが。うぅっ」
胸を抑えて苦しそうだ。
「どうしましょう、お医者さんとか病院とか行きますか?」
手を取って背中をさすってみる。子供達も心配そうだ。辺りに視線を走らせると遠くに赤い騎士服が見えた。
「ノートンさん、あちらに騎士服の人がいます。僕呼んできます。」
駄目でもクラウスのくれたカードを見せれば……そう思ったのに行こうとした手をグイッと引かれた。
「い、いや、いつもの事だから薬を飲めば大丈夫だ。しかし置いてきてしまったんだ。悪いがトウヤくんウチまで肩を貸してくれんか。」
「わかりました、僕に捕まってください。」
そういったものの苦しそうでやっぱり心配だ。
年長さんの男の子に俺のかばんを頼みつつ本当に騎士の人とか呼ばなくて大丈夫か聞いてみた。
「うん、多分大丈夫。」
少し考えて男の子が答える。それなら俺が慌てて子供達を不安にさせてはダメだ。
「わかった、じゃあ道案内よろしくね。」
おじいちゃんだけどノートンさんはやっぱり大きいから支える俺の頼りないったらない。ヨロヨロしながら肩を貸して子供達についていくとわりと予想通りの場所に来てしまった。
今日の最終目的地、孤児院だ。
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